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邂逅

「滅亡世界レザイユ現着。座標軸は……116392。オペレーター、居るか?」

『座標確認。第一八一部隊長オーウェル・サドミックおよび隊員7名。周囲十キロ以内に適正存在は無し。速やかに選定を開始してください』

「了解」


翌日、オーウェルの言葉に耳元で聞こえていた会話がプツリと切れる。


到着した場所は。見渡す限り曇りきった空に、瓦礫に包まれたかつて村か街だったであろう場所。

滅亡世界レザイユ、ここは旅立つ前に彼女が言った通り、完全に人が住んでいた痕跡が存在するが、今の所それらしき影は無い。


そして可能ならば、もしいたとしても、リゼル達の前に出てこないでくれれば。


「さて、それじゃあ探索を始めるぞ。落ちこぼれ、お前はまた荷物持ちだ」

「はいはい、分かってますって。方角は?」

「……ちっ、南だ。恐らく今回は二日くらいで到着するが、歪が有るのは恐らく地下だ。だから削岩機型の修復デバイスを使う。各自油断するな」

「「「はっ!」」」


オーウェルの言葉に、敬礼する隊員達。


と同時に、リゼルは結局削岩機の入ったせいか、少し小さくなった荷物に加えて更に大きいデバイスを背中に担ぐと、その場から隊に少し遅れて歩き出す。


『おや、今回の場所はまた随分と荒廃しているな。おまけに滅びてから相当の時間が経っている。それにこの痕は――――――』

「……銃痕か。ならそこそこ文明は発展してる。何で滅びたのかは知らないが……文明は発展してた世界程何かの形で人類か近縁種が生き残ってる確率は高い。面倒くさいな」

『ふは、良いじゃないか。どうせ終わりには居なくなる。或いは君が望むなら、視界に入る前に私が全て消してやるのもやぶさかではないが』

「その時には、俺が先にお前を殺す」


リゼルの言葉に、カミアは『ははっ』と嘲る様に笑う。


彼女は嘘を言わない、否、厳密にはこちらの答えを予測して言っているのかもしれないが、もしここで彼女の言葉を肯定しようものなら、彼女は即座にその言葉を実行するだろう。

