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あの後、トーマはカッコウに従いギルドマスターの部屋へと…。
カナリアはというと、父であり、雇い主である彼の「給料減らすぞ。」という脅し文句に従い、受付の仕事へと戻った。
まったく…仕事終わりが楽しみだな…。
…まあ、カナリアのことだ。どうせ仕事が終わる頃には忘れて綺麗さっぱりだろう。
本当にカッコウの娘とは思えないほど、可愛らしい娘だ。
まあ、今はそれはいいだろう。どうせカッコウが酷い目に遭うわけではないのだから。
トーマは出された茶に一口つけ、カッコウに問いかけた。
「それで?ルビーウルフに変異種ってどういうことだ?」
「ん?なんだ?気がついてなかったのか?ほら狼たちの額を見てみろ。」
額?
紅たちの額を見ると、そこには毛に隠れるようにして、赤い宝石のようなものが埋まっていた。
「その宝石が大人になるころには、角のようになる。」
「角…か…。それでマミが変異種って言うのは?」
「ブラストベアのガキはもっと凶暴でじっとなんてしてられん。仮に命令を受けたとしてもウズウズウズウズしてるだろう。おそらくもうそのマミとやらは大人に違いない…だろう?」
「あ…ああ…。」
確か15才だったか?人間では若造だが、ブラストベアの世界では大人に該当するのかもしれない。
それからトーマが何度か書類を確認してからサインし、それが終わると、カッコウがポンポンと証明印を押すと、パンパンと称賛とばかりに拍手を贈ってきた。
もう昼前である。
「…っと、これで終わりだな。とりあえず住むところを紹介してやる。かなり広めの貸家で1月大銀貨1枚でいい。家の管理は…そうだな…うちの娘ができりゃよかったんだが…まあ、無理だろう。確か王都に向かう途中の奴隷商が今日、明日と店を開いていたか…すぐに行って、そこでちょうどいいのでも見繕ってこい。」
「……。」
こういうところだ。こういうところがカッコウがギルドマスターだと思わせてくる。全てコイツの手のひらの上。
人によってはこれに反発したくなることだろう。
まあ、もちろん俺もそういう気持ちはある。
しかしながら、今回のような後々の面倒が起きそうなケースには、これほど心強い者がいないのは確か。
今回、心機一転の新天地ではなく、ここティスラータを選んだのは、こんなやつがいるところだからなのだろう。
要件は済んだだろ?さっさと出てけと手で促されたので、立ち上がり、ドアに手を掛けようとしたところ、カッコウはあっ…などと言い出した。
「あっ…そうだった。」
トーマはなんだかとっても嫌な予感がした。
「……。」
「明後日、Cランク昇格試験があるが、どうする?トーマには受験資格があるが?」
…この物忘れの激しささえなければ…。
本当に完全無欠なのに…。
トーマは再びソファに座ると、大きく溜め息を吐いた。
「…はぁ…それで?」
「まあ、待て。これは時間が掛かる。本題に入る前に…。」
カラン。
そして、カッコウはポンと硬貨を出してきた。
「これでみんなの昼飯買ってこい。」
「…わかったよ。」
出されたのは、一月分の家賃と同じ大銀貨1枚。
おそらくは一月分はまけてやるから、しっかりギルド職員たちに顔を見せてこいというのだろう。
…まったくどこまでが計算なのか…。
トーマはカッコウと一緒にいると、頭が痛くなってくるのを、今思い出した。




