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滅亡

「さて、それじゃあ先ずこの世界を消滅させようか。私は何をすれば良いんだい?」

「別に手伝ってもらうことはない。そこの壁に空いた穴から城の裏に出る。『(ひずみ)』って分かるか?」

「ふむ、知らぬ単語だな。城の裏手なら、『天の梯子』が有った場所だが……」

「天の梯子?」

「いわば生贄を捧げる場所だよ。主は罪人か自殺志願者、時折科学者のような奴も居たか。空間に奔った亀裂のようなもので年々広がっていてな。天からの招待状だ何だと言い始めた馬鹿共がそう名付けた」

「は、嫌な文化だな。でも多分そこだな」


カミアの言葉に僅かに視線を逸らすと、玉座の隣、壁に空いた穴から飛び降り、裏庭らしき場所を少し歩く。


世界を滅ぼすために必要な手順は二つ、一つは彼女が言っているような天の梯子、歪を見つける。

そしてその中に『修復デバイス』、腰に装着されている三つのひし形の道具の内一つ、小さな爆弾を投げ入れるだけだ。


「にしても、途中オペレーターからの通信が途切れたと思ったら、まさかデバイスが壊れてるとは」

「ふは、地面に同化した時に異音がする場所が有ったものでな。不幸な事故だ」

「……あの時か」


カミアの言葉に、頬に薄く残った傷に触れる。


広い世界を旅する天者にとって、地形や生物、天気などを教えてくれるオペレーターとの通信の途絶は任務達成確立を大きく下げる致命的な行為。

厳しい一部の管轄ではデバイスを破壊されただけで即帰還命令が下りるほどであり、それこそここ数日と世界を旅をしていたリゼルも彼女と出会ったのがもっと遠くの場所だったら、消滅を諦めていた可能性もある。


「これは、また後で小言を言われるな」

「ふはは、私と戦ってその程度の機械と手一つで済んだというのに小心な奴だ。手の方の傷はもう塞いだのか?」

「ああ」

「ならば良い。しかし、機関によるしがらみというのはどこの世界でも面倒なものなのだな。着いたぞ」


カミアの言葉に、動かしていた足を止めると、目の前に一つの倒壊した家屋、そして縦横十数メートルにも広がる小さな亀裂が視界に入る。

やはり、彼女の言っていた天の梯子と歪は同一のものか。


それなら後は。


「ほう、そんな小さなものでこの世界を丸ごと消滅させられるのか。私が何年もかけて根絶やしにしてやった苦労は何だったのか」

「……お前、どうやってこっちの世界へ来るつもりだ?一応帰還デバイスには緊急用に五人まで乗れるが到着するのは機関のど真ん中だ。直ぐにバレるぞ」

「おや、私の能力を忘れたのか?私の手にかかれば……!」


カミアはそう言うと、直後に体をこちらへ寄りかからせる。


何をしているのか、そんな疑問は一瞬にして体を通り抜けたひやりとした感覚、そして……背負われた一振りの巨大な大剣に変化した。


おまけに壊れたはずのイヤホン型デバイスにも。


「もう少し小さなサイズ、短剣とかになれないのか?」

『ふむ、現状では難しいな。私は鉱物を操れるし全身を変化させられるが、身体自体の質量は変えられない。余程質量の詰まった硬質の短剣でも触らせて貰えれば可能かもしれないが――――――』

「なるほど、そういう原理なのか。ちなみに、耳からする声はイヤホンを直したのか?」

『いいや、私の声専用に少し作り替えただけさ。改めてこれから末永くよろしく頼もう、リゼル・レインライト』

「……末永くはごめんだ」


カミアの言葉に会話を切ると、手元に取り出した崩壊デバイスをガチャリと回し、同時に真ん中に開いたデバイスを再び押し込む。


まるで何かをひっかいているかのように響き渡った不快な音は、デバイスの準備が完了した証だ。


「……最後、お前がやるか?」

『構わん、もとより未練のない世界だ』

「そうか、なら……」


カチリ、一つのボタンを押すとともに、崩壊デバイスを亀裂の中へ投げ込む。


僅か数秒の静寂、それはもし初めてであれば失敗したのではないかと勘違いしそうな間だが、既に数十、数百と滅ぼした今では帰るまでの準備時間にしか過ぎない。


やがて小さく息を吐くタイミングに合わせて、辺りに奔った巨大なエネルギーの波と空に奔った一筋の巨大な亀裂は、デバイスが正常に起動した証だった。


「ほう、体がふわりと浮かぶような感覚、これが滅びか」

「どうした?今からでも心中希望なら言ってくれ」

「ふは、何度も言っているだろう。元より出来るなら私がこうしていた。争い続ける愚か者達に与えてやるべきは無制限な献身でも、ましてや恒久的な平和でもない……等しき死だ」

「……そうか」


カミアの言葉に、辺りを再び強大な衝撃波が通り抜ける。


刹那の間に大地に、空間に、辺りを埋め尽くしていく異常現象に、身体を反転させると共に大地を蹴り、腰に装着していた残りの二つのひし形の機械の内一つを取り出し、ボタンを押す。

