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救国の騎士団長様は魔王軍幹部(サボり魔)でした  作者: 華乃ぽぽ


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6/11

第6話:天敵襲来! 聖女様の『善意』は、魔族にとっての『猛毒』でした


 運命の3日後。

 王城の正門前は、熱狂的な歓声に包まれていた。


「聖女エリナ様万歳!」

「我らに神の祝福を!」


 降り注ぐ花びらの中、豪奢な馬車から降り立ったのは、太陽の光を糸にして織り上げたような金髪の美少女だった。

 聖女エリナ。

 慈愛に満ちたその笑顔は、まさに天使。存在するだけで周囲の空気を浄化する、『歩く聖域』そのものである。


(……眩しっ。直視したら目が潰れそう)


 出迎えの列の末席で、ココは目を細めた。

 彼女の全身から放たれる神聖なオーラは、一般人には心地よい暖かさだが、魔族関係者(共犯)であるココには、肌をチリチリと刺すようなプレッシャーとして感じられた。


(これが魔王軍幹部を脅かす『聖なる毒』……。確かに、濃度が違うわ)


 ココは気合を入れ直した。

 本日の任務はシンプルかつ高難度。

 『いかなる手段を使っても、聖女をレオンハルトに接触させないこと』。

 成功報酬は金貨50枚。失敗すれば、レオンの正体バレと共に、ココの優雅な老後計画も崩壊する。


   ***


「まあ! 皆様、温かい歓迎をありがとうございます!」


 エリナは花束を抱え、キラキラとした瞳で周囲を見回した。


「ところで、レオンハルト様のお姿が見えませんが……?」


 来た。第一関門だ。

 ココはすかさず一歩前に進み出た。

 背筋を伸ばし、完璧な角度のカーテシーを披露する。


「お初にお目にかかります、聖女様。レオンハルト様の専属メイド、ココと申します」

「専属メイド? まあ、レオンハルト様が女性を側に置くなんて珍しいですわね」

「恐縮です。……誠に残念ながら、主人は本日、『極度の過労による高熱』のため、執務室にて伏せっております」


 ココは悲痛な面持ちで嘘をついた。


「過労……!? あの強靭な英雄様が!?」

「はい。国境警備の激務が祟ったようで……。医師からは『絶対安静』と『面会謝絶』を強く申し付けられております」


 完璧な言い訳だ。

 これで「可哀想に、ではまた後日」となるはず――


「なんてこと……! それは一大事ですわ!」


 エリナの碧眼が、使命感で燃え上がった。


「すぐに案内してください! 私の『回復魔法ヒール』があれば、お熱なんて一瞬で治せますもの!」


(……ですよねー!!)


 ココは内心で舌打ちをした。

 この聖女、手綱の壊れた暴走馬車のようだ。善意だけで突っ走っている。


「お気持ちはありがたいのですが、悪い流行りはやりやまいの疑いもありまして……」

「平気です! 聖女の加護はあらゆる病魔を弾きますから!」

「い、いえ、しかし騎士団の規定で……」

「英雄の危機に、規定など言っていられません! さあ、参りましょう!」


 エリナはドレスの裾を翻し、迷いのない足取りで城内へと進んでいく。

 ココは冷や汗を拭い、その後ろ姿を追いかけた。


(強行突破ですか。……上等です、そっちがその気なら!)


   ***


 第3騎士団長執務室の前。

 そこが、最終防衛ラインだった。


「ここですわね!」


 エリナが扉に手をかけようとした瞬間、ココが滑り込むようにして立ちはだかった。

 扉を背に、両手を広げて仁王立ちする。


「どいてください、ココさん。一刻も早く治療を……」

「なりません。主人は今、ようやく眠りについたところなのです」


 ココは低い声で告げた。

 その背中越しに、部屋の中から尋常ではない気配を感じる。

 レオンハルトだ。

 聖女が近づいた影響だろう、扉一枚隔てただけで、彼が苦悶しているのが空気の振動で伝わってくる。


『……ココ、助けて……! 皮膚が……皮膚がピリピリする……!』


 脳内に、情けない悲鳴が響く。

 どうやら聖女の魔力は、扉など存在しないかのように透過してダメージを与えているらしい。


『動かないでください。今、追い返しますから』


 ココは念話で叱咤しつつ、エリナに向き直った。


「聖女様。お気持ちは分かりますが、睡眠こそが最大の薬です。どうか、彼を休ませてあげてください」

「でも、苦しんでいるのを放置なんてできません! せめて、扉越しに『広域回復エリア・ヒール』を……」


『ヒィッ!? やめて! それやられたら僕、蒸発する!!』


 レオンハルトの絶叫。

 エリナが杖を構える。

 先端の宝石が光り輝き始めた。


(まずい……!)


