(2)代替案
予想通り取締役会は紛糾した。添付したシミュレーション資料では5年後に投資金額を回収できることになっていたが、社外取締役2名が猛反対した。それは机上の空論でしかないと言い張るのだ。それに、音楽制作側が取り組むことではないという意見が蒸し返された。
それはもっともなことだった。一般論としては正しいからだ。しかし、経営戦略においては、時として常識を超えた判断が必要な時もある。今回が正にその時であると訴えた。
それでも反対する2名は強固だった。無謀な投資はしてはいけない、特に本業から離れている投資は慎むべきだと声を大にした。
それに対して、無謀な投資ではないと反論した。5年後には回収できる健全な計画だと強調した。
しかし、2人の賛同を得ることはできなかった。
その他の取締役は双方の議論を黙って聞いているだけだで、一言も声を発さなかった。
轟は腕を組んだまま議論の行方を見守っていたが、次回もう一度検討することを告げて取締役会を終わらせた。
*
「2人を納得させる何かが必要ね」
轟の声は落ち着いていた。
「今日のように回収計画を盾に強行突破しようとすれば、却って防御を固くさせてしまうわ」
「そうですね」
強固に反対する2人の顔が脳裏に浮かんだ。
「でも、回収計画以外の案となると……」
何も思いつかなかった。
しかし、轟は違っていた。
「回収できなかった時の案も併記したらどうかしら」
「と言いますと」
「計画通りに進んだ時とそうでない時の案を併記して、例えうまくいかなかったとしても大きな怪我にならないことを示すのよ」
「それは、回収できなかった時の損害を減らす施策を講じるということですか?」
「そう。そうすれば経営に大きな影響を及ぼさないでしょう」
「そうですが……」
しかし、そんなうまい話があるのだろうか?
首を傾げるしかなかったが、轟の口からは思いもかけない言葉が飛び出した。
「売却シナリオを考えて」
「売却ですか?」
思いがけない言葉に声がひっくり返ってしまった。
「そう。5年で回収できなかった場合には売却をしてマイナス額を圧縮することを付け加えるの。そうすればあの2人の態度も和らぐのではないかしら」
「なるほど……」
「その売却も完全売却と部分売却に分けて検討して欲しいの」
轟が言うには、定款の変更や資本の増減、合併や営業譲渡、取締役や監査役の解任、解散決議ができる67パーセントを残す案と、決算の承認や取締役・監査役の選任、役員報酬の決定ができる51パーセントを残す案を併記したいのだという。つまり、33パーセント売却と49パーセント売却と100パーセント売却の3案について比較検討が必要だというのだ。
「わかりました。3案を併記したシミュレーションを準備します」
飛び出すように社長室を出て、経営企画室へ向かった。再度シミュレーションを繰り返して最適解を導くのだ。
今度こそあのあいつらに賛成と言わせてやる!
全身の血が騒ぐのを抑えきれないまま経営企画室のドアを開けた。




