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コツ、という靴の音に気づけば扉の方へ振り向いた。
すぐに誰かわかるとシオンはやわらかく微笑んだ。
「シリウス。」
「シオン様、春とはいえ今日は少し風が冷たいかと、まだまだ貴女様のお体は健康とは言い難い。程々に、」
会釈して、失礼します。と中へ入れば、人さし指をくるりと一回りすれば、ぽん、と貴女に紫色のカーディガンを魔法で出して羽織らせた。
シリウスの気遣いに照れくさそうに困ったようにシオンは視線を下へやりながらも「、…ありがとうございます。」とその毛布を片手でぎゅ、と握った。
確かに肌寒くなってきただろうか、と思えばシオンは近くのイスに腰掛けた。
「……」
シリウスはその様子を見てから無言で窓を閉めれば春の日差しが窓から差し込まれ、シオンを照らし出す姿を見惚れるように眺めた。
もう一つ椅子を魔法で出せば向かい合うようにシリウスも座った。
「体調はいかがです?」
「とても良いです。確かにまだ健康には程遠いかもしれないけれど、…こんなにも安堵感に包まれる1日を過ごすのは何時ぶりかわからないくらい。」
「ふふ、…それは良うございました。シオン様は…今、お疲れでなければ、そうですね、、ホットココアでも飲みながら、ちょっとお話しませんか?」
シリウスがこうして話そうなんて言うのは初めてのことだった。いつも話しかけてもらって日々の挨拶や、世話を焼いてもらうときに少し程度だった。
…大事な話をまともにできてないことを気にしてくれてたのかもしれない。すこしでもシオンの心が落ち着くまで。
「…はい。シリウスの作ってくれるホットココア、とても好きです」
「……………
少々お待ちを。すぐに作ってまいりますゆえ。」
〝シリウスの作ってくれる〟 〝好き〟
その言葉に、心臓鷲掴みにされるくらいの衝撃を表情に出さないシリウスはしばらく沈黙を取ってから立ち上がり、お辞儀すれば、た、た、た、と階段を降りてすぐにホットココアを作る間も、
自らだけの主に仕えられる喜びにひたって、じーん、と感動していた。
なんでこんなに感動できるのか会って間もないまして、…依頼で〝殺そうとしていた〟シオンを。
取り繕う必要のない笑みを消せばシリウスの瞳から感動で輝いてた瞳から一瞬でその輝きが失せた。
(シオン様はなぜ、それを一切気にしてる素振りを見せないのだろう。)
その疑念はこころにずっと秘めていたが、たった一週間でも、シオンの人柄でわかったことがある。
長年の〝不幸な〟日々でシオンの心はすり減って摩耗してしまったのだと、当初思っていたが
シオンはとても芯のある人物だった。
諦めがよく、お人好し、…そして
自分自身を軽んじている、犠牲的な性格だ。
誰も恨まずに憎まず、自らの責のみを咎め、生きてきた人。
齢16で、家族のいる幸せ、家族のいない不幸せを味わった。
それ故なのか、シリウスのことをシオンは殺しに来た相手だというのに。
……
疑うことなく許しただけでなく、自分の主になってくれた。
会ったばかりの相手をなぜこんなに好ましくそして、悲しいと思うのか。
きっと理解してしまったからだ。
__もし、ここで逃したら彼女は、世界を知らないままこの俗世から失せてしまう、それはもったいない。 この優しい方を自らの主とする幸せが、ワタクシも、欲しい、と。




