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「ワォォォォォォォンッ!!」
構えを取る紅に他2匹。
彼らと相対している存在はまだ距離のせいかよくはわからないが、かなり小柄に見えた。
おそらくセキとアカと同じ程度の大きさだろう。
二足歩行の…獣…だろうか?
ビュウッ!
一陣の風が吹いた。
雲が風にでも流されたのだろう。雲間から月明かりが顔を出し、紅たち…そして、相対する存在を映し出した。
そして、トーマは思わず呟く。
「…ブラストベアの子供…。」
「ブラストベア?……っ!?」
「ぶ、ぶ、ぶブラストベアだってっ!?」
トーマに付いてきたおじさん含め男たちは後ずさった。
何人かは逃げ出してさえいる。
そんな中、トーマは違った。
その存在に抱いた感情は彼らと違った。それだけしか言えない。
「……まさか…。」
言葉にしようがないのだ。
ゆっくりゆっくりとトーマはなにかに誘われるように歩みを進めていく。
「ガウッ!?(主っ!?)」
紅がそう声を上げると、ブラストベアの子供はギロリとこちらを睨んだように見えた。
…親の敵。
もしかしたら違うかもしれないが、そう思われているような気がしていた。
これからどうするのか?
撃つのか?
【魔力糸】で?
それならあっさりとケリが着くだろう。なにせ親のブラストベアの首さえ難なく刎ねられたのだから。
そんなことを考えていると、いつの間にやらブラストベアの前。いや、正確には紅たちがトーマの目の前に来て、牽制するように唸っている。
「紅…いいよ。」
「…ガウガウッ!!(ですが!!)」
「……。」
「……ワゥ…。(…わかりましたよ…。)」
「…ありがとう。」
そして、トーマはブラストベアと向き合ったのだ。
目線を合わせるようにしゃがむトーマ。すると、ブラストベアはポケ〜っとしたように立ち尽くしたかと思うと、急に大声を上げ始めた。
「く、クマクマッ!」
「…………ガ…ガウ?(は…はい?)」
「クマ!クマクマ!クマッシュ!!」
…これは完全にお手上げである。この子が何を言っているのかわからない。
ただなにかしら訴えていて、なおかつそれにこちらを害する意図がないようなことくらいはなんとなくだがわかった。
「……。」
すると、紅は完全に黙ってしまった。
本当に何の話をしているのだろう?
「紅、悪いけど通訳頼めるか?」
「…………ガウッ…。(えっ…あっ…。)」
紅も一瞬とは言え戸惑っていたように思う。この子が言っているのはそれほどに予想外のことなのだろうか?
すると、はぁ…と呆れるなり紅が思案げな顔を作り、その後怒りの表情…そして、最後にニヤリと笑った気がした。
「ガウッ!ガウガウッ!!(大変でございます!コイツ、主のことをミンチにするとか言ってます!!)」
「えっ…。」
「クマッ!?クマ!クマクマっ!!クマッシュ!!」
トーマにはブラストベアが違う違うと全力で身体で表現しているのだが、本当に紅の言ってることは合っているのだろうか?
「きゃん?(そんなこと言ってましたか?)」「きゃんきゃん!(そんなことより遊ぼ!)」なんても言ってるけど…。
…まあ、アカはちょっと落ち着こうか…。
「紅…ホントにそんなこと言ってるの?」じと〜。
「が、ガウッ!!ガウ…ガウガウ〜…。(あ、主そんな目で見ないでください!!そ、それは…その…ほ、本当ですよ〜…。)」
あっ…目を逸らした。
「紅さん?」
「ガウ…ガウガウ…。(ううう…わかりましたよ…。)」
紅はどうやら嘘をついていたらしい。
彼女は耳をへんにゃりさせ、尻尾をペタンと地面につけると、拗ねるように口を開いた。
「ガウ…ガウガウ…が〜う…。(このメスは…どうやら主のことを…す〜きらしいのですよ…。)」
「……………はい?」
疑問の視線を投げ掛けるも、紅はそっぽを向いて、もう話したくはないとばかりに無言。
「……。」
仕方がないと、どうにか自分で…と思いブラストベアに視線を送ると、両手で顔を覆っていやんいやんと身体を振っていた。
「クマクマ♪」てれてれ。
…どうやらマジらしい。
えっ…なに…俺、獣に好かれるスキルでも持ってるの?
「きゃんきゃん?(どうします、主?)」
「……(どうしよう…。)。」
「きゃんきゃん。(あっ、ちなみに彼女、主が鍋にしたクズの娘ですよ。)」
せ、セキさんっ!?なんで今それを…。
トーマはセキの言葉に脱力感を覚えると、そのままに答えた。
「…はぁ…わかったよ、セキ。」