表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/103

須尚正(1)

 

 REIZのセカンドアルバムはデビューアルバムを超える大ヒットになった。200万枚を超えたのだ。その上、全国6か所のドーム球場ライヴが発売即ソールドアウトになった。

 それにメディアが拍車をかけた。音楽誌や芸能誌だけでなく、スポーツ紙や一般紙、そして、各種雑誌でも大きく取り上げられた。


 一種の社会現象となっていた。そういう状況だから、関係者だけでなくすべての社員のテンションが上がっていた。今まで経験したことがないような興奮状態が社内を包み込んでいた。

 そんな時、突然社長に呼ばれた。内示だった。


「君を役員に推薦しようと思う。受けてくれるかな」


 にこやかな表情で見つめられた。


「役員……」


 思いがけない言葉に、喜びよりも戸惑いが勝った。


「君がイヤと言っても推薦するがね」


 大きな声で肩を揺するようにして笑った。


「ところで、REIZのことだが」


 悪戯小僧のような表情から社長の顔に戻った。


「サードアルバムは全曲英語でやってもらいたい」


 えっ? 

 全曲英語?


 突然のことに慌ててしまったが、話はそれで終わらなかった。


「アメリカで勝負させたい。そして、世界へ羽ばたかせたい。これは社運を賭けての挑戦になる。よろしく頼む」


 社長の右手が伸びてきて、分厚い手で右手をがっしりと掴まれた。しかし、話が急展開し過ぎてすぐに声を発することができなかった。役員というだけでも強烈なのに、世界という言葉、更に、社運という言葉に度肝を抜かれていた。

 それでもなんとか「承知いたしました」という言葉を絞り出したが、その意味の重さに押しつぶされそうになった。


        *


 翌月の取締役会で承認され、株主総会を経て、正式に取締役に就任した。そして、企画部を担当することになった。


 轟は代表取締役副社長に就任した。

 それと同時に、古参の役員たちが退任した。

 将来の轟体制への布石が打たれたのだ。

 それは、激動する時代を生き抜くための布石でもあった。


 2010年のCD売上は5年前の6割の水準に落ち込んでいた。音楽DVDとネット配信は伸びていたが、CDの落ち込みを補うには力不足だった。


「人口減少が加速する国内市場にとどまっていては遠からず死の宣告を受けるようになるわ」


 新聞に掲載された〈総人口の長期的推移〉のグラフを見ながら、轟は大きなため息をついた。


 日本の人口は2004年の1億2,700万人強をピークに、2050年には9,500万人まで減少する可能性が示されていた。そして、2100年には5,000万人を割り込むという信じられない予測も付加されていた。


「終戦の時でも7,000万人いたのに……。政府は何をやっているのかしら」


 新聞は歴代内閣の無策を厳しく指摘していた。人口減少が国力減退につながることを何もわかっていないと。表向きの対策ばかりで実質を伴った出生数増加策が打てていないと。


 遅まきながら、2007年に内閣府特命担当大臣として少子化対策担当というポストが設けられたが、毎年コロコロと大臣が変わり、ただ引継ぎが繰り返されているだけの状態が続いていた。国民は呆れるばかりだった。


「悲しいけど、日本の将来を真剣に考えている政治家や役人はほとんどいないのよ。女性が子供を産み育てることの大変さを本当にわかっている人がいないの。男性主導型社会の限界ね。女性が主導する新しい時代が来ない限り、日本は滅亡するかもしれないわ」


 轟は、息と共に体の中から苛立ちを押し出すようにして、未来へ目を向けた。


「国を当てにはできない。国がなんとかしてくれると思ってはいけない。わたしたちは自らの力で生き残っていくしかないわ。人口減少で日本市場が縮小していくのだから、日本にとどまっているわけにはいかないのよ。社長が言う通り、REIZの世界進出成功無くして我が社の将来はないと思うの。だからなんとしてでも成功させなければならないの」


 強い決意を目に漲らせていた。


「準備を進めています。幸い、令はアメリカ育ちで英語は完全にネイティヴです。麗華も大学ではすべての授業を英語で受けていただけあって、英語で作詞することになんの違和感もないようです。というより、英語の方がメロディーを乗せやすいとも言っています」


 伝え終わるや否や、轟は顔を綻ばせた。


「頼もしいわ。須尚さん、よろしく頼むわね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