121
ハーピーの強襲を退けて、日が暮れ始めたので果ての山脈での初野営を行った。多少の傷ならリサの治癒魔法で治せ、崖から落ちかけた彼女本人も大した怪我はせずに済んだため一安心だった。
「私のせいで、迷惑かけちゃったわね、助けてくれてありがとうアンジーさん」
「次からは足元には気を付けなよ。あんたも大切な戦力なんだからね、魔法使いさん」
素直に仲間だからと言えないアンジーのフォローをミックはしようと思ったが、リサも彼女の性格は理解しているのでそれ以上は何も言わなかった。
オーランドが周囲の警戒をしているが、魔物の気配、それどころか動物の気配も感じないという。
「夜になれば某の感覚も冴えるのだが、それを持ってしてもこの山からは生き物の反応がせぬ」
夜になると吸血鬼の力がオーランドに戻り、闇の中でも感覚が研ぎ澄まされて周囲の様子が分かるらしいが、それでも果ての山脈はドラゴンどころか、生物の反応はないという。
「休むには嬉しい事だけど、落石や崖崩れの方がここは危険そうだね。用心する事に越したことはないよ」
魔物よりも自然の脅威に気を付けながら果ての山脈での初日を過ごした。危ない瞬間もあったが、幸いにも誰1人欠ける事無く終える事が出来た。
2日目は特に進展はなかった。ほぼ1日を山登りだけで終えた。遠目にハーピーや鷹が飛んでいるのを見る程には高い部分まで登ってきたが、それでも山頂まではまだ遠かった。
果ての山脈に入山して3日目、不気味な程静かなこの山を登っていると先頭を行くアンジーがある事に気づいた。
「あんた達、戦える準備をしておきな。この先は平地になっているよ」
アンジーの言う通り、周囲を岩壁に囲まれた平たい空間がそこにあった。人の手が加えられたかのように歩きやすく広い領域だ。そこを反対側へ向かう途中で、その存在が姿を現した。
「オオォ……!」
果ての山脈にその鳴き声が木霊する。聞いた瞬間、周りの空気が張り詰めるのが分かった。見上げると、山頂のさらに上空、小さな影が徐々に大きく、形をはっきりさせながら降りて来る。
勢いもそのままにミックたちの目の前にそれは降り立った。地面が揺れる程の衝撃が響く。ミックは初めてドラゴンに会った時の事を思い出したが、今回の相手はそれを遥かに上回る物だとすぐに直感した。
初めて見たドラゴンよりも体躯は1回りも大きく、鱗の色は赤く頭部には4本の角を生やしていて雄々しい。思い始めて来た疑念を打ち砕く様に、ついにドラゴンがミックたちの前に現れた。




