第17話
洋国の首都マザー。
なんでも揃う都で、洋国の大陸の半分を占める程広大です。
真ん中に君臨する大きな時計台を中心に広がる見渡す限り街、街。
山沿い付近には大統領が住んでいる豪邸と議員の宿舎が並んでいました。
首都の出入り口である門を通る為の審査口に何台もの車が1列に並んでいます。
厳しい審査を乗り越えれないと入ることはできません。
精悍な顔した青年はビジネススーツを着崩して、不機嫌な雰囲気を出していました。
赤い瞳で前を睨みつけては苛立ちを足に伝えています。
「こっちは2、3日ずっと休憩も短くして走ってんのに……なんだこの渋滞みたいな数の車は」
「……」
小さな貨物自動車は狭く、運転席と助手席以外はありません。
後ろは荷物を載せる為だけのもの。
筋肉質の青年は運転席に座るだけで苦しくていっぱいいっぱい。
「カナン、大丈夫か?」
隣で首を後ろや前にと揺らしている少女。
純白な袖なしワンピースを着ていたのですが、今の季節は冬でありいくら気温に差がない国とはいえ寒そうです。
それではあまりにかわいそうなので、青年は茶色のコートを上からかぶせていました。
彼女の雪のように白く細い肌、聖女には相応しい容姿。ですが、瞳は血のように淀んでいました。
「……はい」
頑張って目を開けていますが、今にも閉じてしまいそうです。
「はぁ」
苛立っている事が馬鹿馬鹿しく思えてきたのでしょうか、足を動かすのは止めてただシートに背をもたれました。
どんなに待っても動くことの無い車の行列。
一体どういう検査をしているのか、気になってきます。
窓から眺めることの可能な景色を暇つぶし程度に視界へと映しているときでした。
行列の続く車の横を通り過ぎていく1人の少女が青年の瞳に。
茶のロングストレートを揺らしている少女は不満を顔に表現していました。
その横顔がどこか自身に似ています。
「あ、アリアン!?」
「あ? 何よ」
窓越しから驚いている声が聞こえたのでしょう、アリアンと呼ばれた少女は機嫌が悪いようでこちらへ顔を向けていた時の表情は相手を萎縮してしまいそうです。
「ああ、リュウ。あんたこんな所に何してんの?」
アリアンは白衣姿でその服のポケットに手を突っ込んでは、相手が誰かとわかれば無愛想な表情に変えました。
「何って大きな用事があるんだ。お前こそ、どうしたんだ?」
「クローンには教えない。あんた達ていうか、リュウはまず首都に入れないわよ。その隣にいる聖女様は有名だから大丈夫だと思うけど、言いたいことわかるでしょ?」
「……どうしたらいいんだよ」
「はぁ、一応親戚だし聖女様もいることだし、そのまま審査口へ行って。アタシ、先に待ってるから」
アリアンに軽く手を振られ、先へと行ってしまいます。
「お前、有名なんだな」
「はい」
「はい、しか言わないな、それ以外もなんか言ってくれよ」
リュウの望みにカナンは少し黙って考え込みます。
「……エリスを助けないと」
「当然だ」
この行列の中を待つこと30分。
ようやく到達した審査口に待っていたのはアリアンと数人の警備員。
「はいお疲れ」
「お嬢さん、クローンを中に入れるのは禁じられています」
なにやら揉めているようですが、アリアンは全く気にせず許可証をそのままリュウへ渡しました。
「そのまま真っ直ぐに進めば時計台があるから、その近くにある研究所へ車を停めといて。アタシ先にいるからすぐわかる」
言われるがままリュウは発進。
しっかりと整備された道路の脇には緑に生えた木々が植えられています。
歩行者用の通路もあり人々は武装もなしにのんびりと歩いていました。
「初めて見たな、なんだこの平和な感じは」
公園で遊んでいる子供達がいること、ベンチに座って談笑している主婦達がいる事自体不思議で仕方がありません。
「ここか?」
戸惑いながらも辿り着いた先は大きな時計台の下。
ビル11階建てに匹敵する高さで全ての方向に時計が設置されていました。
頂上には時刻を知らせる鐘。
「でっかいな」
首が痛くなるのではないかというくらい見上げるリュウ。
すると、
「おーい、こっち」
声がどこからか聞こえてきました。
上ばかりを見ていたリュウは声の主を探そうと視界を下げていきます。
時計台の根元に無愛想なアリアンが手を振っていました。
