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SUPER LUCKY # 4  作者: 澤群キョウ
 ■ 変わりゆく日常
17/60

17 契約者と超幸運の初めての約束

「二月十七日になったら、お前、どうなるの?」

 

 「契約をした」あの日に諌山家で、超幸運に定休日があるという説明は受けていた。ではその日、なにが起きるのか。

 問いかける想に、四谷は小さな声で話し始める。


「今使っている肉体を処理し、新しい姿で諌山想の近くで暮らせるよう、必要な手続きなどをしていく」

「処理」

「この肉体は九ヶ月前に死んだ、とある人間のものだ。誰かに発見された時に不自然に思われないよう、処置をしなければならない」

 少年はそこで、気がついた。


 来年の二月十八日にこそ、超幸運が真実だと証明される。


 これが最も確実な「超幸運という存在が真実か」の証になるだろう。

 宝くじが当たったとしても、それは偶然かもしれない。証明にはなるとは言い切れない。

 どのような形で新しい姿を現すのかはまだわからないが、それがナンバー4だと確信できれば、ようやく真実なのだと認められるようになる。


「ええと……」


 少年の頭には、次々と疑問が浮かんだ。なにから聞くべきか、知っておきたいことは色々とあった。

 はずが、思わず口をついて出てきた質問はその中でも最もしょうもないもので。


「じゃあこの部屋はもう、使えなくなるのか?」


 超幸運はいつも通りの顔のまま、静かに答えを示した。


「諌山想がどうしてもこの部屋にいて欲しいと望むならば、そのようにする。『四谷司』はこの部屋を出ていくが、その次に設定した新しいわたしがまたここに住み続ける。ただし」

「ただし?」

「違う人間が暮らし始めたのに、諌山想がかわらずこの部屋に入り浸るのは、ここへの出入りを知っている人間がいた場合、疑問を持たれる可能性がある」


  ――そりゃあまあ、そうだな……。そんな人間、いるかはわからないけど。


 しかし、誰がどこでなにを見ているかなどわからない。週に三、四日はここに来ているので、目撃者はそれなりにいるだろうと考えられる。

「お前、次はどんなキャラになっちゃうわけ? また同じクラスに潜り込んだりできんの?」

「利用できる肉体は数が限られているので、高校生として入り込めるかどうかはまだわからない」

「誰かが探してなくて、損傷が少ない、だっけ」

「積極的な他人からの捜索を受けておらず、死んでから時間が経っていない、肉体の状態がいいものだけが選ばれる」


 考えれば考えるほど、そんな人間がいるのだろうかと疑問が湧いてくる。この平和な日本で、そんなにもロンリーな死者がどれほどいるのだろう。

 そして、やはり未来はわからないのかという疑問が沸いてくる。超幸運は「確実ではない」と述べているので、この言葉を信じるべきなのかもしれないが。

「ちなみに、なんで二月十七日なの?」

「人類が一度滅んだ記念日だからだ」

 

  ――滅んだことなんかあったっけ?


 よく見てみれば、青白い顔は薄く笑っていた。

 契約者にはわからない、気の利いたジョークでも言ったのだろうか。


「お前なんなの。たまーに、笑うみたいだけど」

「諌山想が面白い人間だからだ」


 そんな評価をしてくるのは、この「超幸運」だけ。

 今までにされたことのない評価に、少年は顔をしかめてしまう。

「そうか?」

 四谷は目を閉じてまだ微笑んでいる。人間ではないというなら、面白さの判断の基準もどこかズレているのかもしれず、まあいいやと想は次の疑問をぶつけた。


「じゃあ次はいきなり爺さんとかの可能性もある?」

「ある。年齢、性別、人種など、どのような肉体を使うことになるかは当日になるまでわからない」

「え。マジで? さすがに赤ん坊とかはないよな」

「乳児では会話ができないので除外され、その土地で一人で生活しているのが不自然ではない肉体が選ばれる。更に現在は諌山想と契約をしているので、諌山想と交流があっても不自然ではない条件を満たした物にしなければならない」

「契約してない場合はもっと適当でいいんだ」

「われわれ超幸運は五つ。一年を迎えるたびに、契約者がいない場合は拠点を移し、世界を廻る。選ばれる肉体は、その地域にいて不自然でないものならばどんなものでもかまわない。幼児であっても、老人であってもだ。毎年移動をして、多くの人間に平等にそのチャンスを与えるようにしている」

「じゃ、もう日本には他の超幸運は来ないわけ」

「しばらくの間は来ない」

「ん? ダブる可能性もあんの?」

「われわれは人種や国で区切って契約者を重複させないようにしているわけではない。当選の可能性はすべての十四歳以上の個人に与えられており、他の地域で当選する者が現れない場合は、ちゃんと順番通りに他の超幸運が各地を廻り、結果として日本にやってくる可能性は充分にある」

