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救国の騎士団長様は魔王軍幹部(サボり魔)でした  作者: 華乃ぽぽ


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第11話:深夜の怪奇現象! 呪いの手紙と『重すぎる』愛の正体


 【深夜・レオンハルトの私室】


 草木も眠る丑三つ時。

 王城の騎士団長室に、女性の悲鳴……ではなく、男の情けない絶叫が響き渡った。


「ギャァァァァァッ!! ココぉぉぉぉッ!! 起きてぇぇぇぇ!!」


 ドタドタドタッ!

 隣の控室で眠っていたココは、扉が破られんばかりの勢いで飛び込んできたレオンハルトに叩き起こされた。

 彼は枕を抱きしめ、涙目でガタガタと震えている。


「……何事ですか、レオンハルト様。今は午前2時です。深夜手当は通常の1.5倍になりますが」

「金なら払う! 全財産払うから助けて! い、いたんだよ! 『出た』んだよ!」

「出た?」


 ココが怪訝そうに眉をひそめると、レオンハルトは震える指で自分の寝室を指差した。


「……手紙が。ドアの隙間から、赤い文字で書かれた手紙が差し込まれたんだ……」


 最強の魔族にして魔王軍幹部『怠惰』のベルフェゴール。

 神をも恐れぬ力を持つ彼だが、実は**「お化け」と「幽霊」が大の苦手**だった。物理攻撃が効かない相手には、滅法弱いのだ。


「……はぁ。どうせイタズラか、熱烈なファンレターでしょう」

「違う! あれは絶対、怨念が籠もってる! 『返せ』って書いてあったんだ!」


 ココは渋々ベッドから起き上がると、ランタンを手にレオンハルトの部屋へと向かった。

 レオンハルトは「先頭は無理」と言わんばかりにココの背中に張り付き、腰に回した腕でギュウギュウと締め付けてくる。


「……苦しいです。離れてください」

「無理。離れたら死ぬ。背中の温もりだけが今の僕の命綱だ」


 ココはため息をつきつつ、部屋の床に落ちていた「それ」を拾い上げた。

 確かに、禍々しいオーラを放つ羊皮紙だ。

 そこには、ドス黒い赤色(血のように見えるが、匂いからして安物のインク)で、こう書かれていた。


『……返せ……』

『……わたくしの……レオン様を……返して……』

『……あの泥棒猫から……取り戻す……』


「……泥棒猫」


 ココは眉をピクリと動かした。

 文脈から察するに、レオンハルトを独占しているココに対する脅迫状だ。


「心当たりは?」

「ない! 断じてない! 僕が愛しているのは、布団とスイーツとココだけだ!」

「……その並びに私を入れないでください」


 その時だった。


 ヒュゥゥゥ……。


 密室のはずの部屋に、生温かい風が吹いた。

 ランタンの炎が揺れ、影が不気味に伸びる。


「ひぃっ!?」


 レオンハルトが悲鳴を上げ、ココごとベッドの上に飛び乗った。

 そして次の瞬間。

 部屋の隅にある**「クローゼット」**が、ギギギ……とゆっくり開き始めた。


「あ、開いた……! 勝手に開いたぁぁぁ!」

「……誰かいますね」


 ココは冷静に懐からナイフ(銀製・対霊体用コーティング済み)を取り出した。

 クローゼットの暗闇から、ズルリ……と何かが這い出てくる。

 長い髪。白い肌。そして、純白のドレス(寝間着?)。


「……レオン様ぁ……」


 地の底から響くような、怨嗟の声。

 その姿は、幽霊そのものだった。


「ギャァァァァッ!! ごめんなさい! 悪気はなかったんです! 呪わないで! とり殺さないでぇぇ!」


 レオンハルトはココの背中に顔を埋め、子供のように泣き叫んだ。

 しかし、ココはその「幽霊」の姿をじっと観察し、ある違和感に気づいた。


(……足がある。それに、この魔力の波長……どこかで?)


 幽霊はゆらりと顔を上げ、充血した目でココを睨みつけた。


「……許さない。よくもわたくしから、レオン様を奪いましたね……この、『堅物メイド』!」

「……は?」


 幽霊が叫ぶと同時に、部屋の中にあった「布団」がバサリと舞い上がった。

 それは、昨日の任務の報酬で手に入れた、王家秘蔵の『最高級羽毛布団』だ。

 布団はひとりでに動き出し、幽霊の身体に巻き付いた。


「わたくしこそが、レオン様を包み込むのに相応しい女! 貴女のような骨っぽい膝枕じゃ、彼の安眠は守れませんわ!」

「……えっと」


 ココはナイフを下げ、呆れたようにため息をついた。


「……もしかして、『布団の精霊つくもがみ』ですか?」


 その言葉に、レオンハルトがおそるおそる顔を上げた。


「……え? 布団?」


 幽霊――改め、布団の精霊は、フン! と鼻を鳴らした。

 よく見れば、彼女が纏っているドレスは高級な羽毛布団の生地そのものだ。


「そうですわ! わたくしは、この『王家秘蔵・天上の安らぎ布団』に宿りし精霊、『フワワ』! 数百年の時を経て、ついに理想のスリーパーに出会えたのです!」


 フワワは恍惚とした表情で、レオンハルトを見つめた。


「ああ、レオン様……! 昨晩、貴方がわたくしの上で惰眠を貪った時、電流が走りましたわ! その無防備な寝相! よだれの跡! そして何より、一度寝たら二度と起きないという堕落した魂! ……貴方こそ、わたくしが包むべき運命の方!」


