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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

メリーさん

作者: すとーむ

つい先ほど先輩方が卒業したばかりのオカルトサークルでは、倉庫の掃除を行っていた。

「なぁ、この人形って誰のだ?」

 薄汚れて色落ちしたフランス人形を指さして、親友の一馬は退屈そうな顔で言った。

「先輩のだったと思うよ。持って帰り忘れたのかな。返しに行く?」

「いやだ、面倒くさい。第一お前、その先輩の家も知らないだろ?」

 それはそうだ。返しにいっても、先輩の場所の当てもない。

「なら、帰りにゴミ捨て場に寄っていこう」


 掃除が終わってやっと帰路についたとき、辺りは夜の街灯の明かりがあるばかりだった。

 今朝カラスに食い荒らされたのか、やたらと荒れたゴミ捨て場に僕たちはフランス人形を捨てた。

「じゃ、またな!」

「うん、また明日」

 一馬と別れた僕は路地を曲がり、家へと向かう。一馬と話しすぎて喉が渇いた、そう思ったとき、丁度良く自販機が目に入った。

 カラン、と音を立てて硬貨が落ち、同時に出てきたジュースを手に取った。

 目の前の公園を大回りしないといけないから、まだ家までは少し距離がある。いつもは気にならないが、今日はもう遅い。少しの罪悪感を抑えて公園の中を歩いて抜けると、蛍光灯の薄明かりの照らす僕のマンションのフロントが目に映る。

 502、鍵を回し玄関を開けて部屋に入る。

 食べかけのまま放置されていたお菓子の袋に手を突っ込むと、買ってきたジュースと一緒に飲み込んだ。

 すると、ポケットに入れていたスマートフォンがなった。一馬からの電話だった。

「一馬、どうしたの?」

 しばらく返事がない。間違えて掛けたのだろうか?すると、突如少女のような声が聞こえた。

「私メリーさん。今、ごみ捨て場にいるの」

 それだけ言うと、プツリと電話は切れた。

 メリーさん、捨てられた人形が持ち主の元に電話を掛けながら近づき、最後にはナイフや呪いやらで殺す。誰でも知っている都市伝説だ。今日捨てた人形を思い出す。金髪、少女型、フランス人形──全てメリーさんの特徴と一致する。きっと一馬は僕を驚かせようとしているのだろう。声ぐらい、今の時代いくらでも変えられる。

 でも、一馬は大切なことを忘れている。メリーさんからの電話は非通知、僕のスマートフォンにはさっきの一馬との通話履歴がしっかりと残っている。

 そう考えていると、またスマートフォンが振動する。一馬からの着信だ。

「私メリーさん。今、自販機の前にいるの。」

 またすぐに電話は切れた。たぶん、一馬と別れた後の自販機のことだろう。

 そこでふと疑問が浮かぶ。一馬に家の場所を伝えたこと、あっただろうか。休日はお互いバイトで忙しく、家で遊んだことなんてなかったはずだ。

 一応、一馬にメールを送ってみた。既読はつかない。

 また、スマートフォンが鳴る。

「私メリーさん。今、公園にいるの。」

 言い終わるのと同時に電話が切れる。

 怖かった。僕が帰る方向を見ていれば、自販機の方に向かっていることは分かったかもしれない。でも、公園を通ることなんて分かる訳が無い。本当にメリーさんなのではとも思ってしまう。

─突如、部屋中の電気が消えた。ただの停電、とは思えない。

 怖い、怖い、怖い。

 響く鼓動に紛れて、スマートフォンが振動する。

「私メリーさん。今──」

 気づけば電話を切っていた。次の言葉なんて分かっている。きっと"今、あなたの家の前にいるの。"なのだろう。

 なんで一馬の番号からこの電話が掛かってきたのが、どうして家を知っているのか──本当に、メリーさんなのか。

 そんなことどうでも良かった。ただ怖い。

今すぐにでも逃げたい。でも、逃げるのも怖くて体が動かない。

 ただ、もう鳴らないでくれと手の中のスマートフォンを握り締める。

 …プルプルと、手の中が振動した。そして通話ボタンを押す前に、メリーさんの声が聞こえてきた。

「私メリーさん。今、あなたの後ろにいるの。」

 僕の後ろ、真っ暗な部屋の中で、フランス人形の持つ一馬のスマートフォンが薄く人形を照らしていた。

 人形の持つナイフは一馬の血にまみれ、滴った血が一馬の家から僕の家まで赤黒い絨毯のように広がっていた。

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