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…太陽が憎い。


トーマは憎々しげに空を見上げた。


本日は晴天なり。本日は晴天なり。


そんな朝礼が適当なほど雲1つ無き空。


そんな空のもと、寝不足なトーマは外面は普段通り、内心では睡魔や疲労と戦いながら、ギルドへと向かった。


トーマは連日、紅たちが寝静まった夜中も含めて、様々な討伐を繰り返し、ようやく今朝5時頃というギリギリ太陽が昇る前に全てを終え帰宅し、眠りについた。


ちなみに起床は、依頼の成功報告もしなければならないので、8時である。もちろん朝の。



「…これはダメ…だな…。」



トーマは全ての依頼をこなした。こなしきった。せっかく全てを終えたのだ。


それなのにこんなに憂鬱な気分でどうする。


晴れやかな気分爽快でなければならないのではないか?


それに今日はCランク昇格試験の開始日なのだから。


試験と聞くと、緊張の一つでもしなければならない気持ちもあるのだが、カッコウからの数々の頼まれ事からすれば、どう考えても生命の危険が少なそうなのだ。


つまり、今日はピクニック。


半分オフだ。オフ!!


よし!休日楽し…いや、Cランク試験だ。頑張るぞ!


絶対合格だ!!


そう勢いよく、徹夜明けに近い知能指数がかなり落ち込んだ状態で、ギルドに向かったトーマだったが…。


「おう!トーマ、久しぶり!!」


…という声を聞くなり、一瞬にして素に戻り、開いてしまったドアを再び閉めようとした。


ガシッ!


…まあ、それはすぐ阻まれたのだが…。


「随分な挨拶じゃねぇか、久々に会ったってのに…なぁ、トーマ。」


「…トリギース…。」


憎々しげにトリギースなる青年を見つめるトーマ。


……カッコウ…アイツ俺に恨みでもあるのか?


実のところ、今回の膨大な数の面倒な依頼の処理は、カッコウも調子に乗ってしまった結果なのだが、当のトーマからすれば、その反応こそ正しいものに違いない。


まあ、そのおかげでカッコウは面倒事のほとんどがなくなり、()()()()()完全に気分爽快という状態なわけだが、それはトーマには関係ない。


「おう!覚えててくれたか、トーマ。そうだぞ〜、俺はトリギースだぞ〜。」


このチンピラの如きアンちゃんはトリギース。彼はAランクパーティー【ヒロイックエイジ】の現リーダーの聖剣士。


トーマとトリギースは、彼がこのティスラータを離れる前に受けた最後の依頼(正式な依頼ではなく、またカッコウの差し金)Aランク魔獣【レッドワイバーン】の討伐の時に出会った。いや、正確にはトーマがそれを討伐した後に。


その正当な方法で、またギルドマスター特例ではなく正式な依頼を受けたのは間違いなく【ヒロイックエイジ】だったのでトーマは手柄をやると、口にしたわけなのだが、他のパーティーメンバーはそれを受け入れてくれたのだが、戦闘狂で戦闘意欲満々だったトリギースに絡まれてしまった。


そして、彼らパーティーと戦うことに…。


それはそれは激戦となったのだが、結果から言って、トーマの惨敗。


それはそうだろう。なにせ相手はAランク冒険者5人である。そもそも普通、彼らのような冒険者は、格下であるDランクなど歯牙にもかけないものだ。


しかしながら、トーマは工夫することによって、【レッドワイバーン】の討伐に成功してしまったので、興味を持たれてしまった…というわけだ。


なんとかトリギースの予備の剣を再起不能にするくらいはできたが、それまで。


楽しそうに笑いながら、トリギースが聖剣を取り出したのだ。


流石にモノホンの聖剣なんてものを引っ張り出されれば、あの時の鋼の剣程度の硬度しか持たない糸では、前述とはまた少し違った()()()()()()()()()()プッツンプッツンと切られてしまうのは仕方あるまい。


まあ、これは完全に負け惜しみだが…。


しかし…確かコイツのホームは王都だったはず…。


トーマとしてはもちろん関わりたくなかったのだが、今後彼と関わりを持たないよう生活するためにも聞かないわけにはいかず、彼に尋ねた。


「…なんでアンタがここにいる?」


そのトーマの言葉にトリギースは待ってましたとばかりに胸を張った。


「フフン、俺、今日Cランク昇格試験の試験官なんだぜ〜♪」


その言葉にトーマは一瞬固まった。


「ヘイズのジジイが一度くらい試験官をやらんか!っていうから、仕方なく来たんだけど、まさかお前が試験を受けるなんてな。ラッキーだな♪」


…俺はアンラッキーだ。


それを聞くなり、完全に脳が覚醒したトーマはおそらく試験の概要説明をするであろう受付嬢に声をかけた。


「…受付嬢、今回の試験はなかったことにしてほしいんだが…。」


「えっ?あの…ですが…。」


「おいおい、つれねぇじゃねぇの、トーマ。俺とお前の仲だろ?」


しかし、それは再びトリギースによって阻まれてしまった。


トーマはトリギースに背後から肩を組まれてしまったのだ。しかも、後半はトリギースの耳打ち。それも予備装備ではなく、モノホンの聖剣に手を掛けての…。


こんな疲労困憊なときに、こんな脅しを掛けられてしまえば…。


「……チッ。」


トーマにできるのは、こんな舌打ちくらいのものだろう。今、またトリギースと戦闘など御免被る。


「フフン、よろしい!受付の嬢ちゃん、さっきの取り消しな。そんじゃあ、その前にコイツは借りてくぜ〜♪」


「はぁ…。」


受付嬢のよくわかりませんという視線を受けつつ、引っ張られていくトーマ。ドナドナ。ドナドナである。それもギルドマスター室に向けて。


わかってたことだが、朝っぱらからのトリギースとの邂逅の上、朝っぱらからカッコウにまで会うのかと思い、むりやり晴れ渡るような最高の気分にした反動からか、荒れ渡る荒野のような荒んだ気持ちとなり、半分ほどどうとでもなれと投げやりになっていたトーマ。


しかし、残りの彼の心がそうさせたのか、視線だけは、このギルドの出口たるドアを、捨てきれないが絶対に届かないとわかっている希望のごとく、未練がましく見ていた。


すると、ガラッとドアが開き…そして、入ってきた相手と目が合ったのだ。


「「あっ…。」」


互いに表情が固まり…。


「貴様ーーーーっ!!!」


という、聞き覚えのある声が響き渡る。


「…ヤベッ。」


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