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第四章 集まる事実

三日後。

新宿三丁目は相変わらず人で溢れていたが、田所探偵事務所の中は静かだった。

田所は椅子に深く座り、胃薬を一粒口に放り込む。

「……まだか」

「警察は優秀でも、瞬間移動はできません」

夏野はパソコンから目を離さずに言った。

その時、ノックもなくドアが開いた。

「相変わらず嫌なタイミングで呼ぶな」

山岸が分厚いファイルを抱えて入ってきた。

「結果が出た」

山岸は資料を机の上に並べる。

「まず、入退館ログ」

六人全員、18時から20時まで、全員社内に滞在。

「全員、犯行可能時間帯に“消えてない”」

田所は頷いた。

「つまり、“アリバイが全員成立しているようで、全員成立していない”」

次に、エレベーター記録。

「十九時前後、三階と五階を頻繁に往復している」

夏野が言う。

「三階は休憩スペースと自販機……」

「全員が飲み物を取りに行ける場所だ」

山岸は続ける。

「防犯カメラのログ。十九時十分から十九時四十分まで、会議室フロアの映像が停止」

「誰が?」

「システム管理の権限があるのは甲斐だけだが……実際の操作ログは“ユーザー不明”になっている」

田所が目を細める。

「消されてるな」

「本人は“メンテナンス自動処理”と言ってる」

「証明できない言い訳だ」

夏野が言う。

「つまり、甲斐さんは“怪しいけど確定じゃない”」

「ちょうどいい位置だな」

次に、机の位置比較。

山岸が写真を並べる。

「前日と当日で、確実に三十センチずれている」

「誰かが動かしたのは確実だ」

「ただし、床の擦過痕は“一方向だけ”」

田所が少し首を傾げる。

「一方向?」

「つまり、一度しか動いていないようにも見える」

夏野が言う。

「事故の拍子で動いた可能性も……?」

「否定はできない」

次に、副社長と経理部長のメール。

「副社長は横領を社長に指摘されていた。経理部長はその責任を押し付けられていた」

「どっちも“消えてほしい相手”だな」

山岸はさらに続ける。

「営業部長・早乙女。当日、十九時十分から十九時二十分まで、社内の喫煙所に一人でいたという証言」

「証人は?」

「本人だけ」

田所は小さく笑った。

「一番信用できないアリバイだ」

「人事責任者・神崎。当日、精神科の予約履歴があり、“事件直前に辞表を書いていた”」

夏野が目を見開く。

「それ、かなり危ない状態では……」

「動機としては十分すぎる」

「秘書・小宮山。社長のスマホから“別れ話のメッセージ”が削除されていた」

田所が言う。

「殺意の種類としては、一番わかりやすい」

山岸はファイルを閉じる。

「全員、怪しい。」

田所は静かに言った。

「だから面白い」

夏野が聞く。

「どこから疑います?」

田所は即答しなかった。

少し間を置いてから言う。

「“一番、事件に関係なさそうな奴”からだ」

「誰ですか?」

田所は資料の一人を指差した。

「営業部長・早乙女。煙草を吸いに行った男は、大抵“何かを捨てに行っている”」

山岸が苦笑した。

「……偏見じゃないのか」

「偏見は、統計だ」

窓の外では、雨が少し弱くなっていた。

だが真実は、まだ誰の顔も見せていなかった。

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