「へえ」


  ――じゃあこれからは他の四つで、世界を廻るってわけか。


 それでは、超幸運に選ばれた二人の男が日本を舞台に繰り広げる戦い! みたいなドラマティックな展開もあるわけだ……、というところまで考えて、想はふっと笑った。


  ――マンガかよ。


 目の前に正座している黒の超幸運が「超能力バトルやりたいぜ!」なんて願いを叶えるわけがない。物理的に無理な振舞いはさせないと最初に言われている。


  ――でも、相手が「金の超幸運」で、なんでもありの契約者に戦いを挑まれたら……。


 そこでまた、少年は笑った。馬鹿馬鹿しすぎる。そんなのは勝利と友情と努力がウリの、少年コミックでやればいい。


「十四歳以上って決まりがあったんだな」

「そうだ」

 こっそりと追加された超幸運のルールに、想はまたふっと笑う。

「他の超幸運もお前みたいに固いしゃべり方すんの? 他のやつにも会ってみたいぜ」

「その願いは叶えることができる」

「はえ?」

 思わず、だいぶ間が抜けた声が上がってしまった。

 意外すぎる答えに、想は思わず身を前に乗り出している。

「会えんの?」

「会うだけならば。毎年二月十七日に可能だ。われわれは古い肉体を捨てた後、一度集まって現状の報告をし合うよう義務付けられている」

 

  ――超幸運が大集合ってか。


「じゃあ会わせてくれよ。超幸運の大集会に参加させてくれ」

「その願いは、二月十七日にしか叶えられない。直前に言った方が時間を無駄にせずに良いと思われるが、叶えても構わないだろうか」

「あー、まあそうか。じゃあ前日とかに言うよ」

「了承した」


 来年の二月まではあと三ヶ月ある。その間に、期末試験もある。母の料理の腕がどうなったかもわかっていない。いざという時のために願いの枠をとっておいたほうが良さそうだ。少年はそう考え、気を利かせてくれた黒の超幸運にニヤリと笑顔を見せた。


「親切設計だな」

 四谷からの返答はない。

 じっと黙るその青白い顔とは、あと三ヶ月ほどでお別れになるらしい。

「次も四谷のままの方がラクなんだけど」

「いつまでも同じ体を使い続けることは出来ない。じっくりと触れられればこの体が生きていないとわかってしまうし、なんらかのアクシデントが起きた場合、契約者にとって面倒な事態に巻き込まれる可能性がある」

「……へえ」


 確かに顔色はいつも悪いし、何も飲まないし食べない、眠りもしない。人間としては不自然極まりない男子高校生に、興味が集まると確かに厄介そうだなと思える。

「その辺、なんとかできないわけ?」

 超幸運からの返答はない。

 その沈黙がなにをさすのかちょっとだけ考えてみたものの、すぐに、なんかめんどくさそう、という結論が出て追求は中止された。

「今までにもいた? 超幸運の会合にでる契約者って」

「いた。大抵の者がそれを希望し、二月十七日にその願いを叶えている」

「ふうん。それってどこでやんの?」

「どこ、という説明はできない。最初に契約の説明をした時と同じ、特別な時間を過ごしてもらう。場所の移動や時間の制約はなく、途中での退席はどんなタイミングでも可能だ」


  ――なんなんだよ、特別な時間って。


 その間、世界の時間は止まっているとかそんな雰囲気なのかな、と少年は思っている。

 最初の契約の際にも、気がつけば古文の授業に戻っていた。クソババアの間延びした声は、暗闇に入る前と出た後で、違和感なく続いていたように思う。まじめに聞いていたわけではないので、「多分」という推測に過ぎないのだが。


「途中退席可能って、もしかしてつまんない集まりなの?」

「誰もが参加して損をしたという感想を持つようだ」

「ははは」


  ――じゃあやめようかな。


 四谷のような話し方の超幸運が五人も集まって、大真面目な顔でこっちはこうだのああだの話し合いをしているところを見ていても、あまり面白くなさそうに思える。

 が、なんでもやっちゃうという金の超幸運には会ってみたい。そんな好奇心の方が、少しだけ強い。


「それってもう帰るってお前に言えばいいの?」

「その通りだ。声に出して言う必要もなく、もういい、と思えば途中でいつでも退出できる」

「気が利いてるじゃんか」

「苦情が多かったのでそう対応するようになった」

 思いがけない答えに、想は声をあげて笑う。

「みんな興味津々で行って、つまんなくてムカついちゃうんだな」

「つまらない、という単純な理由だけではなく、もっと様々な要素が」

「いいって。想像するだに面白くなさそうだぜ」


  ――とにかく、来年二月のお楽しみができたわけだ。


 そこまで、死ぬ訳にはいかないな。

 少年は人生で初めて、そんなことを思った。

 

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