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#11

涼介は死んでいた。ずたずたに体を引き裂かれた状態で―――。





 「涼介っ!」





 加奈江は彼の元へ駆け寄った。

 健悟は驚きに満ちた目を見開いていた。眼球は乾いていた。確認するまでもなく、彼は死んでいた。加奈江は健悟の足元で崩れ落ちる。

 「どうしてっ……! 涼介っ……」

 途方に暮れる加奈江を気遣いながら、健悟は肩を竦めて「この様子を見る限り、熊にでもやられたとしかいいようがないな」

 僕は恐る恐る死体を見た。体は無残にも傷だらけ。特に腹は腸が見えるほどに深く切られていた。

加奈江は険しい目つきで健悟を睨んだ。

 「熊なんて、いい加減なことをいわないで!!……そう。わかったわ。あなたでしょ!!!涼介を殺したのは!!!」

 加奈江の悲痛な叫びは森中に響き渡った―――。

 人が涼介を殺した?何故?何の目的があって?誰が?そんなの決まっているじゃないか。

 「ねえ、あなたでしょ!?」

 加奈江は喚き叫んだ。彼女は恋人を失ったあげく、これで森の出口を知る者がいないという絶望感に襲われ、取り乱していた。

 「落ち着け、加奈江。俺が涼介を殺すわけないだろう。それに、知り合ったばかりの蓮が彼を殺す理由もない」

 「そんな根拠もない理由で、熊にやられたって言うの!? そんなわけないじゃない、彼は殺されたのよ!!」

 「だからといって、俺たちの中に犯人がいるとは限らないだろう?」

 健悟の言うことはもっともだった。犯人がこの中にいるとは限らない、確かにそうだ。……可能性は極めて低いが。もしも、この中に犯人がいなかったとしたら―――。

 「あの人よ……。あの人が彼を殺したんだわ! 消えたと見せかけて彼を殺したのよ、そうに違いない!!」

 彼女が言う『あの人』。地底湖で消えた男のことだ。男が生きている? まさか、そんなはずない。

 「とりあえず、今までに起きたことを整理してみないか?」

 僕は何も分からないまま話を切り出した。彼らを落ち着かせるためには話し合いをさせることが一番だと思った。

 「まず、男が地底湖で消えた。どこを探してもいなかった、それは確かだね?」

 地底湖は暗かった。起伏の激しいところを歩いた経験がない僕は足元ばかりを見ていたので、本当に男がいなかったのか分からない。男が目の前にいたにも関わらず、声も出さずに死んでいく男が目の前にいたかもしれなかったことに僕は気付けなかったのかもしれない。

 二人は強く頷いた。「いなかった、どこにも」

 「そして、翌朝―――つまり今日―――涼介は……何者かに殺された」

 僕がそこまで言うと、加奈江は下唇を噛みしめて俯いた。健悟もやるせない表情を浮かべている。

 その時、僕はあることに気付いた。もしかしたら犯人はあの人に好意を抱いていたのではないか。

 「コーヒーいる? インスタントだけど」

 そう訊かれ、僕は頷いた。

 答えは夜になれば分かるはずだ―――。



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