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「ぐっ、ごほ……っ!」

「身体の半分を吹き飛ばして生きてるなんてすごい生命力だな。何か言い残すことは有るか?」


瓦礫の一つに体重をかけて、血を吐いているオーウェルの身体に槍を向ける。


目の前に流れている血だまりと盛大に吹き飛んでいる半身は、もうその命が助かることはない。


「く、そ……くく、俺が……お前を侮っていたと……ごほっ、思うか?」

「……さぁな。でも少なくとも……俺は落ちこぼれじゃなかったみたいだな」

「くく……知って、いたさ……兄貴は……ごほ、油断してたわけじゃない。だから俺も――――――」


言葉が途切れる。


死に際の言葉は、結局何を言おうとしていたのか、それは本人にしか知る術はない。


思ったよりもあっけない幕引き、否、きっとこれからが始まりだ


気づけば、周りからも聞こえなくなった喧騒の声は。


「おや、ようやく終わったか、主。私は退屈で死んでしまいそうだった」

「……思ったよりも手間取った。取り合えず帰還デバイスだけ回収してから――――――」


リゼルの言葉に、カミアは刃から貫かれている隊員らしき人の身体を振り落とす。


この後の対策は、何もない。

ただ少なくとも天滅機関で裏切りは許されないし、おまけにリゼルは二度目。


加えて隊員達には皆生存確認用のモニターも常に行われているため、このまま何事もなくという事は有り得ない。


「……リゼル君」

「ルルア、これで君が今、そこのアイシャを守ってくれた分はチャラだ。俺にあの時話しかけてくれた分も、守った分で果たした。だから次に会ったら……殺す」

「……リゼル君は、これからどうするの?」

「言っただろ。俺はノルンやアイシャ達を守る。だからその為に――――――」


邪魔になる天滅機関を、統合世界を皆殺しにする。


その言葉を聞いた時、彼女はどんな顔をしていただろう。


悲しんでいたのか、或いは憤っていたのか。


ただ今この場で彼女がアイシャを殺そうとでもしない限り手を出すつもりはないし、カミアが何かしても止めるつもりだった。


「……くは、ははは……おめで、たいな。リゼル――――――」

「……まだ生きてたのか」

「ごほっ……言っただろうが。俺は、お前を侮ってた訳じゃない……だから――――――」


刹那、地面から突き出した剣がオーウェルの身体を貫く。


本当に、異常な生命力だ。

それだけリゼルが恨まれていたのか、否、それよりも彼の発した言葉の持つ意味は。


「……おや、雨が止んだか」

「……‼違う、これは――――――!」




―――――――始まりは雲の切れ目に射した一筋の光だった。




「くは、はははは……本当に、おめでたいな……リゼル!お前たちはもうとっくに――――――」


オーウェルが血を吐く。


まだ死なないのか、リゼルのそんな思考を吹き飛ばすように刹那、辺りを覆っていた暗雲を一つの光が消し飛ばす。


それは……きっと光だった。


どんなに星の輝きを覆う夜闇も、邪悪でさえも、一顧だにさせないほどの……本当の光。


最も多くの人々を救い、多くの滅亡世界を滅ぼしてきた、最強の聖騎士。


「……ハンナ」

「リゼル、あなたは……」


青空に浮かぶ一人の女性、ハンナ・アンネーリエの姿に、僅かに舌を鳴らす。


最悪、とてもそんな言葉で言い表せない程の言葉が思考を覆ったのは、彼女がオーウェルはおろか、リゼルやカミアでさえも比べ物にならない程の力を持っていると分かっていたからだ。


