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そして、トーマが今いるのは、謁見の間。


おそらく他者を威圧するために作られた、豪奢な部屋。


そこは王座が一段高いところに置かれていおり、()()()()()常に見下ろされている感覚を伴うだろう。


こういう直接的視覚、感覚へと訴えかける作りが、案外、人に上下関係などを意識させるにはちょうどいい。


王座の横、そこには助言をするためか警護をするためか、王の臣下が控えており、謁見を受けるトーマのことを睨みつけるようにしていた。


リーゼもいるにはいるが、なんとなく気軽に話なんかをしてくれそうにもない。


なんとも居心地の悪い空間だ。



「貴様…その態度はなんだ!!」


まあ、そういう意見もあるだろう。


と、しっかりと()()()()()()()()()()()トーマはそれをテキトーに流す。


フン。


「…コイツ…。」


まあ、もちろんトーマはこの不遜とでもいうような態度をわざと取っている。


トーマとしても、波風を立てず行動することももちろんできるのだが、それで彼らがトーマに命令をする権利があると思わせるのは、今はマズい。


なにせトーマは広まってはいないとは言え、勇者である。それがどこの国であれ、そんな対応を取ったという前列を作るのは後々自分の首を絞めることに繋がると考えたのだ。


よって、こう言い訳を呈する。


「俺は見ての通り異国の者で冒険者。依頼があれば他国に拠点を据えることもあるだろう。もちろんこの後すぐにここを離れることも…。要するに、この国の国民ではないのだ。それなのにまるで臣下の礼を取るようなことはできまい。」


「なにを!!」


「よい、捨て置け。」


「しかし…。」


「よい。」


「…はい。」


「…王よ、それでは本題に移っても?」


「…ああ、話せ。」


「では…。」


そうトーマは今回のことのあらましを伝えた。


なにがあったのか、そして、どんな対応を取ったのかなどを…。


そう、トーマは今回のことの事情説明のため、呼び出されたのだ。それも朝一で。


まったく先日はトリギースがやたら酔い潰れるのに抵抗したせいで、大して寝ていないというのに、()()というやつは本当に人の事情というやつ考えない。


「近衛騎士団長。」


「かしこまりました、要件はわかっております。至急衛兵に連絡を!不逞の輩からなんとしても全てを聞き出せ!」


「は!」


「しかし、トーマよ。そんなことがありながら、なぜすぐに戻ってこなかった。」


「それではリーゼロッテ姫が舐められる。」


「ほう…。」


「今回イセリア姫がご婚約とのこと。そうなれば、いずれリーゼロッテ姫が外交の場に立つこと、民の前に立つことも増える。その時に現在も対して大がかりな変装などすることなく、街へと出ているリーゼロッテ姫のことは自然と知れ渡るかと…。」


「なるほど…先のことを見据えて…か…。」


「不遜とは思うが…。」


「うむ。」


王はどうやらその言葉に納得したらしい。


しかしながら、臣下たちの視線はやはりまだ冷ややか。


もしトーマが先ほど国民ではない臣下の礼を取るなど…という言葉を発していなければ、批判の嵐だったに違いない。


さて、ではもう一押し。


「幸いSランク冒険者のツララがこちらにはいた。彼女の側ならば、高い安全性が保証されよう。」


まあ、ツララがいたのは、途中からだがな…。


…というか…あっ…朝起こしてって言われてたような…。


なんとも質が悪いことに、あれからもツララはトーマに付きまとい、遂には泊まる宿にやって来てしまったのだ。なんとか同じ部屋になることは避けたのだが、泊まる部屋どころか鍵すら渡され、出掛ける時は起こせと頼まれていたことを、彼女の名前を出した今、思い出した。


