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須尚正


エレガントミュージック社の役員応接室に入った2人は、サイドテーブルに置かれたセンスの良いフラワー・アレンジメントに目を奪われたようだった。それは、普通よく見かける胡蝶蘭の鉢ではなく、エッフェル塔を模した造形物の下部にある花瓶に紫色系のバラがいくつも浮かべられていた。


2人がうっとりとしたような表情でバラのアレンジメントに見惚れていると、ノックの音がして、待ち望んだ人が入ってきた。


「お待たせしました」


 品の良いベージュのパンツスーツに純白のインナーを合わせた女性の右腕には、シンプルなワイヤー・ブレスレットが飾られ、ゴールドな輝きを添えていた。


 2人は同時に立ち上がって、同時に声を出した。


「よろしくお願い致します」


麗華と礼だった。


「こちらこそよろしくね」


答えたのは、轟響子だった。


「聴かせてもらったわ」


企画部担当取締役に昇進した轟は、麗華が送ったデモCDを手にしていた。


「須尚さんと木暮戸さんの子供がバンドを組むなんて……」


感慨深げに麗華と礼を見つめたあと、こちらに視線を向けた。そして、「驚いたでしょう」と言った。


「飛び上がるくらいに」


おどけてみせると、そうでしょうね、というように口元が綻んだ。しかし、麗華の焦れたような声がそれを遮った。


「あの~、わたしたちの曲は……」


令も同じような目で轟を見つめていた。


轟は手に持ったCDに視線を落とした。


「ハッキリ言って」


麗華と令が唾を飲み込んだ。ゴクンという音が聞こえてきそうなほど、大きく飲み込んだ。


すると轟が顔を上げ、「ハッキリ言って、最高よ!」と満面に笑みを浮かべた。その瞬間、一転して2人の顔がパッと明るくなった。


「契約させてもらうわ」


 それは2人にとって夢のような言葉だった。そのせいか麗華は泣き出しそうな顔になったし、令も口に手を当てていた。

それでもなんとか表情を戻して轟に向き合い、「REIZというバンド名を考えています」と麗華が声を絞り出した。令は「デビュー曲は『サンライズ』にしたいのですが」とデモCDのクレジットを指差した。2人は轟の目を食い入るように見つめていた。


しかし、轟はさり気なく目を逸らし、意味ありげにこちらを見た。


「企画部長は須尚さん。わたしじゃないわ。バンド名もデビュー曲も須尚さんの承認を得てください」


そう言い残して、席を立った。


ドアが閉まると、それを待っていたかのように、麗華がすぐさまこちらに向き直った。


「お父さん、じゃなかった、須尚部長、REIZとサンライズでいかがでしょうか」


グッと身を乗り出すと、横に座る礼も同じように顔を近づけてきた。


「んん」


思わせ振りに喉を鳴らして顔を交互に見た。

そして、自分の中で最高に威厳がありそうな低くて渋い声を出した。


「よかろう」



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