00.青年と呪われた少女の運命譚のおしまい
屋敷は昼ごろまで燃え続けて、そして多くの仲間たちの命を奪っていきました。朝早い人が多いとはいえ、夜明け前からの大火事で逃げ切れなかった人も多かったようです。
シャルロットやエドガー、そしてロレッタの遺体はいずれも見つからなかったと聞いています。背格好が似ている人が多くいたため、シャルロットとエドガーに関しては身元不明の死者の中に紛れ込んでいた可能性もありえないとは言い切れませんが……。
ベントリー伯は執務室で亡くなっていたようです。彼に関する醜聞は……、――聞き及んでおられましたか。普段は寝ているはずの伯があの時間、執務室にいたことが不思議だったのでしょう。
伯が黒幕なのではないか。
いいや自己犠牲をもって民衆を救ったのだ。
あの事件に関する醜聞のバリエーションには暇がありません。あの火災がどうやって起こったのかが未だにわからないのもその原因の一つでしょう。
――私が伯のことをどう思っているか、ですか。
……どうなのでしょうね。私がここでこうして生きていなければ、たまたま仕事をしていただけなのだと思ったかもしれません。……いえ、実のところ私は伯は何も知らなかったのだと信じていたいのでしょう。伯に雇われていた人間として、あるいはロレッタという秘密を抱え込んでいた戦友として。
――いずれにせよ、真実はもはや闇の中です。それを知る人間はみないなくなってしまいました。
そうです。これが、私の見てきた全てです。
……少しだけ、肩の荷が下りました。
これが、私の犯した罪です。私たちが隠してきた、伯の罪でもあります。あの日から8年もの間、私が隠れるようにこの別荘に住んできた理由でもあります。
――どうして話すのか、と最初に問われましたね。
――ええ、そうです。もう誰も彼女のことを覚えていないという事実に、私は耐えられそうもなかったのです。
他言無用にとお願いしましたが、……私にとってはもう、どちらでもいいのかもしれません。ロレッタのことを人々が語ることが、嬉しいような寂しいような。
これで、本当に私の話はおしまいです。
本当に、お疲れさまでした。そして、ありがとうございます。
お帰りになられますか。玄関までお送りしましょう。
――どうして私が笑っているのか……、それが最後の質問でしょうか。
決まっています。あなたに会えて、こうして話ができたからですよ、――。
その言葉と共に、私の意識はゆっくりと白く染まってゆきました。
何もかもが白くなっていく中で、あなたは私のことをどう思っているだろうかなんてことを考えながら。
体の隅々までが冷え切って、それでもなお心があたたかいことがとても幸せだなと思いながら。
あぁ、願わくばまたロレッタと会えますように――。