#18
真夜中。蓮とトーニョは二人きりで話し合っていた。
スノーやグレイは疲れて寝てしまったらしく、二人の男女は寄り添って寝ている。
「子供の頃……トウキョウで父に育てられ、戦争が始まってから……母に引き取られた。その後、父は戦争に……母も僕を引き取った数日後に死んだ。僕は……新ウイルスの被験者なんだ。……アンドロイドを凶暴化にする原因の一つのマイクロソフトウイルスの」
「それは初耳だ」
トーニョは興味津々な返事をした。もしこれがスノーなら逆の反応を示すだろう。
「僕は親を失って、どこにも行く当てがなかったから、孤児院に引き取られた。ある日、館長が僕を呼んだ。僕を引き取ってくれる人が見つかったってね。その人の顔はよく覚えていないんだけど……やさしくて、暗い瞳をした人だった。その後、僕は真っ白な空間につれていかれて……そこにはいろんな年齢の男女がいた。僕たちは簡易ベッドに寝かせられて、そこで初めて、僕たちは実験台なんだということに気づいたんだ。皆は嫌がったけど、抵抗の余地がなかった。白衣の男はなにかよくわからない注射をして、あなたたちはもう帰っていいと告げた。僕たちは解放され、その後平穏な暮らしを……」
「平穏な?」
「いいや。一人目の発症者がでたんだ。危険かもしれないということで、僕たちは隔離された」
「最後見たとき、その人は血を吐いて息絶えていった。その後、続々と発症者が出て……僕だけになった。白衣を着た男は、君はなにかが特別だ、と僕にいい聞かせた。その後のことがよく思い出せないんだ。一番肝心なところなのに……」
僕は悔しさのあまり、下唇を噛んだ。
トーニョはそんな僕の思いを感じ取ったのか、しばらくすれば思い出せるさ、と励ましてくれた。
「そうだな。じゃあ寝るよ」
「おやすみ」
そう言って蓮は隣の部屋に行ってしまった。
トーニョは薄暗い部屋で一人、ぼーっとしていた。
「やあ。ちょっといいかな」
突然、後ろから声をかけてきた男。譲司だ。
トーニョはこの男には注意しなければと思った。
人の良い顔をして、なにを考えているか分からないからだ。
「マイクロソフトウイルス。アンドロイドを凶暴化させた原因。それを人間に投与するとどうなるか?答えは一つ。人間も凶暴化する」
「それがどうしたんだ」
「蓮くん、だったけ?あの子も被験者らしいじゃないか。考えてるだけでゾッとしないか?あの子もいずれ、あいつらと同じ化け物になるんだ。いつ僕らを襲うかわからない」
「……」
「その前に早く始末した方がいいと、そう思わないか?」
するとトーニョは懐の銃をぬき、譲司の額に銃口を向けた。
「いいかげんにしろ。お前から殺されたいのか」
「いや、僕は意見を述べたまでだ。実際にやろうとは思ってないよ」
「じゃあ、早くうせろ」
トーニョがそう言うと、譲司は大人しく去っていった。
「由梨。君の言うとおりだ」
由梨のもとに戻った譲司は近くにあった椅子に腰を下ろした
「やっぱり」
「決まりだな」
「ええ」