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天者

「なんだ、また仕事か?天者というのは本当に多忙だな」

「またチームでの剪定か。任務内容は……滅亡世界レザイユの剪定、崩壊指数は0.99、再生指数は0.88、第一八一部隊、隊長オーウェル・サドミック……」

「またあの男か。助けてやった貸しが次の任務に繋がったか?」


オーウェル、任務の後は結局報告の日でさえも何も話さなかったが、恐らくまた荷物持ちか、あるいは最悪。


「……どうせ当てつけだろう。集合時間は……二時間後か」

「おや、随分と早いな。それでは、また旅立ちの用意をするとしよう」

「そうだな」


カミアの言葉に、まずは買ってきたものをしまうべく、買い物袋を再び持ち上げる。


義足は任務の後点検していないが、彼女が来ていないという事はさほど問題は無いだろう。


気になることがあるとすれば。


「再生指数0.08か。結構高いな」

「ふむ、0.08というのは再生する可能性の話か?」

「ああ。崩壊指数はその世界の人類、或いはその近縁文明の滅亡度。再生指数はその逆だ。崩壊が0.9、再生が0.1以下の世界は基本的にもう再生する可能性は無いって言われてるが……」


分かってる、きっとこんな思考は下らない。


それはさっき彼女が言った言葉、リゼルがやらなければ他の天者がやるし、やらなければ統合世界に悪い影響が出る。

実際この指数の基準自体も、機関が犠牲を限りなく減らすために設定したものだというのは分かる。


できるかぎり死ぬ人間が少なくなるように。


万が一、自分達が滅びることが無いように。


「リゼル、貴様が望むなら……足ごと貴様の枷を取り除くくらいはしてやろう」

「……要らねえよ」


吐き捨てた言葉に、カミアは僅かに笑う。


それから二人は特段何を話すこともなく互いに用意を済ませて軽く食事を取った後、天滅機関で待っていた、既に集まっていた部隊の元へ走った。


「あ、リゼル君!」

「ルルア、まさかこんな直ぐにまた一緒の部隊になるなんてな。よろしく頼む」

「うん!そういえばさっき聞いたんだけど……前回の任務の時、オーウェル様と一緒に助けてくれたんでしょ?ごめんなさい、私荷物持ちとか言って――――――」

「いいよ、別に気にしてない。俺の方こそ、最後まで待っててくれて嬉しかった」


ルルアの言葉に釣られて少しだけ笑うと、隣で舌打ちをするオーウェルへ視線を向ける。


言葉は無いが、こちらへ向く敵意は前と変わっていない。

とはいえ、前回報告で顔を合わせてから数時間なので、当然と言えば当然か。


「もう出発するのか?オーウェル」

「……ちっ、少し待ってろ。()()使()()()が話す」


不機嫌なオーウェルの言葉に、思わず少しだけ目を見開いてしまう。


それがどういう感情だったのか、もはや自分でも分からなかったが、少なくとも一定の間隔で刻んでいた鼓動が一瞬だけ早まったのと共に、近くの扉が叩かれる音がした。


任務前の部隊への使徒の来訪、それは即ち、今回の任務先に異変か、あるいは何か重要な事項が存在する証。


もっとも、大抵の場合は。


「失礼するわ。任務前にごめんなさい」


直後、簡素な扉からは考えられない程重苦しい開き方と共に、一つの白い軍服と丸眼鏡、剣、マント、そして辺りの雑音を、一度だけ聞こえた小さな呼吸がかき消した。


目で見なくても分かる、耳が聞こえなくとも。


ただ気配だけで分かる。


『ふはは、相変わらず途方もなく大きい気配だ。こんなのが後十二人も居るとは、殺すなら私と君、それにあの狂人女でも足りないな』

「……黙ってろ」

『おや、心配せずともこれだけ人数が居ればバレやしない。とはいえ、上官自ら激励とは―――――』


カミアの言葉に、思わず反応してしまった視線を僅かに横へ逸らすと、こちらをちらりと見たルルアと、滅多に拝めない使徒の姿を目に焼き付けんと一心に見つめる隊長様の姿が目に入る。


