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#12

夜。

 僕らは昨日のようにテントを張っていた。僕は寝たふりをしていた―――。

 どれだけ経ったのか分からない。はっと気付いた時には、人の気配がしなかった。……寝ていたのか。気を配っていたつもりだったが……。そういえば、身体がだるい。―――しまった、睡眠薬か! コーヒーに入れられていたのだろう。僕はテントから飛び出した。暫くして、外の暗さに目が慣れてくる。辺りを見渡すと、他よりも暗い部分があった。人影だ。一つは立ち姿で。もう一つは、地面に横たわっていた。

 「やっぱりあんただったのか」

 僕は人影に話しかけた。 





 『コーヒーいる? インスタントだけど』

 『あなたが涼介を殺したんでしょ!?』





 「あんたが彼らを殺した。―――加奈江さん」

 







 僕の言葉に反応するかのように、加奈江はゆっくりとこちらを向く。手にはナイフが握られていた。血が滴り落ちる。

 「どうして皆を殺したんだ」

 加奈江は、たった今殺した健悟の死体に目を向けた。何の表情も浮かべていなかった。

 「三角関係っていうやつよ」

 鋭い刃物のような口調だった。

 「……何も殺すことはない」

 「邪魔だったのよ。ただ私は優しく接してあげただけなのに……あの二人、随分私にお熱みたいでさあ。くくくっ。面白いから、遊んであげたわけ」

 「騙したのか」

 「騙した」彼は言葉を反芻した。それはまるで詩を口ずさむかのようで。

 「でも、私が二股かけてるってばれた時、涼介、私の家まで押し掛けてきて……本当、ウザかった」

 分からない。この女の全てが。

 「……だからといって、健悟を殺す必要はなかったはずだ」

 「私が彼らを殺したことに気付いちゃったみたいで、だから殺したの」

 「そんなつまらない理由で」

 「つまらなくなんかないわ。どうせ警察が探しにくるんだし、証言者がいなくなれば、私は捕まらずに済む」





 達也。

 牢獄で、彼女の手によって殺されたあげく、彼女に騙され続けた哀れな男―――。





 「私が別れようっていうと、涼介は私を殴って『殺すぞ』って怒鳴ったわ。私は必死に命乞いした。男って奴は単純ね。ちょっと演技しただけで簡単に許してくれる。彼はひどい束縛男だったわ。私は一刻も早く別れたかったのに。そんなある日、達也と出会ったの。彼は本当に優しくて。そのうち二人でデートをするようになった。でも、あの涼介のバカが見事にそれをぶち壊してくれたわ」

 今の加奈江は憎悪の塊だ。刃物についた血を、おいしそうに舌で舐めた。

 彼女がなぜこうも簡単に罪を認めるのか。

 ―――無論、彼は僕を生かして帰さないつもりだからだ、この森から。

 「あなたを巻き込むつもりはなかったわ。でも、涼介があなたを誘いたがった。真相を知ったあなたを生かしておくわけにはいかないわ。悪いわね、蓮くん」

 加奈江はナイフを振りかざす。月光は、銀色の刀身をよりいっそう不気味にさせた。避けきれる距離ではなかった。僕は死ぬ覚悟をした。けれど、いつまで経っても死に伴う痛みが訪れない。僕は恐る恐る目を開けてみた。

 「加奈江さん!!」

 彼女は息絶えていた。自らの喉を切り裂いて。

 彼女がどうして僕を殺さなかったのか。それは未だに分からない。それでも、惨劇は終わった。何とも言えない複雑な気持ちを僕に刻み込ませて―――。







 





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