10.本音は外に。
都築紫:このお話の主人公。かつて放浪し、灯の調理担当となる。
皆川円:灯の接客担当。
荻田雅:灯の店長兼調理担当。
羽鳥温嗣:あっけらかんとしているが、一応色上羽鳥の総帥。
羽鳥満月:温嗣の一人娘。水人の1人で強気な性格。
白石文人:水人の1人で文武両道な学級委員。
白石一人:実年齢より若く見える、文人によく似た父親。
水人:文人、満月が在籍するクラスの通称。現在中学2年生。
色上:全部で4つの家柄があり、この街の全ての経済のトップの総称。
――やっぱり、こうなるんだな……。
「いやあ、美味しかったあ。ありがとう、紫君~」
「それはそうでしょう~」
区切られた言葉、全ての語尾を伸ばす温嗣。それに負けじと対抗する(?)円。
やれやれ……。こいつらって揃いも揃って……。俺の緊張感を片っ端からほぐしにかかってる。
何なんだろう……、こいつらは。
「匠真君も居れば良かったのにねえ」
「用がある、って帰っちゃったものねえ」
温嗣の顔を見て微笑みながら呟いた円に、父親を眺めて苦笑しながら答える満月。その言葉で満月の方を向いた 文人が訊ねる。
「そういえば、何で満月と匠真が一緒に居たんだ?」
「我が親友と、匠真の兄貴が一緒に買い物出かけたのよ、どうしても外せない用事とかで。最初4人でいたんだけどさ。「都築紫」さんについて話していたところだったから、先に顔を見に来たの。噂してたら見たくなって」
「……紫さんはニュースになった動物園で生まれたばかりの赤ちゃんか」
「――まあ、そんな感じ!」
――そこ、思いっきり肯定かよ。っていうか!どういう会話だ!噂って、どんな噂だよ!
もう、突っ込む気にもならない。
「つまり、本当だったら、3色上の子供達が4人揃ったってことだねえ」
「――え?」
「さあ、都築紫君。本題に入りましょうか?」
――来た。
分からない。何を言われるのか。
自分の身体を恐怖が支配し始める。みるみる内に恐怖が身体を硬直させていく。
恐い。今までには感じたこともないモノ。――これは、つまり。
こちらに身体を向けて微笑みながらその口が開くのを、俯きながらも俺は待っていた。
「紫君。君には何らかの事情があるのは判ってる。――んだけどさあ、僕はそんなのはっきり言ってどうでも良いんだよね。雅君も、これまたどうでもいいみたいだし。僕は雅君の直感というか、彼が決めた事は基本奨励するつもりでいるし」
ここで、彼は一息ついて、
「だから、頑張って、紫君。これからよろしく!」
と言った。
じわじわとほぐれていった。俺の強張った身体が。その一言で。
やがて自由になり、上げたくても上げられなかった顔を上げた。――その先には、
全員の笑顔があった。
「さて、帰るか。ご飯も食べたし」
「その前に、雅さんに謝っておいて下さいよ」
あっさりと席を立った温嗣に一人が、咎めるように言う。
「ああ、そうだった!雅くーん、今日は水人限定にしておいてくれてありがとう!ごめんねー」
「はーい。円ー、掛けてあるから閉店後にでも戻しておいてー」
「了解しましたー」
雅は奥にいるので、全員叫びながらの会話である。
「――え?戻すって?」やっと我に返った――今まで呆然としていた。――俺が訊く。と。
「百聞は一見に如かず。ちょっとこっち。来て」
「――?」
円が手招きしながら外に出て行く。
「……え!?」
扉には、〈本日貸切〉と、書いてある札が掛かっていた。
「実は、今、ここに来るのは、水人たちだけだったの。人多いとやり辛いし……。だから、水人たちの中でも結構遠慮したみたい。文人君はカッちゃんに、見届けろ、って言われたって。いくらピークが過ぎたからって、お客様がいらっしゃらないと思ったわ。文人君にそう言われて理解したけど。いつの間に札かけたのかしら」
唖然。道理で奴らしか居ないと思ったわ……。
――すると、あの2人が出て来て、俺の前に立つ。そして――。
「やあ、紫君。ずっと、緊張していただろう?――良いんだよ、肩の力を抜いて。ここでは、その必要は無い。だって僕たちには……」
「君が必要なんだから」
「……」再び俺は下を向いた。そう告げた温嗣を、一緒に去って行く一人も見送らずに。
言葉を噛み締めるために。
――何なんだろう、こいつらは。――何でこんなに、他人の言葉が……。――いつだって、俺を抉っていくだけのものだったのに――俺を――包み込む?
ここに来てからずっとこの調子だ。
――ああ。 看板を見上げ俺は認めた。
本当にここは「灯」だ。暖かく優しい場所。そしてそこを照らす人々。言葉。
――ふと、誰かの顔が過ぎる。
――なあ、少しの間だけで良い。俺を見過ごしてくれないか?
――例え、すぐに消えてしまうと解っていても。
「さあ、紫君。帰りましょう」
――現実が、あの人が、来るまでは。
「……ああ」
――ここに居たい。から。
温嗣さんの面接編を今回で終わらせよう!と決意したら、思ったより長くなりました。次回からは新たな水人を出していく予定です。少し補足しなくてはなりませんし……。