(3)バンドへ加入
2年生になって、やっと学校封鎖が解けた。講義も再開され、大学に活気が戻ってきた。
それは自分にとっても同じだった。作詞作曲編曲研究会に入会したものの部室に行けない状態が続いていたが、やっと練習らしい練習ができるようになったのだ。
それだけでなく、正式にバンドに加入することになった。メンバーはあの3人、スキンヘッドと茶髪長髪と黒髪長髪。彼らは全員一年先輩だった。
スキンヘッドの名前は田滝太湖で、愛称はタッキー。
茶髪長髪は部素弦太で、愛称はベス。
黒髪長髪は木暮戸弾で、愛称はキーボー。
それぞれの音楽志向はバラバラだった。タッキーとベスはジャズ志向が強く、キーボーはバラードが好きだった。そして、自分はハードロック。
6月の大学祭まで時間がなかったが、なんとか形にしようと練習を繰り返した。
その日も大学の近くにある貸しスタジオでたっぷり2時間練習を行い、その後、決起会という名目で飲み会をすることになった。
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安さが売り物の焼鳥屋に行って、すぐに串の盛り合わせとビールを注文した。
乾杯すると一気飲みのような感じになり、2杯目を注文すると、すぐに盛り合わせが運ばれてきた。
全員の目が皿に集中すると、遠慮合戦のようになったが、「お先」と言ってタッキーがキモを取ると、ベスの手が伸びて皮を、キーボーがつくねを取った。残ったのはネギマだったが、これは大好物だったので「残り物に福あり」とほくそ笑んだ。
しかし、和気藹々はそこまでだった。ジョッキを持ったタッキーが「もっとビシッとしたインパクトのある曲をやりたいな」と不満げな声を出したのだ。すると、ベスが同調した。
「バラードばっかりだと、カッタルイしな」
しかし、同調しないのが一人いた。キーボーだった。
「そんなこと言うなら、お前らが曲作れよ」
ふて腐れたような表情になると、一転してタッキーとベスが肩をすくめた。それは無理だ、というように顔をしかめた。作詞作曲ができるのはキーボーだけなのだ。だから、彼が作るバラードタイプの曲をタッキーとベスがジャズ風にアレンジして演奏していた。
そこにハードロック志向の自分が加わって、更にアンバランスが加速した。キーボーが歌う甘いバラードに、タッキーとベスのジャズ風アレンジ、そして自分の速弾き、誰もが違和感を覚えていた。しかし、キーボー以外に曲を作れる人はいないし、しかも本番までの時間は残り少なかった。
「とにかく今は大学祭までに演奏レベルを上げることが大事ですから」
説得するようにジョッキを上げると、苦笑いのような表情を浮かべて3人もジョッキを上げたが、グラスをカチンと合わせることはなかった。
そのせいか、一気に流し込んでもいつものようなおいしさは感じなかった。それは、食道を通り抜けて胃袋に落ちていったものがビールだけではなかったからかもしれなかった。タッキーとベスが溜め込んだ不満と、キーボーの不機嫌と、なんとなく感じ始めたバンド分裂の心配が混じっているような気がして仕方がなかった。