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紫の灯  作者: 志水燈季
来店
14/57

14.童話:「少年のわ」

 都築紫(つづきゆかり):このお話の主人公。かつて放浪し、灯に辿り着く。

 荻田司(おぎたつかさ):灯の店長、(みやび)の息子。



 ――本当は、ただ…ただ…

  

  そこにそのひとはやって来ました。そのひとは、みすぼらしい格好をした少年のようにも見えました。

  ふらふらとしていて、とうとう道端(みちばた)に倒れてしまいましたが、あまりにもその少年はよごれていたため、誰もかれもが遠くから見ているだけで、声をかけるものなどおりませんでした。


  ところが、その少年にたった1人だけ声をかけるものがおりました。

 「ねえ、私の家に来ない?」

  そのひとはとてもきれいな女の人に見えました。

  少年は、その女の人をチラリと見ただけで何も答えませんでしたが、女の人は少年を背負い、家へと連れて帰ったのです。

 

  女の人は少年をきれいにし、けがも完全に治るまでかんびょうをしてくれました。

  あるとき、少年は女の人に問いかけます。なぜ、自分にこんなに親切にしてくれたのかと。

  女の人は、微笑(ほほえ)んで答えました。

 「わたしは、あなたに助けられたことがあるのです。その(おん)をかえしたかったのです」


  続けて言いました。「ありがとうございます。昔、わたしを助けていただきまして」頭を下げ、その手にはきれいなタオルがありました。

 「……!」少年は思い出しました。昔、たしかにその女の人に逢ったことがあると。たくさんけがをしていた彼女に。

 

  だけれど、そう大したことはしていないのだと、少年は思いました。ただ、「大丈夫?」と声をかけ、その時持っていた小さなタオルをあげただけ。

  それなのに、女の人は、覚えていてくれた。それどころか、礼を言い、自分を助けてくれた。


  少年は知っていました。自分を助けることを()めたほうが良いと、言うひとたちがいたことを。少年は気付いていました。自分を助けてくれた女の人は、ここではとてもみんなに愛されていることを。


 「どうして、僕を助けてくれたんですか……?」

  少年が口を開くと、女の人は(おどろ)いたような顔をしました。

 「僕はよそものです。こんな僕を拾ってみなさんに心配されるのは当たり前です。それなのにどうして……」少年は言葉が続きません。


  女の人は、笑って言いました。

 「わたしにとっては、あなたを助けることが当たり前なのですよ?」

 「……」それでも少年は何も言いません。いえ、言えませんでした。伝えたいことはありましたが、話しても、それは上手に彼女に伝わるとは思えなかったからです。

 

 代わりに少年は別のことを口にしました。自分がどこにいていいのかわからなかったことを。やがて、いやだと思うようなことになったのだと。


  くわしいことを話そうとは少年はしませんでしたが、女の人は言いました。

 「わたしははじめは、あなただとは気づきませんでした。でも、助けようと思いました。そのことにわたしは後悔(こうかい)はしません。あなただと気付いたときはうれしかったです。これからもここにいてくれませんか?」


 少年はここにいていいと、やっと思いました。


 ~fin~



 ――どう言っていいのか判らなかった。


 「……何コレ?」

 「何って、童話。形式」

 

  半ば呆然とする俺とは対照的にサラリと答える司。

  水人の話を聴かされたその翌日、休みの俺にその薄い本を持参した司は、「取り敢えず、読んでみろ」と言いながら、俺に押し付けた。

 ――上部の文章はその本の内容である。


 「……形式って?」

 「素人が書いたんだよ、その文章。ラストに書いてあるだろ。――確か、絵の方も、素人の筈」


  ラスト……ラスト……。

  ページを更にめくると後書きとして載っていた。


 

  初めまして。「少年のわ」を読んで頂き、誠に有難うございます。これが私の初の作品でございまして、お恥ずかしい限りですが、一応童話、という形になっただろう、と思います。

  さて、このお話に出てくる「少年」と「女の人」ですが、ここでは人間ということになっておりますが、実は、「少年」は「木の精霊」、「女の人」は「水の精」という形でもあるのです。本当はそこまで描ければ良かったのですが、私の無きに等しい筆力では到底困難ということでこの様な形に落ち着いております。

 以前、森が消えれば海も死ぬ、というお話を読みました。そして、その森は雨が降らなければ育ちませんし、その雨は森を通って海に流れ着く、と思い、めぐりめぐっているのだなあ、と思ったのがこのお話のきっかけでした。

 更に、申し上げますと、水は生き物にとって無くてはならないものですから、実は「女の人」も、中々に立派な方、という風にしたかったのですが……。いや、伝わりにくくて申し訳ございません。まあ、たまに1人で走ってしまうところもありますから……そこは「少年」がカバーしていくでしょう。

 では、そろそろ失礼をさせて頂きます。最後になりましたが、この本に携わって下さった全ての皆様方、厚くお礼を申し上げます。読者の皆様もどうか、楽しんで頂けたでしょうか。怒った方もいるかもしれませんね。

 あなたはどうお感じになったでしょうか。



 「……で、これが何?」

 「だからあ、水人の話。昨日話しただろう?誰かが言い出したんだよ。”似てる”ってな」


  



 

読んで下さった方ならお気づきかと思いますが……。はい、この童話?は、私の創作です。後書きに書いてあるのは大体、本当です。

結構長くなってしまい、間に紫と司を挟んだだけで、ほぼこの童話で占められてしまっています。本当は前回削った部分を今回書くつもりでしたが繰り上げでお話の方を先に書いています。次回でやっと書くと思いますので、どうか今回はこの愚作で勘弁を願います。

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