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(3)難聴とゴミ拾い

 

 キーボーに会う前、最上の誘いを受けてニタス博士と食事を共にした。

 その時、アメリカ製薬の〈ある取り組み〉についての説明を聞いた。


「わたしたち製薬会社は新薬の有効性、安全性を確かめるために多くの動物に助けてもらっています。しかし、それは犠牲を強いていることでもあるのです。動物実験が必要不可欠とはいえ、痛ましいことに違いはありません。ですので、前臨床試験で命を落とした動物たちの霊を慰めるために敷地内に動物慰霊碑を建立(こんりゅう)しています。そして、毎年、慰霊祭を執り行っているのです。更に、」


 会社を上げて動物保護活動に力を入れていることを力説した。


「毎年1,000万ドル以上の寄付を行っています。寄付だけでなく、社員がボランティアとして活動することを奨励しています。世界各国の動物保護団体と協力して絶滅の危機に瀕している動物たちの保護に取り組んでいるのです」


 その言葉には、NME開発に貢献してくれたマウスやラット、チンパンジーに対する感謝の思いが溢れていた。

 しかし、それだけではなかった。博士は優しさに満ちた表情になって言葉を継いだ。


「須尚さんのご友人の難聴は耳への過度な負荷によるものだと思います。先ずは耳を休ませてあげることが重要ではないでしょうか」


 その通りだと思った。

 即座に頷いた。


 博士も頷き返したが、唐突に「わたしたちの活動の一つとして、アメリカ東海岸でのプラスチックごみ収集活動があります」と、プラスチックごみが与える海洋への影響を説明し始めた。


「人間が捨てたプラスチックごみは小さく分解され、マイクロプラスチックとなり、海を回遊しています。その数は膨大で、推測不可能な規模になっています。そして、それを食べた魚や海獣が命を落とすだけでなく、人間の体を(むしば)もうとしています。マイクロプラスチックを食べた魚や海獣を人間が食べ、体内にマイクロプラスチックを取り込んでいるのです。今後どのような影響がでてくるのか、大きな懸念が示されています。そこで、わたしたちはプラスチックごみを出さない活動をするだけでなく、海岸に打ち上げられたプラスチックごみを回収する活動をしているのです」


 その活動記録を指し示しながら、博士は言葉を継いだ。


「須尚さんのご友人を誘っていただけないでしょうか。海岸線を歩きながら、プラスチックごみを拾っていただけないでしょうか」


 頷くことができなかった。

 言っていることがよくわからなかった。

 提案の意味がよく飲み込めないのだ。

 難聴とプラスチックごみ拾いとの関係が理解できなかった。

 首を傾げていると、彼はニッコリと笑って、優しく問いかけた。


「海岸に寄せては返す波の音を聞きながらプラスチックごみの回収をする作業は耳と心に優しいはずです。自然と交わること、そして、世の中の役に立つ活動をするということは大きな満足感を得ることになります。それは、耳を休め心を休めることに繋がるのです。録音スタジオという狭い世界から解き放たれて、海という大自然に包まれた生活をすることの意味は大きいと思います。いかがですか?」


 思いやりに満ちた目でじっと見つめられた。


        *


「どうかな?」


 ニタス博士の提案を伝えてキーボーの顔を覗き込むと、柔和な表情に変わった。

 海でプラスチックごみを拾っている自らの姿を思い浮かべているのだろうか、まんざらでもなさそうだった。


「サードアルバムの録音が済んだら、俺も一緒に手伝うよ」


 令が父親の肩に手を置いた。


「そうだな、それもいいかもな」


 キーボーの顔に笑みが浮かんだ。



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