気安く触れてはいけない破滅の箱(ブラックボックス)、暫く一緒に暮らしてリゼルは彼女と数多の言の葉を躱したが、いまだその真意すら読むことはできない。


当然、それはお互い様でもあるのかもしれないが。


「……!十キロ前方に歪反応」

「了解!よし、今回は早いな」


ルルアの言葉に、オーウェルと続けて隊員たちが頷く。


歩き出してから結局、一日……二日は掛からなかった。


一行は幾つかの村や森、山を越えて数十キロを進んだところで一つの大きな城壁、そして城門の前へ辿り着いた。

朽ち果ててはいるが、それにしても大きい。

左右へと伸びる城壁も鑑みれば、ここは相当に大きな都市なのかもしれない。


『おや、ぼろぼろだな』

「それはそうだろ。人類はそんな一瞬で滅びるものじゃない。誰かさんが滅ぼした場合とかを除いてな」


その時、前で歩いていたオーウェル達が壊れかけの城門を強引に押す。


バキャリという盛大な音と前のめりに倒れた荘厳な立ち姿は、既に金具も壊れていたのか。

前線組の一向に続いて門を踏み越え、城壁の中へ入ると、そこは穴だらけの煉瓦造りの道や原形すら留めていない建物だっただろう瓦礫の山。


まるで例えるなら、何かに空爆でもされたかのような。


『これは……随分とまた派手に崩壊しているな。何か戦争か、或いは――――――』

「滅びた原因なんてどうでも良い。どうにも奇妙な気配がする。こういう時は……」


大体ろくな事にならない。


カミアの言葉に辺りをざっと見まわすと、遠くからオーウェルの叫び声が聞こえてくる。

早くしろ、と言っているのか。

城門を通って暫く、もしかして既に削岩機型デバイスを使う時が来たか。


「あ、あの……」


あるいは僅かに後方から引かれた袖は、願っていなかった出会いに小さな溜息をこぼしていた。


『おや、迷える子羊の元へ導き手が現れたな』

「……そうだな」


耳元から聞こえる声に、再び小さく溜息を吐く。


それは何でもないはずの、ただの異世界でのありふれた会い。

どんな天者も実際避けては通れないはずの、滅ぼす相手との接触……同一自己との対話。


「あの……お兄さん達はどこから来たん、ですか?」


少年の言葉に、どうこたえるべきか一瞬迷う。


当然正体を明かす選択肢は論外、万が一にも彼らが世界を滅ぼすための障害と成り得ないように。


「俺達か?俺達は……ずっと遠くから来たんだ」

「遠く?もしかして他にもお兄さん達みたいな人が居るんですか!」


リゼルの言葉に少年は目を輝かせる。


一言目は正解……否、彼らに興味を持たせてしまったという意味では失敗か。


考えてみれば、ここは既に文明のほぼ全てが滅びた場所なのだ。

年齢は見た限り6、7歳程度、こんな子供がいる以上多少の寄り合い程度はあるのかもしれないが、少なくともこんな荒廃した場所で小綺麗な軍服を着た人間が居れば、大前提から不自然で興味は湧くか。


「もしかして、まだこの町の外に人は居るんですか?」

「……ああ、この大陸の向こうに居る」

『嘘つき』


耳元から聞こえる声を無視する。


とはいえこの世界が滅びているなどという事実、外から来た明らかな不審者であるリゼル達がどう伝えればいい。


もしも彼らが電話やメールのような技術を持っていたなら、この世界のどこでも一瞬で行き来できる能力があったなら。


「……君達は、ここに住んでるのか?」

「はい!僕にアイシャにリベラおじさんに、それに人数も五十人くらい居て、結構大きな町なんですよ」

「五十……それは、凄いな」

『ふはは、五十か。隊の人数で割れば五人くらいか』


再び耳元で聞こえる声に、小さく舌打ちをする。


やせ細った身体に継ぎ接ぎだらけのボロボロの服、伸びきって荒れ放題な髪は、彼が如何に過酷な環境で生き抜いてきたかが分かる。

周りの建物の朽ち方からしても、きっと彼が生まれた時には既に、世界は滅びていたのだろう。


滅びた世界で生まれ、滅びた世界で死ぬ。

最早そんな人生は想像さえも及びはしないが、それでも一つだけ確かなのはきっと。


「何やってる、落ちこぼれ!早く来い!」

「……悪い。今少し用事が有るから、どこかに隠れておいてくれ。後からちょっとした食事でも持ってまた会いに行くから」

「……‼本当?」

「ああ、絶対だ」


その言葉に、少年は明らかに嬉しそうな表情を向けると、その言葉通り近くにあった瓦礫の山の方へと歩いていく。


なるほど、そこから来たのか。

後から向かえるよう男の子が来た大雑把な場所を確認すると、再び叫ぶオーウェルに今度こそ小走りで少し先、広場の残骸らしきものが散乱している場所へと走っていく。


軽く後ろに視線を向けると見えた丁度視線くらいの高さまで積み重なった瓦礫の山は、オーウェルの視界から隠れる防波堤には丁度いい。


「遅いぞ、落ちこぼれ」

「悪い、ここで良いのか?」

「……そうだ。さっさと設置しろ」

「了解」


相変わらず機嫌の悪いオーウェルに、背負った巨大な三脚のような機械を開くと、目の前の地面に差し込み、刹那僅かに漏れ出る赤い光と共に展開する。


削岩機型デバイスは震度にもよるが、設置してから起動して、計測、採掘、消滅までを全部一貫して行ってくれる。

かかってしまう日にちもその深さによって変わるが、大体平均一日程度あれば。


「ここを閉めて……設置完了、んで測定開始っと」

『測定開始。想定深度計測…………歪を特定、地下27キロ地点。崩壊に必要な時間……一週間と推定』

「だそうだ」

「……ちっ!おい、この近くで野営できそうな建物を探す。各自偵察を始めろ!」


辺りに響く叫びに、ガチャガチャと中心に設置したデバイスが徐々にその柱を開き、3本ずつ、合計9本の支柱を地面へと突き刺す。


同時に合図とともに辺りに散り始めた隊員達は寝床など大勢拠点となる廃墟でも探しに行ったのだろう。

思ったよりも長い時間にどうするべきかと思ったが、やがて機嫌の悪い隊長様に「何をしてる。お前もさっさと行け!」と雑な命令をされたため、その場からゆっくりとした足取りで離脱した。


