#14
「浮かない顔だな」スノーが僕を見て言う。
「久しぶりに夢を見た」
「ふーん……」
「だけど、あまり良い内容じゃない」
悪魔の森で起きた、狂気的な殺人。レポートに記すにはあまりにも残酷で、思い出すと精神を蝕まれるような思いをする。だが、僕がそのことを思い出すことは少なかった。
「ここが戦場か?」
トーニョは明らかにがっかりしていた。
ここに兵士がいることはない。ここは、かつての戦場だったからだ。人が住んでいる気配はもちろん無く、緑もない。でこぼことした地面が地平線まで続いている。
「地球にこんなクレーターあったけ?」
僕は地面にいくつもの巨大な穴が空いているのを見て軽い冗談を言う。スノーは肩を竦めて「隕石の落ちた跡ならな」と言った。
「ここには地雷が埋まっているらしい。だが、次の街に進む道はここしかないんだ。避けて通るしかないだろうな」
トーニョはどこから持って来たのか、金属探知機を僕らに渡した。
―――次の街。その時、僕は疑問に感じた。どうして先に進む必要がある?
「おい、蓮。早くしないとおいてくぞ」
「え―――?」
どういうことだ……?
「目が覚めたかい?」
桐生氏はベッドに横になっていた僕に声をかけた。僕は頷き、ゆっくりと起き上がった。桐生氏は思い立ったように窓の傍の椅子に腰かけた。
雪が降っている外。部屋は薄暗いままだ。いや、どれだけ明るくても僕には暗く感じる。気持ちが沈んでいるからかもしれない。
「あの時……死んでいたら良かったのに、と思っているのかい?」
70を過ぎた老人は、たくさんしわを寄せ微笑んだ。
「世界は点と点と点で繋がっている。もしもこの世に三つの世界があるとしたら、我々は一つ目の点で生まれ、死ぬ。死んだら二つ目の点に行く。また死んだら、今度は三つ目。そうやって生きていく。ずっとその三つの世界を巡って行くのだ。なんと神秘的なことだろう」
僕には、この老人の言いたいことが分からなかった。―――いや、そうじゃない。分からなくなってしまったんだ。
僕はあの日を境に壊れてしまった。僕を元通り戻すことは不可能だった。
「もしも私が死んだら、君は悲しむか」
「……多分……いや、絶対悲しまないだろうね」
僕は皮肉った口調で言った。
すると、老人はにこやかに微笑んだ。
「そうか。お前は正直ものだね。ロボットよりも」
桐生氏は、仕返しといわんばかりに、僕のような皮肉った口調で言った。
僕はそれに対して言い返すことができなかった。
「あんたは一体何を企んでいるんだ」
弱った蓮の声は今にも消え入りそうだった。
外の世界に絶望している青年。目を離した隙にいなくなってしまいそうなくらい儚げではないか。
「君は特別だ。なにかが特別なんだ」
「僕は……」
桐生氏は諭すように言った。満面の笑みを浮かべて。
「君はまだ自分の特別さに気づいていない。でも、いずれ気付く時が来る。その時がきたら」
―――その時は僕があんたを殺す時だ。そう言うと、桐生氏は意地悪く笑った。
「そうだな。そうだろうな」
「僕は……おかしくなんかない。あんたが勝手に僕を精神病院に強制入院させたんだ」
「ああ。だから今日、君を迎えに来てあげたんだよ」
桐生氏は遠い目で僕を見た。
「君は被験者の中の生き残りなんだよ」
そう言って、老人は笑っていた。暗い影を落として―――。