「さっきは警備員といたのに、いつの間に移動したんだあいつ」
疑問を浮かべながらも誘導されつつ貨物自動車を指定された駐車場へ。
狭苦しい座席から解放されたリュウはおもいきり背伸びをします。
それとは反対にカナンは白銀の刀を大切そうに持って少し体を丸めていました。
「大丈夫、こんな大きな都市で盗みを働くような奴はいないわ。皆安定した職に就いてんだから、リュウや聖女様が住んでいた街に比べたらずーっと平和よ」
「……」
カナンは返答をしませんが、丸めていた体を真っ直ぐにして白銀の刀を片手に持ち直しました。
「聖女様、錬金術の影響でも受けたの? 5年前とは全く違うぐらい雰囲気が変わってる」
「まぁ、色々あったんだよ。俺も詳しくは知らないけど」
「ふーん。あ、そうそう、クローンのあんたがこのまま都市を歩かれると困るから、こっち来て」
時計台のすぐ目の前に建てられた真っ白な建造物。
中へ入ってみると、内側も真っ白で特に何もありません。
お客に対応する為のイスとテーブルが端にあるだけ。
「なんだここ?」
「研究所、詳しい話はいいとして、とにかくついて来て」
今度は鉄のドアを開けてその先は地下へと続く階段がありました。
暗いことはありません。
間隔をあけて設置された蛍光灯ではっきりと周りを確認することが可能。
階段を下りた先には、1人では勿体無いくらいの広い部屋。
特大のモニター画面が壁に貼り付けられています。
100枚以上の用紙がテーブルに散らばって、筆記用具も床を転がっていました。
隅にはボロボロのパソコンが捨てられ、さらには画面が割れたテレビまで。
一体どんな生活をすればこんな事になるのかリュウは呆然とするしかありません。
「お前はあの小さい家で畑仕事をしてるんじゃなかったのか?」
「あっちが本業、こっちは副業」
テーブルに散らばった用紙を床の方へ落とすという無茶苦茶な行動。
「テキトーに座って」
「いや、俺は急いで」
リュウが遠慮して言葉を発した瞬間、突然テーブルを叩き付けたアリアン。
「……特殊クローンについて調べてたのよ。だけど最後の特殊クローンだったはずのセツナの反応が消えた。それについて知らない?」
無愛想だった表情は一変。
静かに呟く声と、リュウを睨む冷ややかな視線。
「あいつは死んだ、もういない。練成に巻き込まれたって話だ」
「死んだ? そんなはずない。特殊クローンには核ってのがある。核が消えない限り死ぬなんて有り得ない、皮膚の再生能力も、刃物で切断なんてできないくらいの素早い回復力もあるし、クローンを練成で細胞に戻すことは不可よ。もしかしてノザカがやったんじゃ……それなら可能かも、ああでもセツナは」
なにやらブツブツと独り言を呟くアリアン。
ああでもない、こうでもない、彼女は変なモードに入り込んでしまったようです。
「もう、行くぞ」
「……はい」
「待ちなさいよ!」
アリアンは即座に逃げようとしていた2人に反応し、前に立ちふさがりました。
「聖女様は預かるわ、生態についても調べたいのよ」
「何言ってんだよ、そんなことできるか!」
「ハァ? クローンの殺害許可はもらってんのよアタシは、その気になればあんたなんて殺せるわ。アタシがただの人間だなんて思わないことね。大丈夫解剖なんて古いことしない、簡易的な検査もすれば大体のことはわかるから」
アリアンの変異ぶりにリュウは頭を抱えてしまいます。
「……カナン、お前はどうなんだ?」
「はい、残ります」
「はい決まった。聖女様はリュウの用事が終わり次第返すわ。ついでにいい情報をあげる」
ふふん、と笑みを浮かべてアリアンは腕を組みました。
「ドイゾナーっていう奴が最近地下をうろついてるのよ。クローン同士仲よくしてきたら?」
「……そうする」
「ここも地下だけどあいつが出没しているのはさらに深いとこ。教会の本部が当時あった地下深部。ここの扉からさらに地下へいけるから」
アリアンに案内され扉の前へ。
扉が開かれた瞬間、
「うぉあああああ!!」
突如背後から蹴りを入れられたリュウ。
しかも扉の先は地面もない真っ暗な底だったのです。
「大丈夫、大丈夫、クローンならこの距離から落ちても平気。またね……兄さん」
読んで頂ければ幸いです。