最も、それは今この状況では好都合なのかもしれないが。


『あの男の子を探しに行くのか?』

「……ああ、一先ずな」

『ふむ、気まぐれな救済は互いの首を絞めるだけだぞ』

「……約束を破るわけにはいかないだろ」


耳元に聞こえるカミアの声に、出来るだけバレないように自然に、徐々に中心の広場から離れてきた道を戻ると、近くにある瓦礫の裏へ入る。


あの子供が来たのは確かこのあたりだったはずだが、一体どこへ行ったのか。


「カミア、地面を伝って探せないのか?」

『……今一度君に対する私の認識を改めておく必要が有るようだな。とはいえ、ここならもしかしたら――――――』


カミアの言葉に、刹那近くで一つの瓦礫が崩れ落ちる。


咄嗟に反応したのはリゼル、万が一仲間でも今の状況がバレてしまえば疑惑は必至のため、場合によっては口止め程度に武力行使をするつもりだったが。


「……あ、お兄さん」

「お前、そんな所に居たのか。そこ、崩れるかもしれないから危ないぞ。ほら――――――」

「あ、ありがとうございます」


黒く焦げた瓦礫の中、倒れかけた柱に囲まれたスペースの中心から、一人の少年を引っ張り上げる。


ぼさぼさに乱れた灰色の髪に、痛んだという段階でもない服。

確かに隠れていろとは言ったが、人が入るには余りに窮屈で今にも崩れそうな場所だ。


どうしてよりにもよってこんな場所に。


「ごめんなさい、お兄さんに隠れて待ってろって言われたので」

「……はは、それならお前の選択は正解だよ。ほらこれ、約束の食料。腹持ち重視だから味は保証できないけど、多分一週間分くらいはある」

「……‼ありがとう、ございます」


差し出した中サイズの食料の入った袋に、少年が驚いたような顔を浮かべる。


その喜び方は、今まであまり親切な人に……否、そもそも人との関わりが久しぶりな可能性もあるか。

とはいえ、やはりここまで滅んで時間が経っていそうな場所で、考えてみれば子供が一人で生活しているなど。


「……あの、お兄さん。これ、家に持って帰っても良いですか?」

「家?もちろん構わないけど……それで足りるか?」

「はい、勿論。あ、良かったらお兄さんも来てみますか?凄いおもてなしは出来ないですけど、家はおっきいんですよ」


元気いっぱいに、否、これは空元気か。


笑う少年に耳元から『そら見たことか』と嫌味ったらしい言葉が聞こえてくるが、当然無視。


だが確かに、既に今ので約束は果たした以上、ここから先の関わりはこちらが選択した能動的なもので、彼らにとっても世界が無くなってしまうことに気づく可能性を高めるだけの、一つの境界線なのかもしれない。


うっかり踏み込んでしまえば、真っ暗闇の中で帰路を見失ってしまいそうな。


「……そう言ってくれるのは嬉しいけど、遠慮しておくよ。この後もまた仕事なんだ」

「そうなんですか?残念です、もし気が変わったらいつでも言ってくださいね!僕たちはあそこの瓦礫の裏にある階段を下った場所に住んでるんです」

「分かった、時間が空いたら行くよ」


少年は再び笑うと、その場から走り去っていく。


時折こけそうになるおぼつかない足取りは思わず手を貸してしまいそうになるが、それはきっとお互いにとって踏み越えるべきではない一線。

リゼルもそんな少年を少しだけ見守った後、数百メートル先、一つの家の瓦礫の裏に消えていくのを見て、踵を返す。


「お兄さん、さようなら!また会いましょう!」


最後に一度だけ、こちらへ振られた手だけは無視して。


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