…しかし、まあ、こんな面倒事になってしまったわけだから、起こしてこなかったことが正解だったと思うことにしておこう。


…というか、ツララはトリギースが酔い潰れるより早く自室へ帰っていただろうに、なんで俺が起こさなければならないのか…。本当にあの娘は自由人だな…はあ…。


「なっ…バカな…【氷刹姫】が…。」


ざわざわ。


王たちの様子が騒がしくなった。


どうやらSランク冒険者のネームバリューはやはり高いらしい。


「こっ……いや、今後もツララ殿のご助力は可能ということだろうか?」


王は思わずと言った様子でそれを口にしようとしたのだが、それはあからさま過ぎてマズいと思い立ったのだろう。彼は取り繕うようにして、トーマにそう尋ねてきた。


「…結果から言えば可能だろう。」


おお!と沸き立つこの国の幹部たち。


これは凄い!と。


残念ながら、リーゼロッテの安全がどうという言葉が出てきはしなかったが、まあ、さもありなんか…。


トーマは但しと条件を口にした。


「ただし、それはおそらく俺がいれば、ということだがな…。」


「?どういうことだ?」


「正直、こちらとしても()()迷惑な話なんだが、俺はそのツララにパーティーに誘われているせいか、どうも付きまとわれつつある。」


トーマは思いの外、感情的にそう伝えてしまった。どうやらトーマ自身本気で嫌なのだろう。


「…つまりはトーマがいれば、ツララが付随してやってくるため、トーマがリーゼを守ろうとすればそれに加勢するだろうとのことか?」


「ああ、おそらくその可能性が高い。」


なぜそのようなことがトーマにわかるのかというと、すでに似たような雰囲気をトーマはすでに経験していたからである。それも確かあの時は1月…いや、聖都までだから2月近く。あの時は同じ組織の人間の何人もに、代わる代わるというより質の悪い方法まで取られていた。


そして、トーマは再び思い出すのだ。今回の自体に絡んだ厄介ごとを。


…しかもあそこにも顔を出さないとなんだよな…しかも割と急ぎで…はあ…。


そんな風にトーマが内心溜め息を吐くと、王は彼の言葉を吟味するためか、唸り声を上げた。


「ううむ…。」


王はそう口にするなり目を閉じ、宰相含め他の人物たちはそれはあまりに不確実なものではないかという比較的反論優勢で口論が始まり…それにいかほどか時間を許した王は、目を開くなり、ふと手を挙げた。


どうやら王が決断したらしい。


「冒険者トーマ…できれば、娘の警護を頼めないだろうか?」


「いや、普通に嫌だが?」


「………は?」


呆けたような声を上げる王。すると、近衛騎士団長がトーマに食って掛かってくる。


「…貴様…っ!!王をおちょくっているのか!!」


「…落ち着け。だって、それは騎士団の仕事だろう?流石にこんな立派な人物たちがいるんだ。その仕事を奪うなんてとてもできはしまい。」


「ふむ、わかっているではないか。」と、トーマに対し多少好意的な視線を向けてくる近衛騎士団長。まあ、トーマとしても騎士団と事を構えるなどしたくはないのでフォローを少々しておこうということだ。


しかし、言うまでもなく、トーマが今発した言葉は方便である。


トーマとしては、単に()()()()ツララのことを押し付けられるのが嫌だったのだ。


Sランク冒険者【氷刹姫】ツララ。


後から酔い潰れかけの、なんでも情報フリーパス状態のトリギースに尋ね、情報収集したところ、彼女はやはり問題児だった。毎年彼女の機嫌を損ね、桁違いの被害者数が報告されていたのだ。


幸い手加減が上手なので死者はいないそうなのだが、エルフと勘違いした者、もしくは煽るなどしてしまった人物の中には後遺症が残る者もいたとか…。


現在はトリギースがいるため、そんな報告は減りつつあるらしいが、それはトリギースが文字通り身体を張って止めに入っていたからとのこと。そう彼が愚痴愚痴教えてくれた。


しかもトリギース自身、氷雪耐性がどうとも話しており、そのお守りはそんなありもしない耐性スキルモドキを獲得するほどに困難を極めるらしい。


そんな奴のお守りを俺にしろと?


冗談ではない。


トーマには幸い【隠蔽】スキルがあるのだ。ただリーゼを護るだけならば陰から護るなり、やりようはある。


正直、このスキルはトーマの奥の手の一つなので、できれば口外などしたくはなかったが、リーゼの生命の方が大切だ。口止めなりすることにしよう。


さて、後でこっそり伝えるか…。


「話は以上か?」


「…ううむ…ああ、行っていい。」


「それでは失礼。」


そう話は終わったとばかり、逃げるようにトーマがその場を後にしようとしたところ…。


「待ってくれ、トーマ!!」


リーゼに呼び止められ、トーマは思わず振り向いた。


リーゼの顔は見たところ、俯いて表情まではわからないが、微かに朱が差しているように見えた。


「…わ…私は…。」


リーゼはどこかたどたどしく言葉を口にしており、なにが言いたいのかはわからない。


いや、おそらくトーマは本能的に感じ取っていたのかもしれない。


しかしながら、彼自身逃げることなく、リーゼの言葉を待った。


覚悟を決めたのかバサッと顔を上げたリーゼに、誰もが息を呑む。


彼女は顔を真っ赤にして、目元を潤ませていた。それは可憐という言葉こそ相応しいほどに可愛らしいもので…。


「……。」


そして、その震える唇から、祈りを込めたような言葉が出てくる。


「わ、私はトーマに護ってほしいんだ!!」


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