第二話<Ⅲ>
コンコンッ。
扉のたたく音がした。
自室にいたトリスは、母が今畑の世話をしているので変わりに対応するために階段を降りる。
「はーい…」
キィ、と小さな音がしてドアが開いた。
刹那、トリスの目が驚きで思いっきり開かれる。
「……お…兄ちゃん…?」
「久しぶり、トリス」
そこにいたのは、自分の兄だった。
名前はロレンス・ウィルトン。14歳。
苗字が違うのは、トリスとは生き別れの兄弟だからだ。
ロレンスが生まれ、そしてトリスが生まれたとき、フォート家は2人の子供を養えるだけの金がなかった。
そこで母は、これからもっと金が必要となってくるであろうロレンスのほうを、親戚の養子として引き
渡したのだ。
ロレンス自身は、そのことについてはなんら不満は持っていない。
家が貧乏なら、そうなってもおかしくない運命だと受け入れている。
しかし、実の妹トリスと会えるのはごくほんの少しなのである。
ロレンス側の家族が仕事が忙しいせいで、なかなか会えない。
こうして対面したのも、約3年ぶりだ。
「ロレンスお兄ちゃんっ」
いきなりトリスが飛びついたものだから、ロレンスは後ろに倒れそうになりながらもなんとか受け止め
る。
「元気にしてたかい?」
「うんっ」
愛おしい妹の笑顔を見て、おもわず顔がほころぶ。
…と、
「あらあら、もうきてたのね」
後ろから、声が。
二人一緒に振り向くと、エプロン姿の母がいた。
今まで畑仕事をしていたので、あちこち泥だらけだ。
「うわっ、母さんひどい格好」
ロレンスが顔をしかめながら言うと、母は頬を膨らませてわざとらしく笑う。
「あら失礼しちゃう。いつもこうよねートリスー」
「ねー」
「まったく…」
つられて破顔したロレンス。
すると、いきなり母が何かを思い出したように「あ」と声を上げる。
「ねえロレンス、チューロさんは来てないの?」
チューロおばさんとは、ロレンスを養子として引き取ってくれた、母のいとこにあたる人だ。
「おばさんは今日は大事な商談があるとかで…一人で行ってきなさいって」
「そう…それは残念」
肩をすくめながら言う母。
そして二人の仲の悪さを知っているロレンスとトリスは、二人で視線を合わせて小さく笑う。
「…さて、こんな玄関先で話しててもらちが明かないわ。さあさ、二人ともお座りなさい」
母に促され、リビングの椅子に座る二人。
すぐに、母がハーブティーをテーブルに置く。
「ロレンス、今日来てもらったのは大事な話があるのよ」
「大事な、話?」
「ええ。トリスもよく効いてちょうだいね」
「うん…」
急に深刻な表情になった母に、二人は凄くいぶかしげな表情を浮かべた。
トリスはあのことがあってか、母の表情に凄く敏感になってしまう。
そして、
「…これからは、あなたたち二人だけで暮らしていってほしいの」