表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫の灯  作者: 志水燈季
来店
11/57

11.ある日の昼過ぎ

都築紫(つづきゆかり):このお話の主人公。かつて放浪し、灯の調理担当となる。

皆川円(みながわまどか):灯の接客担当。




 ――それは、温嗣(ただし)との初対面から、暫く経った――正確には2週間程経過した――とある日の夕方の事だった――。


 ――と、その前に。


 「いやー、今日の忙しさは何だっつーの!何で、如月(きさらぎ)のヤツいねーわけ!」

 「ほら、今日、椿(つばき)の卒業だろぉ!それで」

 「っかー、良いよなあ、如月様は。どんな日でも、私用で抜けられて」

 「全くだ。そのくせ俺らには例え、お葬式でも良い顔しねえんだよなあ」


 ――俺はやっと一段落ついたところで、大声で愚痴を言いまくっているサラリーマン風の男2人の会話を聞くともなしに聞いていた。何しろ、ここ、灯の飯時(めしどき)の忙しさといったら半端ない。俺は専ら調理専門だが、――この物語には一切関係の無い――アルバイトなども駆り出され、戦場と化していた。それが過ぎ去り、やっとのんびりと――調理場だが――楽な格好で(くつろ)いでいたわけだ。


 ――卒業ねえ、3月だなあ、もう下旬だが。俺にとっては放浪を卒業する月となった。――そういえば、放浪を始めたのも3月だった。――卒業する日が来るとは思わなかったが……。


 「ゆーかりくん!」

 「!?」


  過去に(ふけ)っていた俺の背中をドンと勢いよく叫びながら押したのは、ニカッと笑う円だった。


 「紫君、暇そうだねえ」

 「……あんたは元気そうだな」

 「お疲れのところ、悪いんだけどさあ、ちょっと頼まれてくれる?」




 「失礼します、ふきん、お取替えに参りました」

 「貴方が都築紫さん?ごめんなさい、どうもありがとう!」


  その少女は俺からふきんを受け取るなり、少し汚れた台を綺麗に拭き出した。

 ――へえ、上手いもんだな。


  その作業に見惚れている間もなく、台はあっという間に綺麗になった。


 「さすが、テルちゃん。理香(りか)ちゃん、色々やったのに、上手いもんだな」

 「慣れです」


  さらりと返事を返した少女を俺は眺めながら、首を傾げていた。

 

 ――テル?リカ?どっかで聞いたような……。


  少女はこちらを向き言った。

 

 「カッちゃんの言ってた通りの人ですね。都築紫さん。私、雨宮晴輝(あまみやはるき)。雨の宮殿で「雨宮」、に、晴れが輝くで、「晴輝」。凄い名前でしょう。テルって呼んでね。皆そう呼ぶから。詞艶(しづや)市立来樹榎(こだちえのき)中学2年1組――つまり水人生の1人です」

 「――え?――あ!白石一人(しらいしかずと)の幼馴染と、その娘!」

 「そうです、私のことでーす。雨宮理香子(りかこ)。理由の理に、香りに、子供の子で、理香子です。よろしく」

  と、少女と女性が同居しているような、確かに若い母親が自己紹介した。


  ていうか、先刻変なこと言ってなかったか? 

 

 「1つ訊いていいか?」

 「どうかしたか?」応えたのは同席している別の少年だった。「あ、ああ!俺の名前かい?俺は羽柴穂花(はしばほのか)。同じく水人生の1人さ」

 「いや、何かそこじゃないみたいだな」口を開いたのは同じく同席しているまた別の少年だった。――灯の奥にある、座敷の1つであるこの部屋にいるのは計6人である。

 「――あ、あのさあ、コダチエノキって何?」



 ――外したか?

  見事に全員沈黙してしまっている。

 「……聴いてないのか?誰からも?テルが初?」

 「……ああ」

 「……へえ。まあ、「水人」で通るからな。今更名乗らない。――ああ、俺は氷川恵(ひかわめぐみ)。氷の川に、恵まれる――ただ、それだけ。「川」は三本の川。――で、説明すると、「来樹榎」というのは俺らの中学校名のこと、です。ごん偏に司の「詞」に、艶やかで「詞艶」。市町村のここは市。で、「春が来た」の「来た」に、大樹の「樹」で、「来樹」。ここの地区。――ここまでも聴いてなかった?あと、榎は一文字の榎。木へんに夏の。中学校のこと。で、「詞艶市立来樹榎中学校」が正式名称」

 「……はあ」


  そう言えば、聴いていなかった。――地名も、学校名も。


 「いやー、一応詞艶以外から来た人だというから正式に言ってみたけど。流石にちょっとびっくりした」

 「でも、確かに言わないものねえ」

 「俺らが中2だってのは知ってた?」


  3人が次々に喋り出す。


  俺は頷きながら、


 「夏摘(かつみ)がそう言ってた。――初対面で」

 「成程」やっと口を開いた6人目の少年。って、俺を除くと今5人しかいない。 

 「お前、未だ食ってたのかあ?」

 「今、食い終わったんだよ、穂花。――ああ、俺は相葉昴(あいばすばる)。同じく水人生の1人です」

 「はあ……」


  突然自己紹介をしたスバル。――と、そこへ。


 「ただいまー、ちょっとお客さん来てるよ」

  と、中年の男が入ってきた。――って、先刻までいた奴。いつの間にいなくなってたんだ?

 「お客さん?」とは、テル。


 「お邪魔するよ。――やあ、都築紫さんですね。僕は藤原達人(ふじわらたつひと)匠真(たくま)の兄です」

 「私は、五島万海(ごしままい)。水人生の1人です。よろしくお願いします」


  見るからに穏やかそうな2人が入ってきた。――あれ、……って……。


 「ほらほら2人とも入って入って~。あ、僕は相葉縁(あいばえにし)。昴の父親です。あー、達君(たっくん)、お茶、注いで!」


 「はいはい。――というか、縁さん、自己紹介まだだったんですね……」

 「ん?そうなんだよ~。する間もなくトイレ行きたくなってさ~」

 

  ガハハって感じで笑いながら縁は漢字の説明をした。(あとの3人も。)

 

  

   



思ったより前半が長すぎて今回も長くなってしまいました。一気に9人は大変です。その内1人を除くと全員初登場ですから、人物紹介だけは短くなりましたが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