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SUPER LUCKY # 4  作者: 澤群キョウ
 ■ 願いとシミュレーション
10/60

10 少年の未来に広がる可能性について

 次の日の朝、諌山家の食卓に出てきたのは、トーストと目玉焼きだった。

 塩でもコショウでも勝手にかけて、と調味料も一緒にならんでいる。


  ――この程度なら手料理ってジャンルには入らないか。


 それを黙って食べて、いつものように言葉少なに短い家族の時間を終えると想は学校へ向かう。

 マンションを出たところで、向かいのアパートの一〇三号室のボロいドアが開き、自分と同じ制服に身を包んだ男子高校生が出てくるのが見えた。

 それに特に声もかけずに歩いていく。四谷は黙って後ろをついてくる。

 なんだか子分でもできたかのようで、想は小さく笑う。


 相変わらずだらだらの学校生活を終えて家に帰ると、超幸運の言ったとおりで母の手料理はなかった。

 テーブルの上にあるのは千円札と手紙で、母の神経質そうな字で「夕食はこれでなにか買ってください。ごめんね」と書かれている。


  ――謝らなくていいのにね。


 その手紙はゴミ箱に投げ、お札を手に取ると想は着替えを済ませて向かいのアパートに向かった。

「諌山想、質問ができたのか?」

「すげえ。自動ドアだ」

 ノックもいらなければ自分で開ける必要もない。昭和丸出しのくせに自動で開くボロいドアに笑ってしまう。中に入れば要望どおり、クッションが用意されていて、想は大きな声を出して笑った。

「だっせえクッションだな」

「デザインや大きさまでは指定がなかった」

「じゃあリッチでフカフカのやつにしてくれよ」

「その願いを叶える場合、二十六日かかる。その間、他の願いは叶えられないがいいだろうか」

「じゃあいいや。っていうかなんでそんなにかかるんだよ。なんでもできるくせに」

「それは」

「いやいや、いい。詳細な理由はいいよ。めんどくさいから」

 ぺらぺらな真っ黄色の小さなクッションは趣味が悪いが、仕方がない。

「飲み物買ってくりゃよかったな。なんか飲むものある?」

「ない」

 そういえば冷蔵庫もないんだったと気がついて、想は立ち上がった。とりあえずコンビニに向かい、お気に入りの清涼飲料水を買ってすぐにエスポワール東録戸へ戻る。

「お前の言ったとおり、手料理はなくなってたよ」

「諌山ルミはこれからしばらく帰宅も遅くなる。料理教室へ通い、腕を磨いて二ヵ月後にはまともな味つけの料理を作れるようになる」

「今までも行ってたんだけどな。新しいとこに凄腕の講師でもいるわけ?」

「その質問に答えるには、事前に諌山想の了承を得る必要がある。その理由を知った場合、少なからず気分を害する可能性があるが、それでも知りたいだろうか」


  ――またかよ。


 うんざりした気分で、想はがっくりとうなだれた。

「料理教室行くだけでなんで気分を害しちゃうわけ? おかしくない?」

 四谷は黙っている。この質問には即座に答えられないわけで、何故なのか少年はしばし考えを巡らせていった。


  ――新しい講師がすごくいいってわけじゃないなら、今までのところに問題があったとか?


 妙に納得がいって、想はこの考えに沿って推理を始める。


  ――ああ、そうか。前の教室では料理どころじゃなかったんだ。もしかして……。


「前の教室の先生と不倫してたとかか」

「正解には近いがそうではない」

「じゃあ言ってくれ」

 想の命令を受けて、四谷が即座に答える。

「諌山ルミが料理教室に通うのは今回が初めてだ。今までは料理教室を理由に、不倫相手とともに外出ないしもしくは」

「あー、そこまででいいよ。うん。よーくわかった」

 生々しい単語が出る前にストップをかけ、少年はふう、と息を漏らした。

「ちなみに父親は? 浮気とかしてる?」

「していない」

「ああそう。そりゃなによりだな」

 ペットボトルの蓋をいつもより少し力を入れて開け、一気に喉に流し込む。しらけた気分の中にムカつきが混じっていると気付いて、自分が腹を立てていることにまたイラついて、想は勢いよくボトルをテーブルの上に置いた。

 蓋のしまっていないボトルから少しだけ中身が飛び出して、あたりにパラパラと降っていく。

「知ってんの?」

「諌山想の父親は妻の不倫について、随分前から把握している」

「……へえ」

 

