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紫の灯  作者: 志水燈季
来店
13/57

13.話を聴く。

 都築紫(つづきゆかり):このお話の主人公。かつて放浪し、灯の調理担当となる。

 荻田司(おぎたつかさ):灯の店長、(みやび)の息子。



 ――何となく、感じてはいた。そのおかしさに。

  気付きたくは、なかったが。



 「ちょっとさ、僕の部屋に来てくれない?」と、司に頼まれたのは、何とかその日の仕事が終わってからだった。

 「頼むよ、紫君。手伝ってほしいことがあるんだ」

  俺が心底嫌そうな顔をしたのだろう。司が低姿勢で頼んできた。勘だが――これは、断れないパターンだ。溜息をつきながら了承した。全く……何だっていうんだよ。



 「……何だよ、これは」あっちこっちに折り紙の山。ここは幼稚園か?

 「主梧室(しゅごしつ)で、パーティーやるんだ。その準備の真っ最中」

 「……何で、お前が?」

 「……?僕そこで働いてるからだけど?」

 「え!?」……何してんのかと思ったら。

 「という訳で、手伝って」


  有無を言わさず、頼むというより命令じゃねーか。と、心の中でつっこみながら――どうせ、聴いてはくれないので――仕方なく手伝うことに。


 「今日はさー、あの()凄かったよね。親父じゃないけど見てて気持ち良かった。うん、拍手喝采したい気分だった」

 「……」


 ――いい加減にしろ、っつてんだよ!あんたら何様!

  不意に司が呟いた一言がまた俺に思い出させる。あの、少女の怒りを。――何でなんだ?何で――。


 「本当、もう少しで俺が殴りかかるところだったからね。忙しい時の手伝いとはいえ、店の人間だけど、確実に。でも、転んだとは。なんか床濡れてたしね。ちょっといい気味」


  若干、吹き出した司。余計解らなくなる。――何で。


 「何で、何でなんだよ!お前ら、何考えてんだよ!あいつらの言ったことって普通だろ、当たり前だろ!?どっから来たかも判んない、どんな事してきたかも判んない、そんな奴招いて、雇って、料理作らせて。一体何考えてんだ!?権力を持ってるなら持ってるらしく――」


  あの日の温嗣(ただし)の言葉が蘇る。


 ――君には何らかの事情があるのは判ってる。


 ――解ってないだろう!俺の過去(こと)なんか知らないくせに。知らないからそんな事言えるんだ。知ったら最後、よそよそしくなり、常に俺を見る度、気にするのだ――。



 「気にしないよ、彼らは」

 

  突然、立ち上がり下を向きながら吐き出した俺を司が穏やかに受け止めた。

  俺が司の方に視線を上げると、司はそれを頷いて受け止め、さらに続ける。


 「っていうか、気にするんだったら、俺の事も気にしてる。でも、気にしない。彼らはそういう人たちだから。――何か昔、そういう本があったなあ――水人(すいびと)にそういう事を()くだけ無駄だから。だから「水人」なんだし」

 「……?」

 

  

 「ねえ、水人って、今までに何人逢った?」

 「……え?」

 「いーから!」


  本当、強引だなあ。溜息をつきながら、名前を挙げていく。

 「まず、黒瀬夏摘(くろせかつみ)だろ?白石文人(しらいしふみと)羽鳥満月(はとりみちる)藤原匠真(ふじわらたくま)。あと今日逢ったのが、雨宮晴輝(あまみやはるき)羽柴穂花(はしばほのか)氷川恵(ひかわめぐみ)相葉昴(あいばすばる)。あー、あと五島万海(ごしままい)……か?」

 「ふーん、水人(せい)か。ほかの水人は?」

 「え?……あ」

  今、思い出した。そういえば水人って、周囲の人間も入るって言ってたっけ。

 「もしかして、一人(かずと)や、温嗣、藤原達人(ふじわらたつひと)も、入る……のか?」

 「ん?そうそう。じゃあ、大体の水人には逢ったって訳だ。――それだけ逢えば取り敢えずの説明は出来るな」

 「説明?」

 

  (いぶか)しむ俺に司は微笑をしながら話を続ける。


 「うん。どうやら君は水人についての基本的情報が欠けてるみたいで。というか、彼らは気にしないけど、周りが大いに気にする事を知らないみたいだね」

 「……え」絶句。

 

 「一応、頭に入れておいて。うーん、どこから説明しようかなあ」


  気の滅入っていく俺。それとは対照的に心なしか楽しそうな司。


 「ここ、詞艶(しづや)市は小、中、高校まではエスカレーター式でね。とは言ってもちゃんと、高校受験はあるけどね。出身校は一応問わない。でもレベルの高いとこは、小学校から既に高い教養を学ばせているから、編入生よりは断然有利。だから、大半の生徒はそのまま小学校から高校までは進んでいくのが通例。で、大学だけ分離するんだ、さすがにね。……と、ここまでは良い?」

 「小学校入学時には試験とかある訳?進学校みたいに」

 「無い!」即答の司。


 「1つの小学校卒業生が、1つの中学校に入学し、皆、同じ高校を受験して、入学する、っていうこと。……解った?」

 「つまり、早い話が小学校の同級生と、高校の同級生は……ほぼ同じ?」

 「そういう事!しかもクラス替えが一切無い!」

 「……はあ!?」おいおい、そんな話が在るか。

   

  ここで、司は一息つき、さらに続ける。

 「詞艶の中で最もレベルが高い、と称されるのが(ひいらぎ)大学。街一番の文武両道が集まり、そこを卒業するだけで、エリート中のエリートと評され、一目置かれる存在となる。詞艶市立来樹(こだち)柊大学、と言えば誰もが認める一流の大学、という訳さ」

 「はあ~」大学どころか高校すら出ていない俺からすると雲の上の存在って訳だ。

 「そして、その系列に椿(つばき)小、(えのき)中、(ひさぎ)高校が属する。木へんに春、夏、秋、冬の学校は個々でも名門と称される」

 

 「……」――何か聴いたことがあるような学校名が……。

 「そんな中、かつてないほど成績優秀なクラスというのがあってねえ。現在の榎中2年1組の生徒達になるんだ。高校も誰1人欠けることなく余裕でいく、って言われてる」

 

  ……や、やっぱり……。

 

  司はニッと笑って言った。

 

 「つまり、水人のクラスって訳さ」 

  

今回は元ネタが長すぎるので区切ることに。どこで区切ろうか迷ったら肝心な話が書けず終い。ちょっと残念です。前回から掲載を月に2回にしようと頑張っておりますが、いつまで続くか……。ともかく、早く先延ばしにした話を書き上げたいです。

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