一拍遅れて彼を中心に弾けた空気は、全員で揃って胸に手を当て、敬礼の姿勢をとった証だ。


「楽にしていいわ。いつも言っているでしょう、私達は同じ志を持った仲間よ」

「はっ、ありがとうございます!ですが使徒様は皆の私達天者の憧れ、来訪を皆心待ちにしておりました!」


オーウェルの言葉にハンナが小さく「ありがとう」と言い、オーウェルはそこでようやく敬礼を解く。


こちらに対しては明らかに敵対的で横柄な態度のこいつがあそこまで従順になるとは、それだけ使徒という存在が正に天滅機関の象徴、統合世界の英雄である証なのだろう。


閃光の如き白い雷で統合世界の敵を瞬く間にせん滅する『純白の騎士(ホワイトナイト)』。


数多の人間を、世界を……あらゆる存在を滅ぼし続けた最強の絶滅者。


「とはいえ失礼ながら……何故多忙な使徒様ほどの御方がこんな一部隊の任務へ顔見せを?今回の任務においての伝達事項でしょうか」

「ええ、今回の任務において恐らく極少数の人類による文明復興の痕跡が有るとオペレーターから報告が有ったわ。だから前回の任務で功績をあげたあなた達への労いも兼ねた伝達と……そこにいる落ちこぼれへの警告よ」


女性、ハンナの言葉に、その場にいる全員の視線がこちらへ向く。


下らない晒上げ、だがこんなものは常日頃からあるので、今更気にするような事でもない。

だが実際、裏切りの経歴があるリゼルが、耳元で喧しく喋る奴と出会ったユドラリエに続いて、また滅亡世界とは。


『……ふは、本当に()()()な』

「御安心を、何かあれば二等天者である私が即座にこの男を処断します」

「……任務の成功を願うわ」


ハンナはオーウェルの言葉に、その場から反転して、今度はその扉を隊員たちが開く。


途中でカミアの不穏な言葉が耳元に聞こえてきたが、今更気にするものでも無いだろう。

いずれにせよ、彼女がいなくなったのなら今度こそ。


「第七使徒様、格好良かったね。私もあんな風になりたいなぁ」

「……なれるよ。ルルアなら」


隣から聞こえてきたルルアの言葉に、少しだけ目の奥が痛んだ。


いつからリゼル・レインライトにとって、天者は憧れではなくなった。


いつからハンナ・アンネーリエという幼馴染に対して、ここまでの嫌悪感を抱くようになった。


いつも思い出すのは遥か昔……それは地下室に繋がの部屋で象られた、今となっては不自然なまでに穏やかすぎた日々。


優しい先生が目の前に居て、賑やかな仲間が隣に居て、怖がりだった少女が後ろに居て。


『はぁ……はぁ……キーラ』

『あら、あらあら……リゼル、どうしたのその脚……⁉』


四年前、今はもう存在しない都市のどこかで。


『雨で足が動いていないわね。耐水性も無い酷い義足、何があったの?』

『先生……いや、キーラ……あんたは俺たちへの研究がバレて機関を首になった。その認識で合ってるよな?』

『……ふふ。ええ、合っているわ。私の最高傑作』


女性、キーラ・メイレンの言葉に、リゼルは無言のまま僅かな沈黙を返す。


その日は機関を裏切った馬鹿な天者が罰を受け、牢屋から放り出された雨の日だった。


彼女はかつて軍の中でも最上に近い権威を持った科学者だった。

だが研究を続ける中でその力を危険視した一派によって罷免、しかし実験から唯一生き残ったリゼルとハンナはその力を買われ、天滅機関へと強制入隊させられた。


逃げることはできない、いつでも捕まえられる首輪をつけたまま。


『それで、今日はどうしたの?その脚は……もしかして矯正処分でも受けた?』

『……キーラ、あんたは最高の科学者だ。俺達は……少なくとも俺はあんたを恨んでないし、これからもそのつもりはない。俺にとってあんたは家族で……たった一人の母親だった』


リゼルの言葉に、彼女がいつものように優しく微笑む。


キーラは子供たちを使って人体実験をした。

当然死んだ奴の怨念だとか、そういうのはこの辺に蔓延っているのかもしれないが、少なくとも彼女が見せてくれた作り物の笑顔は、あるいは彼女の発した偽りの愛の言葉は……偽物さえももらえなかった孤児たちを救っていた。


『……‼ふふ、あら、それは嬉しいわ。それなら、そんな私の息子は私に何をして欲しいのかしら?脚を直してほしいとかだと、今の私の持ってる設備だと――――――』

『違う。これは俺が失敗した戒めだ。俺には力がない。誰かを救うための力も、それを押し通すための力も何もかも。だからキーラ――――――』


この時、彼女が目の前で浮かべた表情を、リゼルは一生忘れる事は無いと思った。


一目で分かった、子供の頃実験結果を伝えた時よりも更に綺麗で、魅力的で……淀んだ……彼女の本当の笑顔。


悪意……そんな言葉でさえ表せないほど歪んだ毒に彩られた……目を離せなくなってしまうほどの魅力に。


『リゼル・レインライト、今君の目の前には三つの道が有る――――――』












――――――手を引いたまま誘われる道は……きっと引き返すことはできない。









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