難聴救済ミュージックエイド
難聴救済ミュージックエイド当日を迎えた。午前中の雨が嘘のように止み、開場する頃には雲間から陽が射し始めた。
開演時間になり、大歓声の中、REIZがステージに現れた。スポットライトは麗華と令だけに当たっていたが、すぐに2人の後ろで演奏する4人のミュージシャンのシルエットが現れた。
その瞬間、ドラムソロが始まった。スティックをくるくる回しながら、鮮やかなシンコペーションとローリングで観客を魅了した。
令がスキンヘッドのドラマーを指差した。
「ドラムス、タッキー」
大きな歓声が上がると、ベースのソロが始まった。チョッパーでの演奏だった。親指を弦に打ちつける独特な奏法で、低音から高音までぐいぐい乗せていく。そして、ベースとは思えない速弾きが始まった。
「ベース、ベス」
またもや大きな歓声が巻き起こると、シンセサイザーによる金属的な響きのソロが始まった。音がギュインギュイン揺れながら、宇宙空間を超光速で瞬間移動する未来の飛行物体のように自由自在に飛び回った。更に、右手をもう1台のシンセサイザーに伸ばすと、2台のシンセサイザーで違うメロディーを奏で始めた。異次元の空間に連れ去られたようになった観客は目と口が開きっぱなしで、陶酔の世界に入っているようだった。
「キーボード、キーボー。俺のオヤジ」
会場が一斉に沸いた。
それを煽るように、ギターソロを始めた。この日のために練習を重ねてきた速弾きを連発した。世界の著名ギタリストにも負けないような速弾きの連続に興奮したのか、観客席から大きな歓声が上がった。
「ギター、スナッチ。麗華のオヤジ」
またも会場が大きく沸いた。
それを合図にしたかのように全員のアンサンブルが始まった。REIZとビフォー&アフターが合体したのだ。
エンディングに近づいた。
全員で飛び上がって全員で着地した瞬間、ジャン♪ という音で止めた。と同時に会場の明かりが消えた。
ピアノの音が流れてきた。
2台のピアノ合奏だ。
それぞれにスポットライトが当たった。
令が2人を紹介した。
「MOGAMIZ」
最上と笑美の40年ぶりの合奏だった。ショパンの名曲がジャズ風にアレンジされ、華麗で優雅な音が会場を包み込んだ。観客はウットリとその音色に惹き込まれていった。
MOGAMIZの演奏が終わると、ステージにスモークが立ち込め、ステージ後方がせり上がってきた。
それが止まると、ドラムソロが始まった。それも2人の。
更に、スモークを吹き飛ばすように雷音が炸裂し、ギターのリフと共にヴォーカルのシャウトが始まった。それも2人で。
絶叫が会場を埋め尽くした。
興奮して客が泣いていた。
ビートローリングスとクイーン・クリムゾンが一体となって現れたのだ。
会場が揺れているように感じた。
いや、揺れていた。
観客の波動が会場を大きく揺らしていた。
ビートローリングスとクイーン・クリムゾンの合奏が5曲続いたあと、コンサート最後の曲が始まった。
『サンライズ』
ピアノとギターだけをバックに、明日への希望を込めた麗華と令の歌が響き渡った。そこに、ビフォー&アフター、MOGAMIZ、ビートローリングスとクイーン・クリムゾンが加わって大合唱となった。それは、観客を巻き込んだ壮大なシンフォニーとなって会場を揺らし始めた。そして、すべての魂が一体となっていった。
演奏が終わると同時にステージの上から大きな幕が下りてきた。そこには、ミュージシャン全員の名前が大きな文字で描かれていた。その上に『KIZUNA』と書かれた更に大きな幕が下りてきた瞬間、大きな音と共に煙火が炸裂し、電子花火が左から右へ走りながら光った。そして、ステージから観客席へと走り続けた。光とスモークの中で観客は肩を抱き合い、手を繋ぎ合い、いつまでも感動に浸っていた。