 頭の中に妙な渦のようなものができて、生まれた思考を次々と飲み込んでいくような感覚。


 よく離婚しないもんだな、とか。

 もしかしてそれは自分がいるからなのかな、とか。

 それともなんだかんだ、愛とやらがあるのかな、とか。


 それらはどうしようもなくくだらない発想で、だからきっと全部捨ててしまいたいんだろうなと、少年は自分の心の中に発生したブラックホールの存在理由に納得した。


  ――感傷的とか、ホントくだらない。


 両親がどうしようと知ったことではない。心にケリをつけて、想は四谷に顔を向けてニヤリと笑った。

「この間聞きそびれた質問してもいいか?」

「もちろんだ」

 四谷はいつも通り無表情だ。それが妙に安心できると思えるのは何故なんだろうと一瞬考え、少年は質問をぶつけた。

「ハーレム作れるかって聞いただろ?」

「最短の場合のシミュレーションのみ、話した」

「そう。最短じゃなくて、最高に俺好みで美女ぞろいバージョンってのも作れるわけ?」

「もちろんだ。その場合、完成までには四十一年かかる」

「なげえ~っ!」

 思わず、のけぞってしまう。

「それってどういう状況になってるんだ? 俺は」

「諌山想は何年かのサラリーマン生活の末に自分の会社を立ち上げて社長になっている。様々な困難が途中に待ち構えているがそれをなんとか切り抜け、安定した収入を得られる健全な経営をしている。そしてハーレムを作るかわりに独身を貫いており、跡継ぎとなる子供はいない」

「社長ね。で、ハーレムの構成は? 何人いるの?」

「六人だ。会社を立ち上げてニ年目に入ってきた秘書、銀座のクラブでママをしている女性、取引先の会社の社長の娘、行きつけのレストランでウェイトレスをしていた女性、会社の取材にやってきた経済誌の記者の女性、自分の会社で働く若い部下の男性、いずれも劣らぬ美貌の持ち主で皆、諌山想を慕っておりケンカなどは」

「おい。おい! 一人おかしいのが混じってるぞ」

「最高に諌山想好みで全員が平和に過ごせるハーレムを作るとそういう構成になる」

「……深いな」


 あと四十一年も過ぎれば、趣味とか嗜好などにも変化があるのかもしれない。もちろん、世間の価値観だって時代に合わせて変わるだろう。……みたいに捉えればいいのか、想は考える。


「じゃあ例えばさ、俺が社長になりたいって言ったら、そのハーレムはついてくるのか?」

「理想のハーレム付きの社長になりたいと願った場合にはなる。ただ社長になりたいだけならば、ハーレムなしの場合、明日にでも叶えられるし、跡継ぎが必要なら先程話したものではない、ややレベルが低く平和のないハーレムがついてくる」

「じゃ、社長になるっていうのはあくまでハーレムのオマケなのか?」

「先程話したシミュレーションの場合はそうなる」

「なるほどね」


 男子高校生が二人で真剣に理想の酒池肉林について話し合っているなんて、なんと愚かで滑稽なものか、と想はここでうっかり気がついてしまった。

 コホンと咳払いをし、心で沸騰している気恥ずかしさを静めていく。


「ハーレムが必要ならば早いうちに願いを言うといい。時間のかかる願いなので、とりかかるなら早い方が」

「いや、いらねえ。別に欲しいわけじゃないし」


 こんな質問をしたのは単純な好奇心からだ。世の中の若い男の代表的な夢や妄想である「自分のことばっかり大好きチュッチュな美女が仲良くいつでも待ってくれているハーレム」なんて、作れっこないだろうという気分で聞いただけに過ぎない。


「大体どうせみんな、金目当てなんだろ?」

「そうではない。先程のシミュレーションで出来上がるハーレムのメンバーは、諌山想を心から慕っており、諌山想も全員を平等に大切に扱う」

「バカ言うな。嘘くせえぞ」

「わたしは契約者に対し、常に真実のみを話す」


  ――だからって四十一年も待つかっつーの。


 想は鼻でフンと笑うと立ち上がり、夕食を用立てにコンビニへと出かけた。


  ――そんな長生きしたくねえし。 


 今日はレジ奥の電子レンジで弁当を温めてもらい、そのまままたエスポワール東録戸一〇三号室へ戻って、無口なクラスメイトそっちのけで少年は一人、食事を済ませた。 

 

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