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紫の灯  作者: 志水燈季
来店
10/57

10.本音は外に。

 都築紫(つづきゆかり):このお話の主人公。かつて放浪し、灯の調理担当となる。

 皆川円(みながわまどか):灯の接客担当。

 荻田雅(おぎたみやび):灯の店長兼調理担当。

 羽鳥温嗣(はとりただし):あっけらかんとしているが、一応色上羽鳥の総帥。

 羽鳥満月(はとりみちる):温嗣の一人娘。水人の1人で強気な性格。

 白石文人(しらいしふみと):水人の1人で文武両道な学級委員。

 白石一人(しらいしかずと):実年齢より若く見える、文人によく似た父親。

 

 水人(すいびと):文人、満月が在籍するクラスの通称。現在中学2年生。

 色上(しきがみ):全部で4つの家柄があり、この街の全ての経済のトップの総称。




 ――やっぱり、こうなるんだな……。

 

 「いやあ、美味しかったあ。ありがとう、紫君~」

 「それはそうでしょう~」


  区切られた言葉、全ての語尾を伸ばす温嗣。それに負けじと対抗する(?)円。

  やれやれ……。こいつらって揃いも揃って……。俺の緊張感を片っ端からほぐしにかかってる。

  何なんだろう……、こいつらは。


 

 「匠真(たくま)君も居れば良かったのにねえ」

 「用がある、って帰っちゃったものねえ」

 

  温嗣の顔を見て微笑みながら呟いた円に、父親を眺めて苦笑しながら答える満月。その言葉で満月の方を向いた 文人が(たず)ねる。


 「そういえば、何で満月と匠真が一緒に居たんだ?」

 「我が親友と、匠真(やつ)の兄貴が一緒に買い物出かけたのよ、どうしても外せない用事とかで。最初4人でいたんだけどさ。「都築紫」さんについて話していたところだったから、先に顔を見に来たの。噂してたら見たくなって」

 「……紫さんはニュースになった動物園で生まれたばかりの赤ちゃんか」

 「――まあ、そんな感じ!」


  ――そこ、思いっきり肯定かよ。っていうか!どういう会話だ!噂って、どんな噂だよ!

   もう、突っ込む気にもならない。


 「つまり、本当だったら、3色上の子供達が4人揃ったってことだねえ」

 「――え?」

 「さあ、都築紫君。本題に入りましょうか?」

 

  ――来た。

   分からない。何を言われるのか。

   自分の身体を恐怖が支配し始める。みるみる内に恐怖が身体を硬直させていく。

   恐い。今までには感じたこともないモノ。――これは、つまり。


   こちらに身体を向けて微笑みながらその口が開くのを、俯きながらも俺は待っていた。


 「紫君。君には何らかの事情があるのは判ってる。――んだけどさあ、僕はそんなのはっきり言ってどうでも良いんだよね。雅君も、これまたどうでもいいみたいだし。僕は雅君の直感というか、彼が決めた事は基本奨励するつもりでいるし」


  ここで、彼は一息ついて、


 「だから、頑張って、紫君。これからよろしく(・・・・・・・・)!」

  と言った。


  じわじわとほぐれていった。俺の強張った身体が。その一言で。

  やがて自由になり、上げたくても上げられなかった顔を上げた。――その先には、


  全員の笑顔があった。


 「さて、帰るか。ご飯も食べたし」

 「その前に、雅さんに謝っておいて下さいよ」

  

  あっさりと席を立った温嗣に一人が、咎めるように言う。

  

 「ああ、そうだった!雅くーん、今日は水人限定にしておいてくれてありがとう!ごめんねー」

 「はーい。円ー、掛けてあるから閉店後にでも戻しておいてー」

 「了解しましたー」


  雅は奥にいるので、全員叫びながらの会話である。


 「――え?戻すって?」やっと我に返った――今まで呆然としていた。――俺が訊く。と。

 「百聞は一見に如かず。ちょっとこっち。来て」

 「――?」


  円が手招きしながら外に出て行く。


 

 「……え!?」


  扉には、〈本日貸切〉と、書いてある札が掛かっていた。


 「実は、今、ここに来るのは、水人たちだけだったの。人多いとやり辛いし……。だから、水人たちの中でも結構遠慮したみたい。文人君はカッちゃんに、見届けろ、って言われたって。いくらピークが過ぎたからって、お客様がいらっしゃらないと思ったわ。文人君にそう言われて理解したけど。いつの間に札かけたのかしら」

 

  唖然。道理で奴らしか居ないと思ったわ……。

 ――すると、あの2人が出て来て、俺の前に立つ。そして――。


 「やあ、紫君。ずっと、緊張していただろう?――良いんだよ、肩の力を抜いて。ここでは、その必要は無い。だって僕たちには……」


 「君が必要なんだから」

 

 「……」再び俺は下を向いた。そう告げた温嗣を、一緒に去って行く一人も見送らずに。


  言葉を噛み締めるために。

 ――何なんだろう、こいつらは。――何でこんなに、他人の言葉が……。――いつだって、俺を(えぐ)っていくだけのものだったのに――俺を――包み込む?

  ここに来てからずっとこの調子だ。

 ――ああ。 看板を見上げ俺は認めた。

  本当にここは「灯」だ。暖かく優しい場所。そしてそこを照らす人々。言葉。


 ――ふと、誰かの顔が()ぎる。

 ――なあ、少しの間だけで良い。俺を見過ごしてくれないか?

 

 ――例え、すぐに消えてしまうと解っていても。


 「さあ、紫君。帰りましょう」

 

 ――現実が、あの人が、来るまでは。


 「……ああ」


 ――ここに居たい。から。





温嗣さんの面接編を今回で終わらせよう!と決意したら、思ったより長くなりました。次回からは新たな水人を出していく予定です。少し補足しなくてはなりませんし……。

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