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(3)多面的な分析

 

 手応えを感じていた。売上上位2割の店舗に集中することが理に適っているのは間違いないと思った。

 しかし、何か引っかかるものを感じてもいた。この60店舗はどこも比較的小さな店舗だった。そして、客で賑わうという雰囲気ではなかった。何か釈然としないものが胸の奥でつかえていた。


 何か見落としていないか? 


 そんな思いを抱きながら、長崎市で一番の繁華街〈浜町アーケード〉を歩いた。

 今日も人が多い。それも、女性が目立つ。


 この人たちは音楽に関心があるだろうか? 

 あるとすればどんな音楽だろうか? 


 そんなことを考えながら歩き続けていると、斜め右に大きな書店が見えてきた。隣接するようにレコード店があった。かなり大きな店だった。平日なのに客も多かった。


 レコード店の手前で鞄からリストを取り出した。

 自社の売上は信じられないほど少なかった。こんなに大きな店なのにおかしいと思った。

 すぐに店に入ってレコード棚を丹念に見ていったが、自社のレコードは洋楽の売れ筋以外何も見つけることはできなかった。


 ん~、おかしい。

 何か見落としている……、


 しかし、それがなんなのかまったく見当がつかなかった。


 浜町アーケードから思案橋へ向かい、老舗っぽい中華料理店に入った。

『長崎ちゃんぽん』を頼んで水を飲んでいると、ふと違和感の正体がわかったような気がした。自社品の売上分析だけでは不十分だと気がついたのだ。それは間違いないと思った。しかし、他にどんな分析をすればいいのかわからなかった。

 長崎ちゃんぽんを食べながら澤ノ上教授の講義を思い浮かべた。何かヒントになることを教えてくれたはずなのだ。


 思い出せ! 

 思い出すんだ! 

 脳の海馬から記憶を引っ張り出すんだ! 


 長崎ちゃんぽんをガツガツ食べながら海馬に気合を入れた。すると、それが功を奏したのか、おぼろげに教授の言葉が蘇ってきた。


「偏った分析はミスリードに……」

「多面的な分析が……」

「違った方向から物事を見る……」


 途切れ途切れに教授の言葉が蘇ってきた。その言葉の断片をつなぎ合わせると、「一つの見方だけでなく、違った方向から多面的に分析したものを俯瞰(ふかん)して見なければならない」となった。


 そうだ! 分析を一つしただけで、それがすべてだと思ってはいけない。違った角度から分析をして、それを総合的に見なければいけないのだ。


 よし、視界が開けてきた。


 胸の奥のつかえを押し流すようにスープを一気に飲み干した。そして、急いで自宅兼事務所へ戻って、本社に電話を入れた。


「前回、自社品の売上上位リストを送ってもらいましたが、今回は他社品も含めた店舗全体の売上分析をお願いします。……。そうです、規模の大きなレコード店が知りたいのです。……。はい、それと、できればその表に自社品の売上も記載して欲しいのですが。……。そうです。それで結構です。……。はい、よろしくお願いします」


        *


 翌週、規模別に上位から並べられたリストが届いた。依頼した通り、自社品の売上も併記してくれていた。

 前回と同じように計算してみると、規模別に並んだ上位2割の店舗で市場全体の7割弱を占めていた。2:8とは少し違うが、同じ傾向なのは確かだ。


 その上位60店舗の中で、自社品の売上上位店が何店舗入っているか数えた。

 たったの3店舗だった。

 ということは、つまり、客の多い大きな店舗には相手にされていないということだ。

 ということは、今までの担当者は他社がほとんど行かない小規模店だけを訪問していたのかもしれない。


 そういうことか……、


 見えてきた。2つの視点から分析すると、それまでとはまったく違う姿が見えてきた。


 すぐにやり方を変えた。売上があるからといって小規模店舗を重点訪問しても今後の伸びは期待できない。〈伸びしろ〉があるのは大型店舗だ。大型店中心の訪問計画に切り替えることにした。


 店舗規模上位60店舗と自社品売上上位60店舗から、リストで重複する3店舗を差し引いた計117店舗を4段階に分けた。

 Sは、規模が飛びぬけて大きい10店舗、

 Aは、店舗規模を重視して20店舗、

 Bは、店舗規模と自社品売上規模を勘案して30店舗、

 そして、Cは、それ以外の57店舗。


 分析結果を訪問頻度にリンクさせた。Sは週1回、Aは2週間に1回、Bは1か月に1回、Cは3か月に1回、と決めた。効率的な訪問計画が立てられそうだ。


 澤ノ上教授、ありがとうございます。


 マーケティングの第一人者から多くのことを学べたことに感謝した。



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