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19、悩み

 父王からそれとなく伴侶選びについてうながされたのは、半年以上も前のこと。

 自分より四つも年上の従兄ジルフィスが、身を固めるどころか特定の女性とつきあってすらなく花街で遊び歩いているというのに、どうして自分だけがとゼファードは憤慨したものだ。

 だが憤慨しつつもその実、理解してもいた。

 ジルフィスは父の代から王位継承権を放棄している傍系王族だが、ゼファードは現王の一粒種なのだ。ゼファードが伴侶を得て子をもうけ、王家直系の血を絶やさぬことは義務でもある。父王は未だ力にあふれた壮年だが、万が一のことがあればその地位と責任はゼファードが継ぐことになるだろう。

 そしてさらに、ゼファードの身にも〝万が一の〟ことが起きれば、王位は父王の腹違いの末弟へと転がり込む。それを願っている者たちが――末弟派が少なからずいるからこそ、ゼファードの腰は重くなる一方なのだった。

 とある令嬢とゼファードが親しいようだと噂がたてば、その令嬢の家と競り合っていた家門が妬んで、末弟派の味方に流れてしまうかもしれない。末弟派の息がかかった令嬢がゼファードたちの懐へもぐりこみ、暗殺者となるかもしれない。

 父王もそういった危険は承知のはずだが、だからといってどうしようもないことなのだ。友好的な外つ国に年頃の王女はおらず、また、諸国の王の直系でない姫をもらい受けるのでは外交上グランヴィールの面子が立たない。

 結果として、末弟派の問題があるものの、国内から王妃候補を選ぶしかないということになる。

「グラントリーの家に娘でもおれば、一も二もなくおまえと娶せたのだがな」

 父王はそう言ってため息をついたが、いないものを嘆いても仕方がなかった。たしかに王族同士の婚姻であれば貴族間に波風は立ちにくい。しかしジルフィスは男なのだし、ゼファードと同様一人きりで、兄弟姉妹はいないのだ。

――父上は俺に、いったいどんな娘を選べというんだ? 

 いっそ決めてくれれば楽なのにと思わないでもなかったが、無論それは無理な話だ。ゼファードでさえ動けば波風が立つというのに、王みずからが采配を振るおうものならどうなるかわかったものではない。

 折々に目にしてきた令嬢の中に「これぞ」という娘がいたならば話は別だ。波が立とうが地割れが起きようがその娘を妃にするのだろう。けれどもゼファードは知り合った貴族令嬢に心動かされたことはなかったし、幼い頃あこがれた小間使いは彼の気持ちを察すると、すぐに姿を消してしまった。使用人は王妃になれないと教えられたのは、そのときだ。

――みんな、似たり寄ったりだ。

 そうして選びようもないまま時はたち、今日に至る。焦れた父王が、まずは王子の妃候補を(あくまで候補だ)数人選ばんとして夜会を設定したのだ。

 王が主催する正式な夜会だ。慣例にのっとり、ゼファードも誰か女性をエスコートしなければならない。姉妹や従姉妹がいなくとも、母が生きていれば、伯母が遠国からはるばる来てくれたなら、その手をとって入場さえすめばよかった。

 だがいずれも、無理な相談なのだ。

 夜会を明日に控え、今日はアーラの授業どころではなかった。

 セリスティンはコルディア嬢の衣装合わせに余念がなく、ジルフィスも会場警備や段取り確認のために近衛隊長に引き回されているはずだ。

 ゼファード自身は彼らよりもさらに、追いつめられていた。

「殿下、いったいどうするおつもりです?」

 エスコートの相手を決めずに夜会を迎えるなど、王子ともあろう者にあるまじき事態。そんなことはいわれなくとも、ゼファードにもわかりきっていた。

 クオードは口やかましい家庭教師のようなしかめ面をしてゼファードをにらんでいる。

「夜会は明日です。もう時間がありません」

 ゼファードはため息をついて肩をすくめた。

「しかたがなかったんだ。だれかひとりを選ぼうものなら、まわりはかならずその令嬢が俺の婚約者だと決め付ける。たかがエスコートの相手役なのに、だ。俺に姉妹がいればよかったんだがな。それなら婚約者だ王妃候補だと騒がれることも、派閥争いの火に油を注ぐようなことにも、ならないんだが」

 クオードは咳払いをして、ゼファードに現実を突きつけた。

「たらればをいくら考えてもしようがありません。これは内内の遊びではなく正式の夜会なのですから、エスコートの相手は必須なのです。くじでもあてずっぽうでもかまいませんから、さっさとお決めになってください。一夜のことと割り切って、まわりがなんと騒ごうと婚約者ではないとおっしゃり通せばよろしいのですから」

「それができたら俺はこんなに悩まないさ」

 ノックが響いたのは、そのときだった。

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