全天者達の憧れであり頂点に座する一等天者、そんな強者達でさえ傅く、本物の第七使徒。


「ふはははは、いきなり親玉の登場か!」

「……不味いな。あいつらは――――――」


槍を構える。


当然浮遊デバイスを展開して最初から全力。

それでも……刹那移動と言う行為を認識するよりも早く目の前に迫った剣に、続けざまに放たれた光の剣に、ギリギリ槍を滑り込ませるのが精いっぱいだった。


「っ、カミア!」

「ふむ、串刺しに――――――」


カミアがハンナの背後に剣を構え、その身体を三対の光の剣が通り抜ける。


同時に放ったのは槍の大砲、それを彼女は剣を軽く振ると、逆に衝撃波で受け止めたリゼルの身体を吹き飛ばす。


だがその隙をついて、背後へ回ったカミアがその身体を受け止めた。


「ははははははっ、本当に強いな!」

「リゼル、どうして裏切ったの?あの時で学習したでしょう?それとも――――――」


再び、ハンナの身体が消える。


と同時に、辺りに奔ったのは一筋の白い光……白い雷。


直後に交差された切り傷と共に吹き飛んだのは、カミアだった。


「……ハンナ、俺はお前たちのやり方に賛同できない」

「リゼル、いい加減に目を覚まして」

「目を覚ます?ああ……覚ました、覚ましたよ。俺は……俺を頼ってくれた滅亡世界の奴らを守る。そしてそのために――――――」


お前たち統合世界を滅ぼす。


その時の彼女の顔は、嫌われていると思っていたリゼルでも意外な程悲しそうだった。


それでも、こんな事でそんな表情を見せられるなら。


滅ぼされる側の気持ちを少しでも考えられるなら。


「……そう、あなたがそのつもりなら――――――」


ハンナが懐から小さな一つの結晶を取り出す。


見覚えのある幾何学的な紋用は……義足の従属権限用の制御デバイス。


「リゼル・レインライトに従属権限を発動、この場で脚の操作権限を――――――」

「……!ハンナ、俺は――――――」




『従属権限?』

『ああ、今回の裏切りで俺の脚に仕込まれた。これをバレないように取り外してくれ』


四年前、ある日の研究室の一角。


『うーん、難しいわね。緊急用の権限だとコアの近くかしら。開けても良い?』

『勿論』


椅子に座って脚を見せるリゼルに白衣を着た女性、キーラが工具を使って開く。


彼女曰く、義足の仕組みは当然なのかもしれないが、かなり複雑だったらしい。


『なるほど、コアエネルギーを常に取り込むことで一定時間取り外すと通知がいく仕組みになっているのね。でもそれなら――――――』

『……出来そうか?』

『うふふ、これくらい……私には訳ないわ。でも取り外すとバレちゃうから、いつでも合言葉一つで外せるようにしておくわね。次いでに外装も取り替えて、幾つか機能も足しちゃいましょうか』

『……助かる』


リゼルの返事を最後に、キーラは黙々と脚の改造を始めていく。


思えばこの時だったのかもしれない。


いつか誰かを助けたいと思った時に動けないのが嫌だった。

例え悪魔に魂を売っても、いつかそのせいで自分が死ぬことになっても。


『よし、これで良いわ。動かしてみて』

『……ああ、問題なく動く。でもキーラ、本当に良いのか?これ、もう軍に関係ないアンタにとっては――――――』


軍で管理されなければならない犯罪者の枷を勝手に外すなど、バレれば脱獄ほう助どころの騒ぎでもないだろう。

それに頼みに来ておいてではあるが、実際そこまでの義理も無い。


『うふふふ……そうね。そういえばリゼルにはまだ私の話をしたことなかったかしら』

『キーラの話?』

『ええ。私ね、父や母に憧れて研究者になったのよ。彼らは二人とも優秀な研究者だったけれど、ずっと天才の陰に隠れた秀才だった。だから有る時禁忌である人体実験に手を染めて……私をその道具に使ったの』

『道具……俺達みたいにか?』

『……!ええ、そうね。どちらかと言えば私は人を集める側だったけれど、私ってほら、見た目が整っているでしょう?それが母は気に入らなかった。だから人集めに使って、そうしている内に父も娘という存在への優位性に気づいたのか色々と私を使うようになって――――――』


嫌な話、そう思ったところで、キーラは手元に一つの薬を取り出すと、その中から一粒を取り出す。


『昔は多くて大変だったけれど、今はこの一粒で身体が正常に動かせる。私ね、実験のせいで身体のほとんどが異物を分解できなくて溜め込んじゃうのよ。すい臓に肝臓に、腎臓に、正確な数はもう忘れちゃったけれど、これを飲まなければ3日くらいで死ぬわ』

『……臓器を機械にすればいいんじゃないか?』

『ええ、出来なくはないわ。より正確に言うなら、治して不老不死にまでなれる。人間と呼べるかは定義次第だけれど、脳と心臓だけ人間のものを使えば』


科学の極地、今の彼女を表す言葉があるとすれば、きっとそんな陳腐な称号だけだっただろう。

とはいえ人間の定義を考え直さなくてはならない話などもはや想像もしたくないが、彼女と話していると何が可能で不可能なのか、時折分からなくなる。


『彼らはね、私を使う事で天才たちを追い抜いた。そして一瞬で消されたわ。私の目の前で、その研究を機関から危険視されて』

『なら、お前も消されるな』

『ふふふ、あり得ないわ。私は天才だもの。彼らの研究課題を知ってる?『異世界からの侵攻に対するで防壁の開発』笑えるでしょう?数多の人間と自分の娘まで実験機にかけて、彼らは世界を守ろうとしてたなんて』


いつもと違う口元を歪めて笑うキーラ。


彼女の言葉は、やけに耳の奥に響いた。

それが心を読まれていた気がしたからなのか、否、きっとそれは今更考えるべきことでもない。


『やっぱり仕返しじゃないか』

『あら?言われてみればそうだったかしら?でも、憧れてるのは本当よ?私、彼らが死んだときの顔が、ずっと忘れらないの。研究も完成せず死ぬって言うのに卑しいほどに勝ち誇った笑みを浮かべて、血だらけの手で私へ次の実験をしようと迫ってきて……うふふふふ』


もはや恍惚としているようにも見える妖しい笑顔。


リゼルという犯罪者の脚を治せるのは、彼女しかいなかった。


彼女でなくてはならなかった。


『……俺は、そんな事をするつもりはない』

『うふふ、そうね。あなたはそんな人じゃない。私のリゼルは誰よりも優しくて、清廉で……でも私は知っているわ。あなたは大切な人のため、こうして脚を失ってまで踏み出せることを。あなたは大切な人のため――――――』




――――――他の全てを、壊し尽くせることを。


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