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紫の灯  作者: 志水燈季
来店
12/57

12.2通りの声

都築紫(つづきゆかり):このお話の主人公。かつて放浪し、灯の調理担当となる。

皆川円(みながわまどか):灯の接客担当。

荻田雅(おぎたみやび):灯の調理担当兼店長。


水人(すいびと)詞艶(しづや)市立来樹榎(こだちえのき)中学2年1組の生徒を指す。

色上(しきがみ):全部で4つの家柄があり、詞艶の経済のトップに君臨する。



――人って何に重点を置くんだろうね。



 「……え、やっぱり?」

 「そう!達人(たつひと)君は、色上藤原(ふじわら)の長男。間違いなく、跡を継ぐでしょうね」

 「はあ~」


  感心する俺をよそに円の説明は続く。


 「(ちな)みに万海(まい)ちゃんは、色上五島(ごしま)の娘さん。達人君の婚約者、としての方が名が通っているわね」

 「……え!?」……ただの中学生かと思ってたのに。

 「――それで、あの扱い?!相葉縁(あいばえにし)に良いように使われてたぞ」

 「あー、それは2人とも水人だから」

 「え?達人は年上だろ?匠真(たくま)の兄なんだから」

 「いや、そういう意味じゃなくて」


 ――じゃあ、どういう意味?

  と、訊こうとしたが訊けなかった。団体客が入って来たため円も俺も強制的に仕事に戻らざるを得なくなってしまったからだ。

 

 ――そして、それを皮切りに瞬く間に夕方から夜に掛けてのピーク時に突入してしまった。――そして、その最中、それは起きた。


 ――あ、達人。

  殺人的な忙しさの中、ふいに達人の帰っていく姿が見えた。――万海もいただろうが、人ごみの中探している余裕もなかった。――あれが、この街のお偉方の1人になろうという少年。ピンと来ない……。まあ、もう既になっている奴がアレだもんなあ。

 温詞(ただし)の姿が浮かび、俺はふと息をつく。――間もなく、手だけは動かし続けていた。



 「……あーあ、聞いたかよ?これ作った奴。都築紫だぜー、ゆかり。女みたいな名前だよなあ、ほんと。女みたく弱っちいんじゃねえ?」

 「確かになあ、料理出来ます、なんて完璧に女。しかもどこから来たかも言わねえなんて。案外すげえ後ろ暗い過去持ってたりして、アハハハハハ」


  

  全てが止まった。



  ように感じた。


  動かない。足も、あれだけ動かし続けていた手も。とにかく身体全身が止まった。目も焦点が定まらず、視界が歪んでいた。


 ――あれ?俺何してたんだっけ?


  ああ、料理。料理しなくちゃいけない。俺にはこれしかない。


 ――料理出来ます、なんて完璧に女。

  セリフがヨミガエル。

 

 ――倒れる!

  

  カシャーン。


  慌てて掴まろうとしたため、台が揺れ、器具が落ちてしまった。


  ひろ……ひろわなくちゃ。


  俺が床に(かが)んだ、その時だった。


  

  ガタン!ガシャン!――何かが色々ぶつかり合った音。そして、


 「フーッ。……いい加減にしろよ」怒りを秘めた声。

 「いい加減にしろ、っつてんだよ!あんたら何様!人を馬鹿に出来るほどご立派な生き方してきたっつーのかよっ!ええっ!?逆だろ!名前は付けた大人の功績だ。あんたらは、そんな大人に頼るだけ頼って、自分(てめえ)は何してきた?!都築さんはこんな美味い飯を作れる腕を持ってる。あんたらはそれを(ひが)むだけ僻んで、人を陥れるだけ陥れる。それがあんたらの言う「ご立派な人間」ってやつかよ!そんな奴、こっちから願い下げだ!」


  俺はやっと、顔を上げると、

  少女、だった。まだ幼い、小学生くらいの女の子。いきり立って、少し席の離れた年の近そうな男子2人を睨みつけていた。


  ガタンッ

 「何だと!この野郎!横からクチ入れやがって。こちとら楽しい気分で飯食ってたって言うのによお」

  男子の1人が少女のまくしたてた勢いに押され気味だったが盛り返すと(椅子を倒しながら)立ち上がりそう言い放った。

  だが、少女の方も負けてはいない。


 「それはこっちのセリフだ!折角楽しみにしてた飯食べに来て!楽しんでたっていうのに、つまらないヤジ飛ばしやがって!どこが女らしいだ、こんな下らないことする奴らよりよっぱど男らしいわ!あんたらの方が情けないわ!折角美味い飯食ってんだから、静かに食わせろ!」


 「何だと!情けないだあ!よくも言ってくれたなあ」


  1人が少女の方へ歩み寄ろうとした、まさにその瞬間、


 「うわっ」


  少年が姿を消した。――いや、そうではなく。実は少女が怒りを込めて口を開き始めた時点で、この店内は物音1つしない――少女の怒鳴り声以外何の音もしない状況になっていた。客が全員、3人の少年少女に注目していた。その、少年の1人が消えたのだ。みんなどうしたのかと、周囲に集まり始めた。そのうち、誰からともなく笑い出し、店内は笑いに包まれた。


  そんな中、


  パンッ、パンッ、パンッ。


  やけに響く、手拍子を叩いた奴が1人――。


 「はいっ、どうもありがとう、言いたいことを全部言ってくれて」

  雅だった。少女に礼を述べた後、客を下がらせた――。

  

 「!?」

  俺は、その時気が付いた。というか、見えた。消えた少年が机の脚におっかかっていたのが。――転んだのだ。


  雅は少年に視線を向け、


 「僕もよく名前馬鹿にされたなあ、――君みたいな奴らに。この店に来るなら紫の料理も食べてね。そうでなければ……」


  一旦、言葉を切ってそのまま――。


 「今すぐ、帰って。そして、もう来なくていいから」

  と、笑顔で続けた。


  少年達は――他にも何人かいて、全員事の成り行きを見つめていた。その内の1人が、


 「おい、金はどうするんだ?」

  

  と、訊いたが全員立ち去ってしまっていて、残ったその少年が溜息をつきながら、お金をきっちり払っていった。


  そして店内は静寂に包まれたが――、


 「すいません、お替わりお願い出来ます?」


  少女の弟らしき連れの――いたのだ――その一言で、店内は元通りの騒がしさに戻っていった。


 

    

どんどん長くなっていくような気がします。元々が短すぎたのですが…。

お陰で予定より繰り上げて終わらせています。でも、今回の話は絶対外したくなかったので、安堵してもいます。さあ、いよいよ彼らの補足に入りますかねえ。

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