第18話
「うわぁあああああ!!」
どこまでも続く青年リュウの絶叫。
真っ暗な世界を宙に浮いた感覚のまま落下していました。
片手にはしっかりと刀を握っています。
黒のビジネススーツを着崩したスタイル。
「あああぁあ! おぶぅ!!」
普通の人間ならば全身を強く打ちつけて死亡しているでしょう。
ですが彼は人間ではありません。
頭部から下半身まで強打しているというのに、間抜けな声を出してはふらふらになって立ち上がったのです。
「いて、いてて。あいつはなんだよ、まだ完治してない怪我人だってのに」
文句を言葉にしても反応などありません。
どうやらここは、地下のなかで1番深い通路のようです。
電気のような明かりはなく、一般人は絶対立ち入ることのできない世界。
「……さっさとドイゾナーを殺して、エリスを助けるんだ……」
赤い瞳を睨ませて、走り出しました。
リュウの視界からは真っ暗闇の世界も普段と変わらぬ明るさで映っているようです。
複雑な迷路のような通路をひたすら進むこと数分。
足を止めて目の前の壁に設置された扉と対面しました。
鉄製で錆もない真新しい扉。
そこへ手を触れさせると、扉は前へと動きます。
重たい感覚はありません、簡単に開いてしまった扉にリュウは警戒。
「?」
扉の先は一気に光の世界へと変わりました。
真っ白な天井に包まれた広いホール。
「なんだよ、ここ」
走ってもすぐには辿り着かない距離に設置された別の扉。
とにかくリュウは辺りを監視するようにして進みます。
「ははは……」
「な!?」
どうやって現れたのでしょう、何もない空間から突如姿を見せた巨体な存在。
2mは超える大男。
真っ黒なローブに体を隠し、フードで表情が隠れてわかりません。
唸る様な低い声。
「ドイゾナー!」
思わず後退してしまったリュウはよろめきながらも刀を構えて戦闘態勢へ。
「もうすぐでクローンが終わる。エリスの力によってクローンは消滅するのだ、そして、愛しい我がヘレナをこの世に呼び戻す。貴様もその生贄になれ、この都市に住む愚民とともに」
「ふざけんな、エリスはどこだ!?」
「マリア、セツナ……次の最期は誰だろうな? カナンか、もしくは……エリスか?」
面白そうに不気味な笑みを浮かべます。
「うるせぇ! そんなことさせるか!!」
自身より遥に大きい相手へ刀身を振り翳しました。
ですが、ドイゾナーは避ける動作などしません。
されるがまま腹部を切りつけられます。
「ははは!」
血液が切られた部位から噴出しますが、全く痛がる素振りもなくただ笑っているだけです。
「我に死など有り得ぬ」
「くそ!」
切っ先を貫かせますが、それでも血液が噴出するだけで何もありません。
「……我は錬金術師の継承者なり、我は神の代弁者なり」
ドイゾナーは腹部を貫いた刀の柄をリュウの手ごと握り締めます。
離そうと引き抜きますが全く動きません。
床に円を描くような真っ白な光が2人を囲みます。
「貴様など相手にならん、意識の中で果てろ」
「……!?」
視界が一気に遮断され、何も映らなくなりました。
考えている暇はありません。
「……」
暗闇の奥に薄っすらと映り込む景色。
そこはどこか暖かく、温もりを感じさせます。
一面花畑に澄んだ青空、深緑の木々と草原。
気付けばそこに立ち尽くしていたリュウ。
風が吹けば空中に浮かぶ花びらの先に人影が見えます。
真っ赤なマフラーを首に巻いて口元を隠し、黒や茶の地味な服装。
倭人特有の黒髪に幼い顔立ち。
腰には白銀の刀が差していました。
ああ、見覚えがある。
いなくなったはずの人物がそこにいるのです。
「セツナ!!」
思わず叫びます。
「意識の世界に来たのか」
冷たい視線。
「こんなところに来るな、私は独りで充分だ」
紅玉の瞳はとても悲しそうです。
セツナはゆっくりと鞘から刀身を抜き取りました。
白銀に輝く刃がリュウを狙います。
「いつ1人になった? 勝手に思ってるだけだろ、健児はお前のことをホントに愛していた。だからあいつは自分から命を」
「……だったら何故私はリュウの意識にいる。私はどうしてお前の意識に存在している?」
「!」
その問いに答えられません。
リュウ自身もわからないのです。
「エリスを選んだのなら、私のこともカナンのこともマリアのことも全て捨てろ。二度と想いを馳せるな」
「セツナ……」
「お前に私を殺すなんて不可能だ。戻れ」
花びらが一瞬リュウの視界をふさぎました。
その間に起きた出来事を理解するのに時間がかかります。
「えっ?」
白銀の刀身が振り上げられていました。
花びらと一緒に散った血液。
やけに左が軽いことを知ったリュウは自然と首を横へ向きます。
離れていく自身の左腕を確認。
血管や骨が鮮明に映り込んだ瞬間、
「うわああああああああ!!」
花びらなどない、温かみもあの一面花畑の景色も。
ホールに取り残された苦痛に悶える青年の声。
ただただ、絶叫。
彼の周りに飛び散ったかなりの血。
そして1本の腕が床に落ちていました。
何があったのか、どうしてこうなったのか、理解するのに時間がかかります。




