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須尚正

 

 正式に契約を済ませた翌月、麗華と礼を会社に呼んだ。デビューに向けての重要な話をするためだ。内容を伝えていないせいもあるのか、麗華と礼は神妙な表情でこちらを見つめていた。


「まあ、そんなに緊張しないで」


 気持ちを解そうと笑みを投げたが、効果はなさそうだった。仕方がないので、すぐに本題に入ることにした。


「ちょっと待っていてくれ」


 立ち上がって応接室を出て、隣室に待たせている人を呼びに行った。

 ドアを開けると、2人が頷いた。

 頷き返して、応接室に戻り、自分の横に座らせた。


「ツアーメンバーを紹介する」


 ドラマーとベーシストだと告げた。

 その瞬間、2人は、えっ⁉ というように目を見開いた。

 それは無理もなかった。ドラマーとベーシストは父親と同年代なのだ。


 こんな年寄りとバンドを組むの? 


 麗華の顔にそう書いてあった。


 無理だよ! 


 令の顔には憂いが浮かんでいた。


 そういう反応が返ってくるのはわかっていたが、余りにも予想通りだったので笑ってしまった。それでも、しっかり伝えて安心させる必要があるので、緩んだ顔を引き締めた。


「REIZにピッタリのメンバーであることを保証する」


 ドラマーは、田滝太湖。

 ベーシストは、部素弦太。

 そう、タッキーとベスだった。


「えっ、あのビフォー&アフターのタッキーとベス……」


 令の口と目がこれ以上は無理というほど大きく開いた。


「よろしく」


 スキンヘッドのタッキーが数ミリ頭を下げた。若い頃と違って顎髭を生やしていた。その中に白いものが混じっていた。


「お手柔らかに」


 白髪の混じった長髪のベスが、ニヒルに笑いながら、心にもないことを口にした。


「あっ、よろしくお願いします」


 礼に続いて麗華がぎこちなく頭を下げた。


 それで違和感が消えたかどうかはわからなかったが、これからすべきことを彼らに告げた。以前、轟がビフォー&アフターに課したように、デビューする前の腕試し前座ツアーを企画していたのだ。但し、そのツアーの主役はロックバンドではなくアイドルグループだった。それもただのアイドルグループではなく、クラシック界を飛び出した7人の美女グループだった。

 その名はSEVEN ROSES。

 7つのバラ。

 美しさに加えてバイオリンの名手揃いだった。

 そして、動きのある演奏を得意としていた。


「彼女たちに負けない拍手を、いや、凌駕(りょうが)する拍手を勝ち取れるかどうか、それを評価の基準とする」


「そんな~」


 麗華と礼が同時に不満そうな声を出した。


「彼女たちは人気絶頂のアイドルグループなのよ。美しくて品があって、でも色気もあって、その上バイオリンの名手揃いだし」


 勝てるわけがない、というように麗華が頬を膨らませた。

 同調するように、令も不満気な顔をこちらに向けた。


 そんな2人に対して、「やって見なきゃわからないだろう」とタッキーが鼓舞した。

「怖気づくな!」とベスが叱りつけた。

 その通りだった。最初から諦めていたら勝負にならない。


「そうだけど……」


 麗華はまだ頬を膨らませていたが、オジサン3人組はREIZが負けるとは露ほども思っていなかった。麗華と令には自分たちの魅力がまだわかっていないと確信していたからだ。


 タッキーがニヤリと笑って、口火を切った。


「君たちにはオリジナル曲がある。彼女たちはどうかな? 彼女たちはクラシックの名曲を現代風にアレンジして演奏しているだけだ。オリジナル曲はない。それに、麗華ちゃんは彼女たち7人全員を合わせたより美しい!」


 その瞬間、麗華は頬を染めたが、令が思い切り頷いた。


 するとベスが割り込んだ。


「もう一つ武器がある。REIZにはSEVEN ROSESにはない特別な武器がある」


 令を見た。


「超ハンサムな男性ミュージシャンという絶対的な武器がある」


 令は照れたが、今度は麗華が思い切り頷いた。


 んん、


 聞こえるように大きく喉を鳴らすと、4人の視線が集まった。

 それを一人一人見返してから、きっぱりと告げた。


「勝負は下駄を履くまでわからない」



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