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コーヒーショップ

作者: 翔一

春の香り漂う街の一角。暖かな日差しに心躍る人々の行きかう傍らにその店はある。いつからあるのか。誰もそんなことは知らないが、確かにその店は存在する。

 

店の扉をくぐると、芳醇なコーヒーの香りに包まれる。主張はしすぎず、しかしそれでいて気品が漂うアンティーク家具に包まれる店内。古めかしい雰囲気を醸しだしつつ、古臭さを感じさせない。そこは二人の老夫婦が切り盛りする老舗の喫茶店だ。

 

カランコロン。

 

一人の女が扉をくぐり、異国情緒溢れる店内に入店する。女は老夫婦を一瞥することも無くカウンターに腰掛け注文した。程なく、アメリカンコーヒーとサーモンベーグルが机の上を彩る。特に興味もなさそうにただ食べることへの義務感で足を運んだであろうこの女。顔は一面憂いの色で溢れている。


“なんでこんなことで悩まなくちゃいけないのよ。”


そんなことを考える。


“確かに結婚は夢のような出来事だし、相手のことも愛している。でも・・・”


この女は恋人との結婚に悩んでいるのだ。一番好きな相手との幸せな結婚。しかし彼女にとっては今一番悩ましい出来事なのだ。

 

 結婚が決まるや否や、女は家庭にという古い考え方を持つ相手がいきなり仕事をやめて家庭に入れと言ってきたのである。経済的には自分が稼ぐし、問題は無いはずだ。彼の言い分である。

女はタバコに火を灯し、煙を吐き出すと同時に深いため息をついた。


“結婚が決まってからはやめていたのにね”


 タバコを吸うと喉が渇くタイプなのであろう。ここでコーヒーを一口。はじけるような風味が含んだ口全体に満ち、鼻から抜ける香りがその一品をより一流のものに仕立て上げる。淀んでいた女の心はその一口で浄化されていく。

 

 ふとカウンターの中を見ると、小さな老夫婦が寄り添ってこちらの様子を見ている。女は「とても美味しいですね」とだけ答えた。そこで思考する。この古めかしい店はこの老夫婦が生涯をかけて築き上げてきたものなのだろう。お互いでお互いを支えあい、しわくちゃになるまでやってきたのだろう。辛い事もあったであろうし、些細な喧嘩をしたこともあったであろう。しかしこの店は今もなおこうして立派に続いているのである。


 そんなことを考えていると、女は今自分が悩んでいることがとても小さいものに感じてきた。自分は確かに文句を言うだけ言ったが、相手にそれをちゃんと伝えようとはしていない。相手の気持ちを鑑みる事にいたってはまるで聞く耳を持たなかった。急にそんな自分が馬鹿らしくなってきた。いかんせん短気な女はいつもそうなのだ。


“帰ったらまず話をしよう。何を言おうか。”


女は勘定を済ませ店を出る。


“まずは「ただいま」かな?そして「さっきはごめんなさい」って言おう”


 女はとても澄んだ表情で家路を急いだ。


 その数ヵ月後。姓の変わった女は会社からの帰宅途中にあの店によることにした。なんとなくあの老夫婦を見たかったのだ。 

 しかし、あの店はもうそこには無かった。隣の店の人が言うにはマスターが先月急になくなったとの事だ。女はその今わ無き店に向かって深く頭を下げた。しばらく後に、口を真一文字に、しかし澄んだ瞳で家路につくのである。


初夏の力強さが漂う街の一角。これからさらに鋭さを増すであろう日差しを心待ちにした人々の行きかう傍らにその店はあった。いつからあったのか。誰もそんなことは知らないが、確かにその店は存在した。





このたびは僕の作品を読んでいただいてありがとうございます。

いかんせん処女作な物で勢いに任せて書いてみたって感じです。


まさかの超短編になってしまいました。


日常淡々計なお話を書いたつもりですが、

なんかよくわからないお話になってしまったようですね笑


今後とも勉強していくので、よろしくお願いします!



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