「……えぇ……」


 レオンハルトはドン引きしていた。

 幽霊ではなかったことに安堵したが、今度は別の意味で恐怖を感じているようだ。


「で、でも、あの手紙は? 『返せ』って……」

「もちろん、ココとかいうメイドからですわ!」


 フワワはココをビシッと指差した。


「貴女、昨日の夕方、レオン様を膝枕で寝かせましたわね!? 許せません! レオン様の睡眠は、わたくしが独占するはずだったのに! 貴女の太ももごときに、わたくしの極上の羽毛が負けるはずありませんわ!」


 嫉妬だ。

 しかも、太もも VS 羽毛布団という、極めてハイレベルなクッション性へのプライドをかけた嫉妬である。


「……なるほど。要するに、私の膝枕が気に入らないと」

「そうです! 今すぐレオン様をわたくしに渡しなさい! 一生、布団の中から出られない体にしてあげますわ!」


 フワワが両手を広げ、布団を触手のように伸ばして襲いかかってきた。

 物理的な攻撃なら、レオンハルトの出番だ。


「……ココ、どうしよう。なんか愛が重いんだけど」

「自業自得です。貴方の寝相が良すぎるのが悪いのでは?」

「そんな理不尽な!?」


 ココは迫りくる布団をヒラリとかわすと、冷徹な商人の顔で提案した。


「フワワさんとおっしゃいましたね。……貴女の目的は『レオン様を最高の状態で寝かせること』。違いますか?」

「そ、そうですわ! わたくしの中なら、彼は永遠の安らぎを得られます!」

「ですが、布団にはメンテナンスが必要です。干さなければカビますし、洗濯しなければ臭くなります。……レオン様は『ズボラ』ですよ? 一人で貴女の管理ができますか?」


 その言葉に、フワワの動きが止まった。


「……っ! た、確かに……。この男、脱ぎっぱなしの靴下を布団の中に押し込むタイプ……!」

「でしょう? そこで提案です」


 ココはニッコリと微笑んだ。


「私が貴女(布団)のメンテナンスを完璧に行います。除菌、消臭、そして天日干し。常に最高のフカフカ状態を維持しましょう」

「……ほ、本当ですの?」

「ええ。その代わり……レオン様の睡眠時間の『半分』を譲ってください。残りの半分は、貴女にお任せします」


 フワワは悩み、葛藤し、そしてレオンハルトの顔を見た。

 レオンハルトは必死に頷いている。「頼む、交渉成立させてくれ」という顔だ。


「……分かりましたわ。その条件、飲みましょう」


 フワワはスゥッと姿を消し、元の高級羽毛布団へと戻った。

 そして、ふわりとベッドの上に広がり、誘うように膨らんだ。


『さあ、レオン様! 今夜は朝まで離しませんわよ!』


 布団から直接、愛の重い念話が聞こえる。


「……はぁ。とりあえず、解決……かな?」


 レオンハルトは疲労困憊でベッドに倒れ込んだ。

 瞬間、布団がガバッ! と彼を包み込み、ミノムシのように拘束した。


「うわっ!? 苦しっ……あ、でも……すごいフカフカ……」


 精霊が宿っているだけあり、その寝心地は魔力的なまでに快適らしい。

 レオンハルトの表情が、一瞬でとろけるような快楽に染まる。


「……やばい、これ……魔界より気持ちいいかも……」

「それは良かったです。では、おやすみなさいませ」


 ココは用は済んだとばかりに部屋を出ようとした。

 しかし。


「ま、待ってココ! 行かないで!」


 ミノムシ状態のレオンハルトが、芋虫のようにのたうち回ってココを呼び止めた。


「な、なんかこの布団、すごい密着してくる! あちこち触ってくる気がする! 怖い! 一人にしないで!」

「……布団ですから、密着するのは当然でしょう」

「違うんだよ! なんかこう、念が籠もってるんだよ! ……ねえ、今日だけ! 今日だけでいいから、ココも一緒に寝て! 僕を守って!」


 最強の魔族が、布団に襲われるのを恐れて添い寝を懇願している。

 情けない。あまりにも情けないが、ここで見捨てて不眠症になられても明日の業務に支障が出る。


「……はぁ。分かりました」


 ココはため息をつき、ベッドの端(レオンの手が届く範囲)に椅子を持ってきた。


「一緒には寝ませんが、貴方が眠るまで手くらいは握っていてあげます。……別料金ですが」

「払う! ありがとうココ! 大好き!」


 レオンハルトは布団の拘束から無理やり手だけを出し、ココの手をギュッと握りしめた。

 その手は温かく、少しだけ震えている。


「……おやすみ、ココ。……明日の朝、僕が布団に食われて消えてたら、捜索願を出してね……」

「善処します。おやすみなさい」


 結局、レオンハルトは「重すぎる愛(物理)」に包まれながら、ココの手の温もりを頼りに眠りについた。

 彼にとっての安息の地が訪れるのは、まだまだ先になりそうだ。



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