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正常ではない二人の幸福  作者: 孤高のじん
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第12章 背負うという覚悟

「守る」という言葉の意味を考え始めた僕は、

いつしか自分がすべてを背負えばいいと思うようになっていた。


彼女を苦しませないために。


彼女を守るために。


たとえ、それが間違った覚悟だったとしても。


そんな中、もう届くはずのない場所から、一通の通知が届く。


そこに表示された名前は――姉だった。


第12章。

「守る」という想いは、いつしか「背負う覚悟」へと変わっていく。



姉がいなくなってから、家の中には静かな時間が増えた。


以前なら聞こえていた笑い声がない。


二人分だった食器の音も減った。


彼女は変わった。


強くなったように見えた。


でも、それは強くなったんじゃない。


壊れないように必死で耐えているだけだった。


僕には分かっていた。


長く一緒にいたから。


彼女が無理をしている時の表情くらい、分かるつもりだった。


……つもりだった。


その言葉が頭に引っ掛かった。


僕は今まで、何を分かっていたんだろう。


彼女の過去も。


苦しみも。


本当の気持ちも。


何も知らなかった。


それでも僕は、彼女を守ると言っていた。


その言葉が、今では重かった。


ある夜。


彼女が姉の写真を見ながら呟いた。


「お姉ちゃん、最後まで私の心配してたんやろな。」


僕は返事ができなかった。


「昔からそうやった。」


彼女は少し笑った。


「私が辛い時は、いつも先に気づいてくれた。」


その言葉が胸に刺さった。


姉は彼女を見ていた。


僕よりずっと長く。


ずっと近くで。


僕はただ隣にいただけだった。


「ごめんな。」


気づけば言葉が出ていた。


彼女が僕を見る。


「なんで謝るん?」


答えられなかった。


何に対して謝っているのか。


自分でも分からなかった。


彼女は少し困った顔で笑った。


「あなたが悪いわけちゃうよ。」


その優しさが苦しかった。


責められた方が楽だった。


怒られた方が、自分を許せた気がした。


でも彼女は責めない。


だから余計に、自分の中にあるものから逃げられなかった。


数日後。


警察から連絡があった。


確認したいことがあるという。


まただった。


電話を切った後、手が震えていることに気づいた。


彼女が聞く。


「警察?」


僕は頷いた。


「うん。」


少し間を置いて、彼女は言った。


「……大丈夫?」


その言葉に違和感を覚えた。


普通なら、自分の心配をするはずだった。


姉を失った自分のことを。


でも彼女は、僕の顔を見ていた。


僕の不安を心配していた。


「大丈夫。」


そう答えた。


彼女と同じ言葉だった。


その瞬間、胸の奥が苦しくなった。


僕たちはいつから、


大丈夫じゃない時ほど、


大丈夫と言うようになったんだろう。


警察での話は短かった。


新しい情報はなかった。


ただ、いくつか確認されただけだった。


帰り道。


車の中は静かだった。


彼女は窓の外を見ていた。


僕は運転しながら考えていた。


もう戻れない。


何かが始まってしまった。


それでも僕は決めていた。


彼女だけは守る。


何があっても。


この人だけは苦しませない。


それが正しいことなのか。


間違っていることなのか。


その時の僕には分からなかった。


ただ一つだけ確かなことがあった。


僕はもう、自分の幸せを願っていなかった。


彼女が笑えるなら、それでいい。


彼女が苦しまないなら、それでいい。


そう思っていた。


その夜。


彼女が眠った後、僕は一人で部屋にいた。


スマホを見る。


時間を見る。


何度も同じ画面を開いては閉じる。


落ち着かなかった。


すると突然、彼女のスマホが机の上で光った。


通知だった。


僕は見るつもりなんてなかった。


でも。


一瞬だけ表示された名前が目に入った。


姉の名前だった。


もう連絡が来るはずのない名前。


息が止まった。


画面を見る。


そこには短い文章だけが表示されていた。


「約束通りにするね。」


その一文だけだった。


僕は動けなかった。


何を意味しているのか。


考えようとしても、頭が追いつかなかった。


その時、背後から声がした。


「見たん?」


振り返る。


彼女が立っていた。


いつから起きていたのか分からない。


彼女は静かに僕を見ていた。


その表情は悲しみでも怒りでもなかった。


ただ、何かを覚悟した人の顔だった。


僕は何も言えなかった。


彼女も何も言わなかった。


長い沈黙の中で、


初めて僕は思った。


僕だけが何かを背負っていると思っていた。


でも。


本当にそうだったのだろうか。


第12章まで読んでいただき、ありがとうございます。


11章では「守る」という言葉の危うさを描きました。


そして12章では、その先にある「背負う」という感情へ進みます。


愛する人を守りたい。


そのためなら、自分がすべてを背負えばいい。


そう思った時、人はどこまで自分を犠牲にできるのか。


そして最後に届いた、もう届くはずのない名前からのメッセージ。


「約束通りにするね。」


この言葉が何を意味するのか。


ここから物語は、さらに大きく動き始めます。



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