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御鷹冬馬。俺は異世界転移者である。
何人かがたむろしていた放課後の教室で昼寝をしていたところ、地面に魔法陣が現れて、さあ大変。
…まあ、いわゆるこれが巻き込まれ型勇者召喚というやつか…。
巻き込まれた俺にも優しい女神様はチッという素敵な舌打ちで歓迎をしつつ、勇者たちに劣るものの、いくつかのスキルをくれ、その他の土地に飛ばしてくれた。
そこでの生活も最近落ち着き、そろそろ勇者たちのことでも覗いてみるかと、彼らが召喚されたイングラム神皇国にこっそり潜入してみたところ…。
「勇者様がブラックケルベロスを倒したってよ!!」
「勇者様、最高っ!!」
「勇者様、素敵っ!!」
「勇者に女が取られた。」
などの言葉が耳に入ってきた。1つ気になる言葉はあったが、概ね国の人々からの印象は良好。
面倒だったので、トーマはこれくらいでいいかと、街での情報収集をここらへんで終わりにして、メインの城内でのそれを行うことにした。
ということで、まずは、聖剣士海塚光の部屋から。
そう思い、トーマが戸に触れてみると、中からギシギシという物音がした。
どうやら彼は中にいるらしい。
疲れて寝ているのか、武器の手入れでもしているのかと思い、後にしようかと、トーマが戸から手を離そうとすると、「…っ…!」という女性の声らしきものが聴こえた気がした。
誰かと話でもしているのかと思い、耳そばだててみると、扉から「あはん♪」「うふん♪」などという声が聴こえてきて…。
「…これって間違いなくあれ…だよな…えっ…マジ…。」
トーマはその場で固まりつつ、先ほど城下での情報収集で得た1つを思いだしていた。
『勇者に女を取られた。』というニュアンスの言葉を…。
いや、正確にはこんな淡々とした言葉ではなかった。本当のところはこの1000倍ほど悲痛で聞き苦しい喚き散らし。
冗談ややっかみに思えたそれが、なんとなく真実なのではとトーマは本能的に感じ取っていた。
「…うわ…ドン引き…だわ…。」
…そして隣の部屋へ…。
ギシギシギシギシ。
…と思ったけど、ここは後回し。
トーマは階段を上り、女性陣の部屋へ向かうことにした。
石動桃華と稲代穂乃果の部屋へと。
桃華は女子剣道部主将の、スッと背の高い、綺麗な黒髪の美少女で、性格がさっぱりしているからか、男子だけでなく女子にもかなりの人気があった。
穂乃果は、胸の大きな、少し気弱な守ってあげたい系美少女とでも言えばいいだろうか…。彼女もまた男子に隠れファンがいるなど、やはりクラスの人気者に含まれるのだろう。
彼女たちはエロに支配されるような男ではないので、おそらく問題ないだろうと思い、まず桃華の部屋へと。
すると、鍵が掛かっており、中から人の気配もしなかった。
「…はぁ…いない…か…。」
トーマは少しがっかりした。
トーマ自身、久々に同じ世界の人間と会話くらいできるのではないかと期待していたのだ。
でも、どうやら今は彼女と再会する時ではないらしい。
トーマは考え方を変えることにする。
「…つまり、ここにいないってことは訓練でもしているってことかね…?」
そうトーマは口にしてみると、少し残念な気持ちはあるものの、明日への期待というものが抱けたような気がした。
この世界に来た女子たちは男どもとは違うのだから。
トーマは期待に胸を膨らませ、隣の穂乃果の部屋へ。
ノックすら忘れて、入り……。
「クフフ…冬馬くん冬馬くん冬馬くん冬馬くん冬馬くーーーんっ!!」
バタンッ!!
…速攻でドアを閉め、駆け出した。…涙を携えて。
城どころか街を出て、トーマはしばらく皇都の見える崖の上で体育座り。
もちろん目はすっかりと荒んでおり…気がつくと、辺りはすっかり暗くなっていた。
そして、ボソリと一言。
「…女神様…これ…大丈夫なんすか…。」
すると、夜の闇を照らす月明かりより遥かに眩い光がトーマを包み込み…。