第24話
首都の再興を目指して人々が助け合いをしながら勤しんでいます。
クローンも人間も関係なく木材を運んだり瓦礫を除去したり、そんな様子を眺めていた1人の少女アリアン。
つり目を睨ませては、白衣のポケットに手を突っ込んで無愛想を前面に出しています。
「首都はしばらくクローンとの関係性は別にいいとして、あのレンガで有名な街はもう廃墟らしいし、まぁ問題は中心にある都、あそこはクローン迫害が結構あるわ」
研究所の前で持参してきたイスに座っていました。
その隣には研究所の壁でもたれている精悍な顔つきをした青年リュウ。
黒いビジネススーツを着崩した服装で左袖は風が吹くたびに力なくなびいています。
右目は強制的に塞がられて、縦の直線が目蓋の上に深く刻まれています。
「そうだったか、確かにあそこは廃墟地区みたいなところがあったな」
「あそこは両方がクズよ。クローンは復讐の塊みたいに人間を襲うの、人間はクローンに罪を被せて公開処刑なんてことも。今回の地震でさらに犯罪率が高くなってるわ」
「人間の方は政府絡みで迫害してるんだろ? 結構難しいぞ」
弱気な発言と確認したアリアンはハッと一笑。
「法など通用しない世界にいたくせに何言ってんのよ、政府には武力行使で叩き潰すの」
「だといいがな……」
なんとも強引なやり方にリュウはそれが確実かどうかを考えていました。
のんびりとしている2人の前を無邪気に駆け回る子供達。
その中にいる少女へリュウは自然と視界を動かしました。
みつ編みの黒髪、疑いもない満面の笑みで遊んでいるのです。
その瞳は赤い。
それだけでなのに、一目でクローンだとわかってしまう。
「あの子は一体どこから、親はどこだ?」
首都は地震が起きるまでクローンの立ち入りを禁止していました。
アリアンは瞳孔を収縮してその少女を睨みます。
「……人間細胞があるわ、これセツナの遺伝子情報もある」
瞳を元の形に戻せばアリアンは手を顎にあてて考え込みます。
「普通のクローンなら子供のうちから瞳が赤いってことはないんだろ?」
「当然、あの女の子、特殊クローンかもしれない。生きた人間そのものを使うのは禁忌だって散々注意されてんのに……あの子の親どこかしら?」
イスから立ち上がったと思えば子供達へと歩み寄っていくアリアン。
なにやら話しかけていますが逆にからかわれている様で、子供達がアリアンを引っ張っていきます。
「子供に子供扱いされてやがる」
リュウは肩をすくめて研究所内へと戻っていきます。
特別何もない室内。
研究室は地下にあるようで、その先へ向かいます。
テーブルに綺麗に置かれた無数の用紙。
隅に積まれたボロボロの機械があります。
前までは散らかっていたのですが、随分と整頓された様子。
「カナン、エリスはどこか知らないか?」
研究所の整理をしていた青空のような澄んだ瞳の少女カナンはリュウへ体を動かしました。
「エリスなら皆のお手伝いをしていますよ」
「そうか」
リュウの視線はいつの間にかカナンの腹部へ。
まだまだ膨らんでいないお腹にどうも疑問を浮かべてしまいます。
「ホントに、妊娠してるのか?」
「はい、アリアンが調べてくれて、でもまだ先の話ですから」
微笑むいつも通りのカナンの反応にリュウはうまく返答できません。
「……」
「?」
眉をしかめてはまるで落胆したような気分のリュウ。
「子育てで何かあったら助けるよ」
「はい、ありがとうございます」
これ以上研究室にいてもなんとも居心地が悪い。
リュウはもう一度外へ。
赤い瞳をしたクローン達は忙しそうに荷物を運んで、そして、皆若い少年少女です。
たった20年だけの命をもつクローン達。
今まで差別されて続けていたというのに、人間を憎むことなく助けにきたクローン達はどうしてこうも生き生きしているのでしょうか。
「関係ない、絶対どっちかが全て悪いなんてことはない、そうだよな」
繰り返し呟いては都市を歩いていきます。
崩れ落ちた影響で飛び散った破片を回収し、なるべく通路を確保している様子で、人々はどんどん瓦礫を撤去。
リュウがその周囲から離れ首都の外へと向かった先に誰かが走ってきました。
急いでいるような地面を勢いよく蹴り上げる足音。
短い間隔でその音が聞こえてきます。
「アリアン!? うわ」
「いった、あ、リュウ! はやく助けて!!」
ぶつかったと思えば、アリアンはリュウの右腕を引っ張るのです。
「なんだ、何があった?」
アリアンの着ている白衣へ視線を変えると、どういうわけか赤い液体が付着していました。
「お前、これ血だろ」
外部の損傷は全く見られません。
これは返り血です。
「いいから!!」
「ちょ、なんなんだ」
わけもわからずアリアンに引っ張れるがまま外へと出て行ってしまいます。
作業中の人々に何度もぶつかりながら、避けながら、駆けていきました。
「いい加減説明しろよ」
「どこかのバカクローンが人間の子供を殺したのよ!」
「はぁ!?」
「あの特殊クローンは無事だわ、でもさっきの子供達は殺されたの! こんなの政府や首都の人々に知れ渡ったらまたクローン迫害を起こすわ!!」
首都から少しの距離にある森へ入っていくと、鉄分の臭いが鼻をつきます。
アリアンが足を止めました。
「おいおい、お前は何やってたんだ」
「見つけた時には殺されてたのよ、でも間違いなくクローンだわ、あの子が見たって言うんだから」
地面が生い茂る雑草に、木々に飛び散った多量の血液。
数人の子供達に刃物で斬りつけられた傷がありました。
「全員即死、喉を斬られてる」
「あの子はどこだ?」
「……危ないと思って家に帰らしたわ」
「そうか、あの子を探そう。その前にこの子供達の親に知らせないと」
アリアンは苦そうな表情で、
「言ってもいいけど……クローンてことは伏せて」
目を閉じて呟きました。
「そう、だな、変な刺激は与えないほうがいいな。今は特に」
ようやく平和を取り戻そうとしていた矢先の出来事。
リュウはどうも難しそうな顔をしてこの惨状を眺めていました。
読んで頂ければ幸いです。