 ココは咄嗟に動いた。

 詠唱に入ろうとするエリナの手を、ガシッと両手で掴んだのだ。


「えっ? ココさん?」

「……聖女様。貴女の手、とても温かいですね」


 ココは必死に話題を逸らしつつ、握った手からわずかに魔力を吸い取って詠唱を阻害する。


「主人は言っていました。『聖女様の手を煩わせるわけにはいかない。自分の力で治してこそ、真の騎士だ』と」

「レオンハルト様が……?」

「はい。彼は貴女の優しさを誰よりも理解しています。だからこそ、甘えたくないのです。……その誇り高い騎士の覚悟を、どうか尊重していただけませんか?」


 ココは潤んだ瞳(演技)でエリナを見つめた。

 エリナはハッとして、杖を下ろした。


「……そうですわね。私ったら、自分の気持ちばかり押し付けて……。彼の騎士としての誇りを傷つけるところでした」


 彼女は慈愛に満ちた瞳で、閉ざされた扉を見つめた。


「わかりました。今日は引き上げます。……レオンハルト様に、どうかよろしくお伝えください」

「はい、必ず」


 エリナは深く一礼すると、名残惜しそうに、しかし満足げに去っていった。

 その背中が見えなくなるまで見送り――ココは大きく息を吐き出した。


「……ふぅ。ちょろくて助かりました」


   ***


 ガチャリ。

 鍵を開けて執務室に入ると、そこは蒸し風呂のような熱気に包まれていた。

 ソファの上で、レオンハルトがぐったりと横たわっている。

 シャツは汗で張り付き、呼吸は荒く、顔は赤く火照っていた。


「……ココ……?」


 虚ろな瞳が、ココを捉える。

 その瞬間、彼は弾かれたように起き上がり、ココに飛びついた。


「うわっ!?」


 ドサッ!

 勢い余って、二人はソファに倒れ込む。

 上になったレオンハルトの体温は、火傷しそうなほど熱い。


「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」


 彼はココの首筋に顔を埋め、深呼吸をするように何度も匂いを嗅ぐ。

 ココの体質が、彼の体内に蓄積した「聖なるストレス」を急速に吸い出していく。


「近いです、レオン様。暑苦しい」

「……充電させて。今、離されたら本当に干からびて死んじゃう」


 彼は甘えた声で囁くと、ココの腰に回した腕に力を込めた。

 聖女の前では見せなかった弱りきった姿。

 汗ばんだ髪がココの頬に触れ、重たい鼓動が直に伝わってくる。

 それは、ただの雇用主と使用人の距離感を完全に越えていた。


「……よく追い返してくれたね。さすが僕のココだ」


 彼は顔を上げ、熱っぽい瞳でココを見下ろした。

 その瞳孔は、興奮と安堵で妖しく揺らいでいる。


「ご褒美、何がいい? 金貨? 宝石? ……それとも、僕?」


 いつもの軽口。

 だが、その声色は普段より低く、つやめいていた。

 ココは一瞬ドキリとしたが、すぐに鋼のメンタルを取り戻し、彼のみぞおちに指を突き立てた。


「当然、金貨です。……今回の防衛成功報酬50枚に加えて、今の『至近距離セクハラ耐久手当』として10枚追加します」

「……いったぁ」


 レオンハルトは苦笑いしながらも、ココから離れようとはしなかった。

 むしろ、より深く、安心しきったように体重を預けてくる。


「……ん。安いもんだよ」


 彼はそのまま、ココの肩に額を乗せて目を閉じた。


「……ねえ、ココ。聖女が帰るまで、ずっとこうしていて」

「……別料金ですよ」

「うん、払う。だから……」


 規則正しい寝息が聞こえ始めるまで、そう時間はかからなかった。

 ココは重たい「大型犬(魔族)」を抱えたまま、やれやれと天井を仰いだ。

 どうやらこの危険な防衛戦は、あと数日続くらしい。


(ま、割の良い仕事だと思って、付き合ってあげますか)


 ココはそっと、彼の汗ばんだ髪を撫でてやった。

 もちろん、この「撫で賃」もしっかり請求するつもりだが。


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