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そして、時間はもう夕方、アカのお昼寝の時間もすっかり過ぎてしまった。


而して、ここは奴隷商。


カッコウの指示に従って、試験の説明後、すぐにここに来た。


Cランク試験にあたって、後顧の憂いを断つべく。


今回のCランク試験は護衛依頼らしく、紅たちは高位の魔物のため彼女たちを恐れてまったく魔物が襲って来ないかもしれないと、彼女たちを連れて行くことが禁止された。


まあ、彼女たちは気配を消せるので、そんなことはもちろんないのだが、戦闘に加わったとしても他の受験者たちの仕事がなくなってしまうに違いないので、おそらくカッコウからすればそちらへの配慮を言外にしているのだろう。


おそらく今後も似たようなケースがあるに違いない。


目的はやはり家の管理だが、要するに彼女たちのご飯の面倒を見る人物を探すという意味でも、ここに来る必要が、トーマにはあった。


その紅たちはというと、少し早めに上がることを許されたカナリアが先に家の方に連れて行ってくれるらしいので、少し助かった思いである。


まあ、なぜそんなことを言うのかというと…。


「…結構凄い匂いだな…。」


…正直、臭うのである。これは鼻の利く彼女たちには拷問レベルだろう。


この街の端で店を開いているのは王都の奴隷商で、ここティスラータは通り道だから、ついでに店を開いているだけ。


カッコウから少し深く聞いたところによると、高品質な奴隷たちは店に…というか、この檻の中に入れてすらいないらしい。


「おお、お客様ですかな?私はフライド。そろそろ店を閉めようと思っていたのですが…。」


「ああ、Dランク冒険者のトーマだ。よろしく頼む。」


トーマがDランクと言った瞬間、フライドは一瞬嘲りの視線を向けたものの、すぐにそれをやめると、比較的安い値段のコーナーへと連れて行ってくれた。


「どうぞこちらへ。こちらの商品でしたら、()()()()()手が届くでしょう。」


まあ、言葉の端にはやはり嘲りの残滓は残っている。店仕舞いの頃合いに訪れてしまったのだ。内心迷惑なのだろう。


「この中に農…いや、村娘はいるか?」


「は?村娘?性奴隷にでもなさるので?」


「いや、家事と菜園の手伝いを頼みたい。」


「はあ…?」


まあ、彼の反応は、普通ならそれはそうだという反応だ。


冒険者が奴隷を買いに来るケースとして、1番あるのは下衆な話、性奴隷。2番目はというと、戦闘の手伝いである。


それもほとんどが高位の冒険者やボンボンで、下位の冒険者が家の管理なんかを任せたいなどというケースはそれほどないのだろう。


フライドは少し様子を訝しみ、口調がそれに準じて口調が丁寧になったように思う。


「…失礼しました。よろしければ、こちらへ。」


彼はそう告げ、張られた天幕へと連れて行ってくれた。


それはおそらくカッコウに聞いていた件の奴隷たちだろう。


「なぜ俺をこっちに?」


「いやはや、失礼しました。あちらには村娘などいませんでしたので。」


「……。」


それは明らかに嘘だろう。


あそこには見るからに痩せ細っていた若者たちがいた。


彼らはおそらく今年不作だった北にいた者たちだろう。


今年出回っている奴隷たちはその地域の者が多い。


彼らは家族たちのために身売りした者たちに違いない。


そんな人物たちの中にトーマが求める人物がいないはずなどなかった。


「…っ…そうでした!お客様は村娘をご所望でしたね。そ・れ・ならば…。」


まあ、トーマが気になどする必要はないことか。


トーマはそのことを振り払うと、フライドの話に耳を傾けた。


「それでしたら、彼女はどうでしょう?今年不作だった北にいた者です。本当に単なる村娘なので料理は大したものは作れないでしょうが…それでもいいのでしたら。」


彼が示したのは、比較的落ち着いたというか、今は眼尻が下がっているからか気弱な印象を抱く、素朴な娘だった。


派手さはないが、ほどほどに整った容姿。ふわふわとした肩口あたりの茶色の髪に、キュートなそばかすを持つ可愛らしい女の子。


年の頃はだいたいトーマと同じくらいだろうか。


彼女はフライドに挨拶しろと言われると、顔を真っ赤にしてそれをしてくれた。


「は、はじめまして!わ、私はナナです!ほ、本日はお日柄もよく…。」


と、彼女が続け、トーマは内心で吹き出し、フライドは額に手を当て大きな溜め息を吐いていた。


そんな様子にも気が付かず喋り続けた彼女。


テンパったナナはそれを終えると、ようやく周りに気がついたのか、ダラダラと大汗を掻き始めた。


「…失礼。他をご紹介しましょう。」


そして、フライドがそう告げると、へんにゃりと俯いてしまう。


「そ…そんな〜…。」


トーマは彼女のそんなコメディーチックな様子を見て、吹き出してしまう。


「プッ、ふっふふ…いや、し、失礼。フライドさん、彼女をいただけますか?」


「えっ?」


「なんとっ!?」


おそらく彼らにとってその発言は予想外だったに違いない。


いや、誰でも予想外だろう。


ナナは見るからにミスをしていたのだから。


そんな彼女のことを買おうとする人物は普通おるまい。


しかしながら、トーマは彼女に好感を持った。


いや、正直に言えば、彼女の()()()()にか、ここに来たのは、トーマがいない間の紅たちの世話というものも含まれるのだ。


普通の人間の神経で、すぐそれをするのは難しいだろう。


でも彼女なら…。


「早速契約を。おいくらで?」


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