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宴の翌日、それも朝早くにトーマはその主催者だったカッコウによって、ギルドに呼び出されていた。
「…なあ…俺、帰ってきたばかりだよな?」
「そうだな。」
「昨日、帰ってきたばかり!だ・よ・な!!」
「そうだな。それがどうかしたか?」
「普通、Cランク昇格試験までゆっくり英気を養え!とか言うものじゃないのか?」
「英気なら昨日、随分と養っただろう?なぜあんな宴を開いてやったと思っている?」
「……。」
「…それともあれでは不服だと?」
昨日の宴には、トーマの知り合いのほとんどが参加していた。カッコウはともかく、彼らの行動は間違いなく好意によるもの。それをトーマは否定することができず、口籠る。
「いや…それは…。」
「それは?」
「はぁ…わかった。」
「よろしい、それでは始めよう。」
すると、カッコウが紙の束をドサリと置いた。
「は?…おいおい、この数はいくらなんでも…。」
羊皮紙のため嵩張るのを差し引いても、その数は軽く見ても、数十枚はある。
冒険者は基本、1日1依頼。たまに、ついでにと討伐と薬草採取を兼ねて行うことはあるが、普通の冒険者ならその程度だろう。
こんなに一気に依頼を受けることなど、普通なら絶対にあり得ない。
「仕方なかろう。お前がまさか3カ月もどこぞに行っているとは思わなんだ。その分のツケだ。」
「…そもそも冒険者は自由のはずじゃなかったか?」
「そんなの建前に決まっておろう。使えるやつは使う。当然だろう。」
「…はぁ…。」
トーマは溜め息を吐きながら、依頼内容を確認。
仕事内容は全て討伐依頼。
下はEから上はBランクまで満遍なく、それが敷き詰められており、その中でトーマは1つの依頼に目を奪われた。
「Bランク依頼【首刈りバニー】の討伐…?」
首刈りバニー、それは名前の通りウサギ型…いや、もうあれは完全にウサギである。…肘のあたりに黒曜石を思わせる石のようなものがついていなければ…。
そのように可愛らしい魔物なのだが、その可愛らしさに騙されてはいけない。
かの生き物たちに油断を見せてはいけないのだ。もし可愛いなどと頭を撫でようと手を伸ばしたら、最期。
首刈りバニーの肘のあたりにあったその石が鋭く伸び、その名を体現する一撃が襲い掛かる。…そして、遅ればせながら血飛沫が上がることだろう。
まさに初見殺し。
トーマは【死の森】でより凶悪な存在で慣れているため、害にすらならなかったが、彼らによって成りたての冒険者や、何も知らず近づく子供たちがどれだけの被害を受けたことか…。
それだけを聞けば、高いランクの討伐依頼となるのは当然に思えるかもしれないが、討伐対象として認定されているランクはDランク。
理由は耐久力とその警戒範囲の狭さにある。
彼らは全力で攻撃に絞って人や魔物たちの首を狙っているため、遠距離からの狙撃や、特に火属性魔術に弱いのだ。
よって…遠距離攻撃手段を持つ冒険者たちからもそれなりにカモなはずなのだが…。
「ああ、それか…。よく見てみろ。討伐証明部位を…。」
「ええっと…なになに…胴体をなるべく傷つけず…………なにこれ?」
「アイツらは美味い。焼くのも煮込むのもありだ。せっかくなら最高の状態のものを食いたいと思うのが当然であろう?」
「…いや、それはわかるが…。」
確かにそれはわかる。正直、トーマとしては焼くには脂分が少ないので、それはどうかと思うが、煮込み料理としてはあれ以上のものはそうそうないと思う。
シチューなんて最高だ。
そう言えば、【アイテムボックス】内のストックがもうキレかけていたか…。
「そういえば、昨日、この依頼主たちが宴に来ておったのう?」
…なるほど…そういうことか…。
「…わかった…。」
そう言われては仕方がない。
完全にカッコウの手のひらの上だ。
トーマはそれから他の依頼も聞き、自宅に帰るなり、紅たちルビーウルフを連れて外出することにした。