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結果から言おう。トーマはあの後すぐに、おじさんたちの目の前でブラストベアを【テイム】した。一々紅たちに通訳を頼むのが面倒だった…と言えれば、彼自身の不徳というやつなのだろうが、理由としてはそうではない。
まず紅が放棄し、セキがどんどん嫌そうな顔に…、そして最後のアカはというと、まあ、真面目な話をしているときに「遊ぼ♪」と提案してくる娘だとだけ言えばわかるだろうか…。
まあ、苦肉の策というやつだ。
そうトーマが表現するほどのことに思えたため、てっきり彼としては抵抗されるのではと思っていたのだが、案外あっさりとそれは成ってしまった。
それによってトーマはどう声を掛けたものかと悩まされている。
「……。」
小さな彼女を見つめるたびに、その罪悪感がやってくるのだ。
もしこんな風に【テイム】なんてことができなければ…なんてことがチラつき、今も含め何度も自己嫌悪に陥っている。
それでもなんとか現状を受け入れねばと思い、こちらから声をかけようとしたところで、ブラストベアは予想外にもペコリと頭を下げてきたのだ。
「クマクマ。(あの時はありがとうございました。)」
「……えっ?」
トーマは絶句した。彼にとって彼女の言葉はそれほどに予想外のものだった。それはそうだろう。自分はなにせ彼女の親を殺し、その上で鍋にまでしてしまった。そうなれば、まず始めの言葉は罵倒に違いないと誰であれ思うだろう。
トーマが絶句していると、ブラストベアは微笑みながら続けた。
「クマ?クマクマクマ。(あら、覚えてらっしゃらない?私、1年ほど前にあなた様に助けられたことがありますの。)」
1年前?
トーマは少し思い出してみようとするが、やはりすぐに出てきはしない。
なにせ初めての【死の森】はあまりにも壮絶すぎて所々記憶が不確かとなっているのだ。
もしかしたら、その不確かなところで彼女を助けたのかもしれない。
「クマ…クマクマ…。(お忘れでしたか…残念ですわ…。)」
彼女は座り込み、イジイジイジイジと地面に手をやって指先で円なんかを描いたりしている。
トーマは彼女を見ていた。そこから何かを思い出せるのではと思って…。
そして、彼女がその中心に小さな穴を掘り始めたところでようやく思い出した。
「お前もしかしてあの時、穴掘りしてた奴かっ!?」
確かあれはあの森でようやく魔物を討伐できるようになった頃、偶々地面を掘って遊んでいるブラストベアの子供が何体かの魔物に襲われているところを助けたことがあったのだ。
「クマ…クマ…クマクマ!クマシュッ!!(あ、あれは…穴掘りではないのですけど…まあ、今はそれはそれとして…そうです!あの時のブラストベアですわ!!)」
「ああ…あの時の娘か…元気だった…か…。」
そう普通に尋ねてみようと、トーマはしたわけだが、自分が彼女にしてしまったことを思い出し、尻すぼみに言葉が出てしまう。
「クマ。クマクマクマ…。(母のことは気にしないでくださいまし。弱肉強食は自然の摂理。それに私個人としても、あの人はかなり激しい嗜虐趣味がありまして、誇り高きブラストベアの恥さらしと思っていましたから…。)」
「……でも…。」
「クマ…クマクマ。(本当、ご主人様はいいお方ですわね…あのクズ相手でもそんな風に思われるなんて…。確かに思うところがないと言えば、嘘になりますが、それはあなたたちへの恨みの感情ではありません。)」
「…そう…か…。」
「……。」
「……。」
2人がそんなやり取りをしている間、紅たちは静かにしていた。若干1名…まあ、アカなのだが、彼女に関してはお眠の時間なのか、先ほど遊んでなんて言っていたのが嘘のように少し離れたところで丸くなっていた。
空気的に1つの話が決着と思ったのだろう。拗ねている紅に代わり、おそらくトーマが忘れていると思ったのだろう、セキがそろそろ本題に入れと促してきた。
「キャンキャン。(主、そろそろ本題に…。)」
「…あ…ああ…そうだったな…。ところで、なんで君はこの畑に?」
そうトーマが尋ねると、ブラストベアは小首を傾げた。
「えっ…ここって畑でしたの?他と比べて人の匂いがまったくしないものだからてっきり放棄された場所かと…。」