9
「…それで?また聞くけど、お前たちはここに何をしに来たんだ?」
紅たちがトーマの従魔となる様子を確認した村人たちは、意外にもすんなり一部を除き、全てがトーマの主張を信じてくれた。
それから【死の森】で修行をしていたと言うと、しばらくここで休んでいくといいと言われ、去年貸してくれた小屋を再び充てがってくれもした。
現在はその小屋の中。
トーマは再び彼女たちに尋ねた。
人間とはなんとも愚かなもので、行動のみの…言葉というものを含む、2つのことなしには、自分の想像すら信じきれはしないのだ。
「ワゥワゥ。ワゥワゥ。(主を追いかけてです。例え森を捨てることになろうとも、私たちは主と一緒に…と思いまして…。)」
「キャンキャン。(私も同じく。)」
「キャンキャン!(だって主がいないと寂しいんだもん!)」
紅にセキ、アカはそれぞれ、トーマの想像の範疇の答えをしてくれた。
やはりトーマのしたことは間違いではなかったらしい。
「…俺も少しの間とはいえ、寂しかった。みんなが来てくれて嬉しい。これからもよろしくぞ。」
「ワゥ!(はい!)」「キャン!(こちらこそです!)」「キャンキャン!(いっぱい遊んでね!)」
「さて…それはともかくとしてお前たちは何か知らないか?」
「キャン?(何がです?)」
セキがトーマの言葉に疑問を投げかけてくる。
「どうやらここ1週間ほどの間、ザンギ…まあ、さっき俺たちに突っかかってきた奴だな…そいつの畑が荒らされていたらしいんだ。」
「キャン…キャンキャン…。(なるほど…それで私たちが疑われたということですね…。)」
「そういうことになる。俺としては森にいた限り、そしてまだ畑に行ってはいないが、村の中にいる限り特に引っ掛かることはなかった。」
「キャン…キャンキャン?(そうですか…私もです。2人はどうです?)」
「キャンキャン。(わかんない。)」
どうやらセキとアカには何もないらしい。トーマは何か感じ取ったのかと思い、先ほどからすっかり黙りこくってしまった紅に話を振ってみることにした。
「紅、お前はどうだ?」
「ワゥッ!?………ワゥワゥ…。(えっ!?……あ…まあ…私はその…まだ確証がないので…。)」
確証がない。
つまり、紅は何かに気がついたのだろう。
しかしながら、彼女はトーマの問いに答えはしなかった。
本音を言うならば、聞きたいのだが、彼女が言いたくないというのであれば、それを無理強いする気にはなれなかった。
トーマは森での暮らしもあり、彼女たちを信用していたのだから。
「…そうか…それならザンギの畑にでも行ってみるとするか?そうすればなにかわかるかもしれない。」
「キャンキャン。(名案ですね。)」
「キャンキャン!(行く!)」
「…ワゥワゥン。(…そう…ですね。行ってみます。)」
そうして、全員でザンギの畑に行ってみると、彼がなにやらたくさんの雑草混じりの畑を耕しており、そこには何も証拠らしきものすら見当たらない状態となっていた。
彼曰く、作物のほとんどが食い荒らされたのだとか…。
畑を見た紅は小さく呟いていた。
「…ワゥン。(…やっぱり。)」と。




