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(5)ピンチ!

 

「なんとかしていただけませんか」


 河合の逆鱗(げきりん)に触れた翌日、必死になって営業部長に頼み込んだ。

 しかし、返事はつれなかった。


「前任者が協賛を約束したという証拠は残っていないし、それに、一昨年のことに今年の予算を使うわけにはいかない」


「そこをなんとかお願いします。このままだと長崎では我が社の曲は永遠に流れないことになります」


 実際、河合のラジオ局だけでなく、NHKからも自社の曲が流れることはなかった。地元の名士である河合の影響力はそれほどに大きいものだった。


「何度言ってきてもダメだ。金はビタ一文出せない」


 ガチャンと電話を切られた。


 バカヤロー! 


 プープーと鳴っている受話器に向かって思い切り怒鳴ったが、虚しいだけだった。それだけでなく、〈修復不可能〉という言葉が頭の中からはみ出しそうになっていた。

 それでも、諦めるわけにはいかない。『ロンリー・ローラ』の成否がかかっているのだ。

 それに、美麗とのこともある。なんとしてでもこれを解決しなければならない。

 なにか良い手はないかと必死になって考え続けた。


 名案は浮かばなかったが、苦し紛れに2つのことを捻りだした。河合に会ってもう一度謝ることと、美麗に取りなしてくれるよう頼むことだった。

 しかし、よくよく考えてみればどちらも藪蛇(やぶへび)になる可能性が高かった。

 なので、直ぐにこの考えを捨てた。そのあとはバカな考えさえも浮かばなくなり、八方塞がりの中で七転八倒するばかりだった。


 そんな悶々としていたある日、会社から段ボール箱が届いた。


 あっ! 


 開けた瞬間、体に力が漲った。プロモーション用のレコードが入っていたのだ。来月発売になる『ロンリー・ローラ』のレコードだった。


 あぁ~、


 1枚取り出して抱きしめた。

 そして、頬ずりをした。


 僕の子供……、


 愛おしくて、もう一度抱きしめた。


 ポスターも入っていた。キーボーとタッキーとベスがカッコ良く写っていた。その後ろで、サングラスをかけた自分が彼らの陰に隠れるようにミステリアスにポーズをとっていた。その下には、いかしたロゴで『期待の新進バンド「ビフォー&アフター」登場!』と印刷されていた。


 一気に気持ちが乗ってきた。悶々とした重苦しいものが跡形もなく消えた。はやる気持ちを抑えてレコードをターンテーブルの上に乗せ、針を下ろすと、イントロのギターが聞こえてきた。その瞬間、我を忘れた。


 曲が終わって、現実に戻った。いつまでも浮かれているわけにはいかなかった。無理矢理仕事モードに切り替えると、段ボールの中にチラシのような物が入っているのが見えた。


 手に取ると、プロモーション案と書かれていた。そこには具体的な販促の内容とスケジュールが記されていた。

 その下に目を移すと、〈問い合わせ先〉とあり、そこには担当者:轟響子と書かれていた。それを見た途端、解決の糸口が見えたような気がした。


 そうだ、彼女に相談しよう。

 彼女ならなんとかしてくれるかも知れない。


 祈るような気持ちで黒電話に手を伸ばし、企画部の直通ダイヤルを回した。


 呼び出し音が5回鳴ったあと、轟が出た。ちょっと緊張したが、スナッチだと気づかれないように落ち着いた低い声で自己紹介をし、用件を話した。『ロンリー・ローラ』の販促を成功させるためになんとしても解決したいと訴えた。


「わかったわ。どういう結果になるかわからないけど、とにかく上司に相談してみるわ」


 轟はNOとは言わなかった。営業部長の対応とは明らかに違っていた。


「お願いします。なんとかよろしくお願いします」


 受話器を耳に当てながら、何度も頭を下げた。


        *


 2日後、沈んだ声が受話器から聞こえてきた。


「企画部長に相談したんだけど、ちょっと難しいかもしれない、という返事だったの。ごめんね。なんとかしてあげたいのだけど……」


「ダメですか……」


 落ち込んだ。


「まだ完全にダメって決まったわけではないけど、部長は営業部マターに首を突っ込みたくないらしいの。2人の仲は良くないからね」


「そうなんですか……」


「そうなの。色々あるのよ。こんな小さな会社で、営業だ、企画だって言ってる場合じゃないのにね」


 皮肉そうなため息が聞こえてきたが、見捨てられたわけではなかった。


「もう少し時間を頂戴。他に方法がないか考えてみるから」


「なんとかよろしくお願いします」


 すがる人が彼女しかいないので、受話器を持ったまま頭を下げた。


 会社が対応してくれる可能性はほとんどないと気落ちしたが、返事を待つ間もレコード店への営業に手は抜かなかった。放送局のオンエアがなくてもなんとか売れる体制を作らなければならないのだ。重点先へのプロモーション提案を何度も繰り返した。


 有難いことにレコード店の反応は上々だった。重点的に訪問している店は全店でポスターを貼ってくれたし、新譜を1店舗3枚ずつ発注してくれた。その上、店頭で『ロンリー・ローラ』のプロモーション用レコードを一日に何度もかけてくれた。


 準備は上々だ。

 あとは、放送局だけ。

 放送局さえ攻略できれば最高のスタートを切ることができる。

 期待薄ではあったが、轟からの連絡を一日千秋の思いで待ち続けた。



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