(4)順調なスタート
取締役会終了後、轟はすぐさま2つの指示を出した。
一つは、ターゲットとしている東京のFM局3社を計画よりも安価で買収すること。
もう一つは、可能な限りローコストでオペレーションすることだった。
それを受けて、すぐに動いた。赤字に陥っている東京のFM局3社に打診したのだ。
すると、渡りに船と、トントン拍子に買収が決まった。それも、準備した買収金額の約8割で済むというおまけまでついた。これで投資回収計画のリスクが大幅に減った。轟に報告すると、殊の外喜んでくれた。
すぐさまプロジェクトチームを発足させた。
その初回会合で、買収した3局を『ポップス専門局』『ジャズ専門局』『ロック専門局』として新装開局する準備を始めるよう指示を出した。
それだけでなく、轟の賛意を取り付けた上で取締役会の承認を得て、3局の上に持株会社を設立することを決めた。
『KIZUNAステーション』
ミュージシャンと音楽ファンの間に強い絆が結ばれることを願って命名した。
運営にも知恵を絞った。徹底したリスナー志向と徹底したローコストオペレーションを考えたのだ。それは、パーソナリティー・ゼロというアイディアに結びついた。コマーシャルの時間を除けば音楽100パーセントのFM局として運営するのだ。これなら人件費を大幅に削減できるし、聞きたくもないパーソナリティーの話に煩わされなくてもいい。
但し、放送されている曲名が知りたいというリスナーのために工夫を凝らした。それぞれの専門局のホームページに本日の放送曲リストを掲載したのだ。そこに放送時間と曲名を載せ、曲名をクリックすると、イントロが20秒だけ流れるようにした。リスナーはこれで確認できる。
もちろん、各音楽制作会社の許可を得ることを前提とした。そして、その曲が気に入って購入したくなったら、CD購入とダウンロード購入が選べるような仕組みを作り上げた。その売上は即、各音楽制作会社に分配される仕組みと共に。
選曲にも十分配慮した。エレガントミュージック社100パーセント出資とはいえ、自社が抱えるミュージシャンの曲を優遇することを禁止したのだ。もし優遇すれば、洋楽のすそ野を広げる試みに水をかけてしまう。だから、音楽制作会社色に染まっていない中立の音楽評論家を選び、専門局ごとに選曲委員会を設けた。そして、リスナーの立場に立った選曲を依頼した。中立性と公平性を重視したのだ。
開局したあとは認知拡大に取り組んだ。これにはREIZが全面的に協力してくれた。ホームページやSNSで積極的に専門局開設の発信をしてくれたのだ。
その上、ロック専門局の認知拡大にビートローリングスとクイーン・クリムゾンがまたもや協力してくれた。そのお陰で一気に認知が広がり、多くのリスナーを獲得することができた。
リスナーが増加すると当然のようにスポンサーが増え、収支に好影響を与え始めた。
その結果、嬉しい報告に接することになった。FM局買収の投資回収期間が大幅に短縮されるという報告が経営企画室から取締役会に報告されたのだ。2.5年に半減できるという。
会議が終わった時、胸のつかえがなくなっていることに気づいた。失敗した時の責任を取る心配から解放されたからだろう。気が楽になったこともあり、一時中断していた新人発掘の取り組みを再開することにした。REIZに続く有望な新人バンドを見つけ出して世界デビューさせるという夢を実現させなければならないのだ。




