第23話
大きな地震によって洋国全ての街や村、都市が崩壊しました。
再興に向けて人々は協力して、着実に進んでいます。
クローンも人間も関係ない。
首都もほぼ全壊で、地下はほとんど崩壊しています。
大きな穴が開いたり、建物が崩れたり、怪我人や死者が出たりと忙しい。
「あーあ」
茶色のロングストレート、茶色い瞳、少し小柄な少女アリアン。
白衣姿でポケットに手を突っ込んでは無愛想な表情を前面に出しています。
復興に勤しむ人々を前にただずっと研究所の前で立っているだけ。
「それで、お前はサーガっていう存在なのか」
精悍な顔つきをした青年リュウは黒のビジネススーツ姿で着崩していました。
左腕の袖は風が吹けば軽くなびきます。
右目だけは開くことがありません。
目蓋の上には縦に直線の傷があります。
「簡単に言えばサーガっていうのは対クローン用に作られた人間兵器ってこと。アタシはその第1号で、残念なことにその為だけにお母さんがアタシを産んだわけ」
「……実験台か」
「そういうこと、脳内に与えられた情報とクローン細胞を用いて生きた人間からサーガを作り出す。しかも相手の脳内からも情報を得ること可能である意味現時点の科学技術では最強ね」
「それで他には?」
「今更こういうこと言うのもなんだけどさ、アンタとアタシ、従兄妹じゃなくて腹違いの兄妹なのよ」
リュウは思わず吹いてしまいます。
そんなことは初耳だと。
「アタシのお母さんがクローンとの子供を産む為にアンタのお父さんを誘惑してアタシが産まれた。しかもほとんどアタシを育ててくれたのは義理の父親よ? 傑作だわ、お母さんは研究一筋だったし」
「なんとも複雑なことだ」
リュウは呆れてしまいます。
「もうお母さんは死んじゃったし、最期までサーガの成果を心配していたわ」
「……母さんか、そういや故郷に避難したけど心配だな」
こんな地震の影響でほとんどの地形が変わったり崩れたりしています。
実の母がどうなっているのか、リュウは懐かしそうに、不安そうに呟きました。
「リュウー!」
元気よく名前を呼んでいるのは深緑の瞳をした少女エリスでした。
茶髪のツインテールを揺らしながらこちらへと寄ってきます。
ダッフルコートを着ているのに下半身は何故か太腿が露出するほどのミニスカート。
一応季節は冬です。
「どうした?」
「ねぇねぇ、知ってた? カナンのお腹の中に赤ちゃんいるんだって!」
「ははー笑える冗談だな」
リュウはどうも信じていない様子です。
「ホントだって、カナンが言ってたもん」
「じゃあ誰の子だ?」
その質問にエリスは真っ先にリュウを睨ました。
「いや、悪いが俺は全く手を出してないからな」
「ああ、保住健児の子でしょ?」
さらっとすらっと聞き流すところでした。
「あいつはなんだ。セツナがいたくせにカナンにまで手を出してたのか」
「リュウ、嫉妬してるの?」
「してない、いや断じて。あんな純粋でいつも笑ってるカナンが俺の知らない場所で他の男とやってたなんて全然! 気にしてない」
エリスはさすがにドン引きしています。
気にしてるじゃんというエリスの視線が痛い。
「セツナは妊娠できない体で保住は組織の仕来りで子孫を残さなきゃいけない。かなりのすれ違いもあったらしいわよ、けど保住は仕来りに従って子孫を残した。セツナの代わりにカナンが妊娠した。もう終わったことだしそれでいいでしょ?」
「ああ、別に、なんだっていい」
何故かリュウの表情は強張っています。
「結局リュウってば変わんないね。私のことホントに好きなの?」
「……独占欲ってのがあるんだよ、男には」
納得していないエリスとのしばらくの言い合いも微笑ましいものです。
アリアンは無愛想のまま復興に勤しむ人々をもう一度眺めていました。
「これからクローン迫害について、どうすんのアンタ達」
「ん? このままだったら大丈夫だろお互いに協力してるんだから」
リュウの安易な考えにアリアンは一笑。
「ダメダメ、人間いつかは恩を忘れんのよ、また何か起こればクローン迫害は再発するわ」
「そうかなぁ?」
エリスも首を傾げてアリアンの言葉を疑います。
「何回も同じことを繰り返して歴史があるの、クローン迫害を確実に無くすには」
「根本的要因を潰すんです」
3人の背後から現れた少女カナン。
セミロングの茶髪、青空のように澄み切った瞳。
真っ白な袖なしワンピース姿で手には白銀の刀。
「か、カナン!」
「アンタいつからいたのよ」
「結構前からいました、リュウさんも男なんですね」
ああ、聞かれてしまった。
リュウは顔を青ざめては体を震わします。
「で、根本的要因って?」
「クローンを作った科学者達を潰すということです。そうすればクローンは作られなくなります。クローンは自然消滅していく、これが一番いい方法です」
「それまでの間はどうすんのよ」
「本来はセツナさんがするべきことだったんですが、私がずっと死ぬまでどちらも守っていきます。悪いことをした者には罰を虐げられた者には救済をします。善悪ならクローンも人間も関係ありませんし」
「アンタ、1人で全部できるなんて思ってんの?」
カナンは首を横に振って否定します。
「そんなことは思ってません。全てを助けられるなんていうのは贅沢ですから」
白銀の刀を見つめては微笑むカナンの姿。
「……」
相変わらずの前向きなのかあっさりしているのか、リュウは呆れながらもカナンを眺めていました。
よろしくお願いします。