これは二対の背中のスラスターを開くことで移動の幅を一時的に空中へ拡張できる『飛翔デバイス』。


三十分という時間制限付きではあるもののその利便性は天者の誰もが携帯するほどあり、最後に一つ、腰に残っているのは。


『ほう、君の世界の者達は空も飛べるのか』

「時間制限付きだけどな。大体皆修復デバイスを使って消滅が始まったかの最終確認を行った後、逃げるために使う。そして最後は帰還デバイスで――――――!」


腰に装着したままの最後のひし形の機械を取り出す。


これが『帰還デバイス』、使用することで任意の秒数後、世界軸間での座標を入れ替える空間を数メートル先に作り。


『リゼル、一瞬だけ後ろを向いてくれ」


デバイスを起動する直前、背中から聞こえる声に、一度だけその場で振り返って。


「……目に焼き付けろ」

『ははははっ、君は気が利くやつだ!冗談さ。先も言っただろう、こんな世界には未練など――――――」


そして、彼女の言葉を待たずして後方へ踏み出したリゼルの耳に、遠くから機械音が鳴り響いた。


『帰還確認、五等天者リゼル・レインライト。異常確認……確認なし。破損機器を修理科へ提出の後、第四執務室へ報告を行ってください』


「はあ、ようやく帰ってこれた。こちらリゼル、了解」


スピーカーから聞こえた声に小さく息を吐く。


さっきまでとは一変して、リゼルの乗っている巨大な丸形の台の他には何もないだだっ広い空間。


『ゲート』、世界を滅ぼすことを生業とする天滅機関と呼ばれる特殊軍事部隊、そこへ所属する天者達がそれぞれの任務の世界へ出発、そして帰還するための場所。


『ほう、ここが君の世界か。石金属だらけ、快適だな』

「……さっさと行くぞ。面倒な報告を終わらせなきゃいけない」


耳元から聞こえる声に、そのまま再び小さく息を吐くと、円形の台の上から降り、少し歩くと目の前の扉を開けて廊下へ出る。


同じタイミングで任務を終えてきたのか、近くの扉から出てきた天者らしき人物がこちらを見て少しだけぎょっとしたような眼を向けたのは、背中に背負われている二対の巨大な武具のせいか。


『ふむ、無事バレていないようだな』

「結構目立ってるけどな。ちなみに、お前の能力がもし石や金属の操作・同化なら、この建物内は自由にいつでも移動できるのか?」

「そうだな。厳密にはそこまで便利でもないさ。今も触れてはいるが、一度でも同化していない物質は馴染むのにある程度時間がかかる。おまけに操るにしても密度が高いうえに加工されきっているこの建物は少し面倒だな」


皆殺しにするにしてても。

物々しい語尾に、思わずため息が出そうになるが、とはいえ今すぐ職員を全員殺して回ることは出来ないのか。


「……なら良い。今から上司へ報告に行くから一言も喋るな」

『ほう、それほど勘が鋭いのか?』

「……そうだな、多分」


その言葉に、カミアは短く『そうか』と言うと、それきり指示の通り沈黙する。

歩いていたのは十分くらいか。やがてリゼルは『第四執務室』と書かれた部屋の前に立つと、両開きの扉を軽くノックする。


「五等天者リゼル・レインライト、任務報告に参りました」

「……入って」


中から聞こえた女性の声に、リゼルは「失礼します」と僅かに頭を下げつつ、そのまま扉の片方を開ける。


機械づくりの武骨な部屋に、幾つかのモニターが置かれた金属の机。

その中心に居たのは、純白の髪に丸い眼鏡をした一人の女性だった。


少し見ただけでもわかる、明らかに異質な気配を纏った。


「第七使徒ハンナ・アンネーリエ様、五等天者リゼル・レインライト、任務報告をさせて頂きます」

「……続けて」


透き通るような女性、ハンナの声に、片腕を胸に当てたまま小さくお辞儀をすると、今までより2割ほどゆっくりと口を開く。

話す内容はさっきまで居た世界、滅亡世界ユドラリエでの任務の概要。

少し脚色したことが有るとすれば、それは当然彼女についてだが。


『……ふむ。リゼル、あの女は――――――』

「リゼル、その大剣は?任務に向かうときは持っていなかったはずだけれど――――――」


その瞬間、片耳のイヤホン越しに被せられた声に、適温のはずの部屋を、わずかに冷たい空気が通り抜けた気がした。


「……申し訳ありません、出発する直前に技師の知り合いから使い心地を試してくるよう言われてしまいまして」

「……分かったわ。次からは申請するように」


ハンナの言葉に、リゼルは「失礼致しました」と小さくお辞儀をする。

カミアの言葉に被せるように放たれた突然の問いかけ、だがこれは偶然被ったわけではない。


『……?ふは』

「報告は以上です。何も問題がなければこれで失礼します」


やがて、約束など聞きもしなかったように再び言葉を発しかける彼女に言葉をかぶせ、一通りの任務報告を追えて少しだけ強引に切り上げると、敬礼をして扉の方へ身体を反転させる。


小さく吐いたため息は、会話の通じない耳元の声への苛立ちだろうか。

とはいえ、ようやくこれで今回の任務は完全に終わり、後は帰り際に壊れたデバイス類を修理科に提出し、そのまま軍部の外へ出るだけ。


「リゼル、今期も最下位よ」


帰宅して、また命じられた次の任務へ。


「……そうですね。使徒様の足を引っ張らないように善処します」

「その必要はないわ。元々貴方には期待していない。次の任務の詳細は後からオペレーターを通して送っておくから、チームの皆を危険に晒さないように。万が一にも報告書で足を引っ張った旨の記述が有れば、軍法会議で除籍を提案するわ」

「……分かりました」


背中ごしに向けられる声に、僅かに顔を下げたまま扉に手をかける。

この時の顔を、背中に背負っているカミアは見ていただろうか。


否、きっとこれは、彼女の期待に()()()()()()()()リゼルの落ち度か。


『……』


それでも、ゴトりと鈍い音を立てて机の上から落ちた端末は、何かの意思で動かしたものであればと思う。


「あら、珍しいわね――――――」

「……机の右上から直ぐだ……気をつけてください」


立ち上がるハンナに、リゼルはそのまま扉を開いて部屋の外へ出て行った。


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