(2)朗報
それから半年ほど経った頃、音野から連絡があった。
卓上型が完成したというのだ。
最上は喜び勇んで彼の元を訪れた。
「ジャジャーン」
満面笑みになった音野がテーブルの上に置かれた白いシーツを取り払うと、パソコンより一回り大きなサイズの診断機器が目に飛び込んできた。落ち着いたグレーの筐体と小型の超音波プローブが信頼感を醸し出していた。
「これから日米欧で同時に臨床研究を始めて、大型の診断機器との相関性を調べます。それで同等性が示されれば臨床現場で使えることになります」
「それって、保険適応になるということ?」
「そうです。承認されれば保険適応となります。但し、新たな点数が付加されるのではなく、既存の内耳機能検査の一つとして請求できるようになると思います」
「それはどれくらいの期間が……」
NMEの承認時期に間に合うかどうかが、最上にとっての最大の関心事だった。
「大丈夫だと思います。NMEは現在第三相の臨床試験中ですよね。早ければ新薬の申請前後、遅くても薬価収載される頃にはこの診断機器が臨床で使えるようになると思います」
それを聞いて思わず歓喜の声が漏れた。〈診断―治療―確認〉が一気通貫で出来る仕組みの目処がついたからだ。
「ありがとう」
最上は深々と音野と冶金に頭を下げた。
*
更にその半年後、再度連絡があった。
超小型化への目処がついてきたというのだ。
説明してくれたのは冶金だった。
「日本の軽薄短小技術の凄さを実感しました。無理を承知でいくつかの企業に依頼したところ、そのうちの一社が引き受けてくれて、先日その試作品を届けてくれました」
超小型機械の開発で世界最高水準の技術を持つ会社が最先端微細加工技術を用いて開発してくれたというのだ。
「これがその試作品です。まだ改良すべきところは多々ありますが、卓上型に比べてかなりの小型化が見えてきました。機能を最小限に絞ることにはなりますが、最終的にはタブレット型端末と同等の大きさにまでしたいと思っています」
本体だけでなくプローブの小型化も視野に入れているという。
「遅くとも半年後には完成品に近い試作品をお見せできると思いますので、楽しみに待っていてください」
音野と冶金の揺るぎない眼差しに心を射られた。
その途端、堪え切れなくなった涙腺が全開になった。難民キャンプなどで苦しんでいる聴覚障害患者を救うための最後のハードルを乗り超える目処がついたのだ。最上の長年の夢がゴールテープを切ろうとしていた。




